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妖鬼譚

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陸章 春嵐


――千歳千里は、己の勘という物に対して、絶対の信頼を置いている。
何故ならば答えは簡単、その勘が外れた事が永い生の中においてほぼ無かったからである。

そんな千歳が朝から白石の姿が見当たらない、という事に気が付いた時、背筋がチリつく様な感覚に襲われ、この嫌な予感が外れて欲しい、と心の底から願った。
だがしかし、夕方彼が酷く上機嫌な顔で何処からか帰って来たのを視界に入れた瞬間、その祈りが虚しい物であった事を悟り、つい深々と溜息を零してしまった。

「どうしたんや、千歳?そないに湿気た顔しよって」
「別に何でもなか。それより白石は随分機嫌が良さそうたいね、何か良い事でもあったと?」

予想は付いているのだが、念の為に質問を投げ掛けてみると、満面の笑みと共に想像通りの答えが返って来た。

「謙也に会うて来た」

やはり、と接触するなと言及したにも関わらず、それを無視した白石を注意しようとしたが幾ら言っても無駄だろうと思い、別の気になっていた事を口にする。

「謙也くん、白石の事、覚えとったと?」
「それが、何とも言えへんのや」

と、肩を竦めてみせた白石は、朝謙也と会った時の出来事を有りの儘に伝える。
それを黙って聞いていた千歳は、話が進むにつれて眉間に皺を寄せていく。そして、それが終わった処で先程とは全く意味合いの異なる溜息を零した。

「どうやらあの人間は、謙也くんで間違い無いみたいっちゃね。おめでとう、白石」
「ああ、おおきに。せやけど……」
「やけん、その謙也くんの記憶はほぼ完全に無いんも確かたい」
「せやな……」

元々存在しない記憶を引き出すという事は、中身が空の抽斗を引っ掻き回し続ける事と同じ様なものだ。無理矢理思い出そうとしても、千切れた記憶の糸の先にある物を手繰り寄せる事は出来ない。
そうやって脳に重度の負荷を掛けた結果は、耐え難い程の激しい頭痛という反動。

自分の目の前で『白石蔵ノ介』の存在を思い出そうとした結果、みるみるうちに蒼白になっていった顔面を歪めて崩れ落ちた謙也の姿が脳裏に甦り、白石は唇を強く噛む。

「――それで、白石はどうするつもりっちゃ?」
「記憶が魂が壊れとるんやったら、直せばええだけや。そうすれば、俺の謙也は必ず帰って来る」
「そうなると、嫌でもアイツらとまた関わる事になるとよ」
「そんなんお前に言われんでも分かっとる。せやから、謙也を取り戻す為にせなあかん事は、全部俺がやる」
「……阿呆な事言いなさんな」

と、千歳はそっと包み込むように優しく爪を立てる程に強く握っていた白石の左拳を取る。

「正直、俺はアイツらと関わるような面倒事はご免たい。ばってん、謙也くんを取り戻したいんは、俺も金ちゃんも同じ気持ちっちゃね」
「千歳……」
「一人より二人、二人より三人ばい」
「せやな、そんなら一刻も早く謙也の記憶を復活させたろな」

と、顔を見合わせた二人は、力強く頷き合って、仲間の奪還を誓ったのだった。


作品名:妖鬼譚 作家名:まさき