妖鬼譚
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半泣きで謙也達の元から自分達の家へと帰って来た金太郎は、漸く立ち直ったらしい白石によって慰められていた。
「ホンマごめんな、白石……ワイ、『鬼切』めっちゃ怖いねん」
「金ちゃんは悪ないわ。前にあの刀で金ちゃんや俺は斬られてもうたんやから、怖なってもしゃあないわ」
「せやけど、ワイ、どうしても白石のトコにケンヤ連れて来たかったんに、出来んかった……」
と、悲しみで大きな瞳を潤ませる金太郎に対し、凹んでいる自分の為に、わざわざ謙也を連れて来ようとしてくれた気持ちが嬉しいんやから泣かないでや、と白石は彼の髪を優しく撫でる。
そんな処へ暢気な声が聞こえて来た。
「ただいま戻ったばい」
「……千歳、何処行ってたんや、お前?」
先程逃げられた事が余程腹立たしかったのか、白石は冷たい視線を向けたが、千歳に動じる気配は全く見えない。
「良か知らせば持って来たとよ」
そう言って、白石の怒りを受け流す様に薄く笑みを浮かべた千歳は、自分の持っていた藍色の袱紗の包みを彼へと手渡す。
「何やねん、これ?」
「自分で頼んだ物ば忘れたと?」
「……まさか、もう手に入れたんか!?」
と、中身が何か理解した白石が興奮気味に包みを開くと、その中から出て来たのは、七寸程の暗紅色の複雑な文様が刻まれた先端の鋭い棒状の石――それは、財前家の祠から消えた筈の鬼殺石だった。
「相変わらず仕事が早いやっちゃな」
「桔平は『この仕事は信用第一ばい』言うとったとよ」
「成程な。橘はホンマえぇ腕しとるわ」
白石は、排他的な鬼狩一族の手によって厳重に封印されている筈の品をこれほど早く入手した橘に改めて感謝すると、それを懐に大切そうに仕舞う。
そして、千歳と金太郎へと視線を向けると、二人は揃って大きく頷いてみせる。それを確認すると、゛酒呑童子゛は心からの歓喜の表情を浮かべた。そして。
「千歳、金ちゃん。俺の謙也を取り戻しに行くで」
そう力強く、そして高らかに宣言したのだった。