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妖鬼譚

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本来ならば特に何の変哲も無い朝の部活動。
だが、今日は少しばかり変わった事があった。休学していた二年の生徒が一人、新たにテニス部に入部する事になったのである。
両の耳朶に幾つものピアスを付けたその黒髪の少年は、まだ仮入部であるという事で、今朝はベンチに座って四天宝寺の練習を興味深そうに見守っていた。

耳にあないにじゃらんじゃらん派手にピアスぶら下げて、随分と不良な生徒やんなぁ、と、ダッシュ練習をしながら、更に派手な自分の金髪を棚に上げて新しい後輩の事を考えていると、その少年は謙也に鋭い眼差しを向けて来た。かと思うと、ふいにベンチから立ち上がり、謙也の傍へと一直線にやって来る。そして。

「えぇと……名前なんてどうでもえぇわ。先輩、ちょお顔貸して下さい」
「えっ、ええぇっ!?」
「愚図愚図せんと、早よ来い言うとるやろが」

そうやって有無を言わせずに引っ張られて着いた先は、部室棟の裏手。因みに人気は全く存在しない。

――も、もしかしてホンマにこのピアス君、不良でカツアゲされるとか!?

と、強制的に此処迄連れて来られてパニックに陥りかけた謙也は、次の瞬間目を丸くして固まる事になる。何故ならば。

「アンタ、めっちゃ臭うわ」

と言うなり、少年が謙也の首筋に突き付けて来たのは、銀色に光る鋭い日本刀の切っ先。そのまま少しでも動いたら、その白銀の刃は間違い無く謙也の喉元にぐさりと突き刺さると思われる。

「なっ、何すんのやッ!?」
「しらばっくれてへんで、さっさと正体見せや」
「正体って何やねん!?俺はカツアゲなんかに屈したりせぇへんからな!!」

そう叫んだ謙也は、手にしている刀に負けず劣らず鋭い視線を向けてくる少年を睨み返してみせた。重苦しい沈黙が辺り一体を支配する。

「……何や、ちゃうんか」

先に視線を逸らした少年は、勝手に自己完結したのか、謙也の首に突き付けていた脇差を引くと、それをパチンと黒塗りの鞘に納めて肩を竦めてみせる。

「そないに臭うから、てっきり鬼門やと思ったんに……紛らわしいわ」
「臭う臭うって何がや!?」
「何って、アンタ、めっちゃ血の臭いがすんねん」
「はぁっ?」

咄嗟に自分の腕に鼻を寄せて匂いを嗅いでみるが、汗の臭いしか感じ取る事は出来ない。
と、そんな事をしている間に少年は何も言わずにさっさとその場から立ち去ってしまっていた。

「おいッ、何や知らんけど、変な言い掛かり付けた挙句に間違えたんやったら一言位詫び入れんかい、ドアホーッ!!」

角を曲がろうとする背中に向かってそう叫んだのだが、それに対する返事は何一つ無かったのだった。


作品名:妖鬼譚 作家名:まさき