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妖鬼譚

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異聞 未来(前篇)


※玖章直後からの続きです。



金色の影は瞬時にこの場から消え去ってしまい、その代わりに寂しい風が立ち竦む二人の間を吹き抜ける。
余りに突然の謙也の失踪に、呪縛に掛かった様に何もする事が出来なかった二人は、揃って糸を断ち切られた操り人形の様にその場に崩れ落ちた。

「…ッ、謙也、さん……クソォッ」

まず我に返ったのは、傍にいながらも謙也がこの場からいなくなる事を止めらなかった光。
その事を悔んでカラリと刀を取り落とすと、堅く握り締めた拳を地面を乱暴に殴り付け、切れて血が流れてしまう程に強く唇を噛み締める。

「謙也ッ!?何処行ったん!?謙也謙也けんやけんやぁぁぁぁっ」

一方遅れて我を取り戻した白石はというと、呪を唱えて謙也の後を追おうとした。
だが、焦りの為かはたまた謙也が後を追わせまいと願った為なのか、追跡術を上手く発動する事が出来ず、酷く取り乱した表情で震える腕で頭を抱えて、髪を掻き毟る。
と、そこへ謙也と仲間を心配しながら戦っていた為なのか、戦いつつも徐々に奥の方へと場所を移動してきた鬼門と鬼狩の者達は、それぞれ自分の仲間が今迄一度も見た事が無い姿を曝している事に、驚愕の声を上げる。

「「白石!?」」「「光!?」」
「どうしたと、白石!?」
「光、光、どうしたのよ!?」

彼らは完全に戦闘を放棄すると、互いの仲間の傍へと駆け寄ってその名を呼ぶが、それに反応を返す事は無い。
だが、この場に謙也が居ない事に逸早く気付いた千歳は、何か致命的な事が起きた事を悟り、錯乱状態の白石の身体を抱え上げると傍らの金太郎に声を掛けた。

「金ちゃん、此処はひとまず退くとよ」
「分かった、ほな、行くで!!」

と、頷いた金太郎がパチリと指を鳴らすと同時に、三人の鬼門はこの場から瞬時に姿を消した。
だが、鬼狩達は逃走した鬼門には目もくれずに、自分の拳が傷付くのも構わずに地面を叩き付け続けている光へと必死に呼び掛ける。

「光、お前、どうしたんや!?つか、謙也が居らへんけど、何処行ったん!?」
「謙也さんが……」
「謙也君がどうしたの!?って、光、貴方、唇切れてるやない!!」
「……謙也さん、何で逃げんのや、あの阿呆。俺の言うた事、何で信じてくれへんのや……」
「ひ、かる?」
「お前、もしかして……怒ってるん、か?」
「絶対逃がさへん、例え地の果て迄やって追い掛けて捕まえたる!!」

俯いて小春とユウジの質問を無視するように独り言を呟いていた光だったが、唐突に顔を上げると、その場に転がっていた刀の柄へと手を伸ばし、目の前にあった二人の姿をそれぞれ見る。
その漆黒の瞳には、一瞬たじろいでしまう程の力強い意思の光が宿っていて、心配気に見守っていた二人は、怯んだように揃って一歩後ろに下がる。
そんな二人を、握り直した刀を鞘へ仕舞って勢い良くその場から立ち上がった光は、改めて一瞥すると、次の言葉と共に頭を下げた。

「小春先輩、ユウジ先輩、此処の後始末、悪いんですけど、頼みます!!」
「えっ、ちょっ……ど、何処行くんや、お前!?」

と、ユウジは頭を上げるなり立ち去ろうとする光を呼び止めるべく腕を伸ばすが、小春はそんなユウジを押し止めるとゆっくりと頷いてみせた。

「分かったわ、光。何があったか分からんけど、必ず謙也君を連れて帰ってくるのよ」

その言葉に力強く頷いてみせた光は、そのまま後ろを振り返る事無く駆け出していった。その小さくなっていく背中を黙って見送った小春とユウジは顔を見合わせると、示し合わせたかの様に苦笑を漏らし合った。

「光の奴が誰かの為にあない必死になる日が来るなんて、俺、思わんかったわ」
「……それもこれも全部愛、やね」
「せやなぁ……」
「さ、ユウ君、アタシ達もさっさと怪我人とかの把握しに行くわよ」
「その辺りは親父達に任せて、俺らも愛を……」
「阿呆な事言うなや、一氏ィッ!!」

と、小春に男前に凄まれてしまい、ユウジは涙目でさっさとこの場を後にした大好きな人の背中を追うのだった。

作品名:妖鬼譚 作家名:まさき