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妖鬼譚

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*****



「ふわ、あぁぁぁぁぁ……」

噛み殺し切れなかった大きな欠伸が口から飛び出す。
窓際の後ろから二番目という特等席には、外から気を誘って来るような麗らかな春の陽射しが降り注いで来る。
そんな昼休み直前の三限と四限の間の短い休み時間、謙也はうとうとと微睡みながら自分の胸元に手を伸ばす。

―ホンマにこれ、効果抜群やんな……

目立たぬ様に服の下に提げている銀鎖の先の緑の石をシャツ越しに掴みながら、そんな事を胸の内で呟く。
この『御守り』を白石から貰ってから今日迄の三日間、不思議な事に今迄ひっきりなしに続いていた鬼門の襲撃はまるで嘘だったかのようにピタリと止んでいた。
余りにも唐突過ぎる襲撃の停止に当たり前の事だが、光はまさかアンタが何かしたのか、と謙也を疑った。だがしかし、別れ際に約束した通り、謙也はどれだけ訊ねられても白石と会ったという事を誰にも言わなかった。

その襲撃が止んだ原因が分からないせいなのか、今朝会った時の光の顔は正に『不機嫌』という文字でしか表現出来ない物をしていた事を思い出した謙也は、ふと何事かを閃いたのか、意識を眠りの淵から引き上げると、ガタリと大きな音を立てて椅子から立ち上がった。そして。

「なあ、小石川」
「何やねん、急に立ち上がって……?」
「俺、次の授業、保健室行ってそんまま昼休みするんで、後宜しゅう頼むわ」
「おい、謙也、世界史苦手やからってサボんな!!」

と、叫ぶ後ろの席の友人の制止を軽く無視した謙也は、鞄の中から引っ張り出した弁当箱の包みと机の脇に掛けてあったコンビニのビニール袋を手に取ると、素早く教室を飛び出していったのだった。


*****


自ら称する『スピードスター』の名の通り、風の様な速さで授業が始まって静かな廊下を駆け抜けて謙也が向かったのは、二号館の屋上。
この時期、昼休みのみ生徒に解放されている、と言われている此処の扉が、実際は他の時間も開いている事がある、という事は意外と知られていない。
謙也が何故そんな事を知っているかというと、昨日それをある人物から聞いたからだった。

そんな訳で、この学校で一番空に近い場所へとやって来た謙也だったが、そこには先客がいた。
貯水槽の陰に隠れるように腰を降ろし、目蓋を伏せて密閉型の赤と黒のカラーリングのヘッドフォンで音楽を聞いていたのは、この数日ですっかり見慣れた観のある、此処がこの時間も開いている事を自分に偶々教えた黒髪の後輩。

「おったんは予想通りやけど、最近迄休学しとったんに授業サボるなんて、ホンマに神経太いやっちゃな……」
「誰が厚顔無恥やねん」
「わわわっ、ざ、財前ッ!?」

自分の独り言に反応が返って来た事に慌てる謙也に、ヘッドフォンを外して首へと下げた光の心底嫌そうな視線が突き刺さる。

「何で忍足先輩が此処におんねん……」

と、溜息を零した光に対し、何故か先程の様に今度は謙也が嫌そうな視線を光に向けた。

「財前、最初から言うとるけど、その『忍足先輩』ってんいい加減に止めへん?」
「へっ?」
「俺、苗字で呼ばれんの、さぶいぼ立つ位嫌やねん。せやからこれからは名前で呼んでや」
「……謙也先輩?」
「惜しい、もう一声」
「謙也、さん。」
「エクセレント!!」

と、満面の笑みを浮かべ右の親指を突き上げる謙也。
そんな小さな子供の様な反応を見せた謙也は、光の横に腰を下ろすと、改めて自分が勝手に自主休講している事を棚に上げて疑問を投げ掛ける。
作品名:妖鬼譚 作家名:まさき