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妖鬼譚

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参章 既視感


――あかん、めっちゃ眠い……

朝靄がまだ煙る中、謙也は眠い目を擦りながら、テニスバッグを揺らして朝練へと向かっている。
その半分以上まだ活動していない脳裏を占めているのは、昨日の出来事。昨夜もそれについて延々と考えていた為に、睡眠時間は何時もの半分以下だった。

一晩過ぎた事であれは夢では無かったのかと、改めて思いたくなるが、携帯を開けて電話帳を確認すると、そこには確かに『財前光』の文字が輝いていて、寝不足の頭が更に痛くなった気がした。
それは、もし鬼門に襲われた時に自分がいなかった場合の保険と言う事で、光から教わった携帯の番号だった。

そんな携帯の画面に集中していて碌に前を見ていなかった謙也は、同じく足元を注視していて前方不注意だった物影と見事に正面衝突してしまった。

「うわぁぁっ!!」

謙也がぶつかった相手は、暗赤色の色の髪の小柄な少年。自分より二回り近く小さい体躯の少年に見事に吹っ飛ばされて、謙也は尻餅を付いてしまう。
まだ春先だというのに、豹柄のタンクトップにハーフパンツという見るからに寒そうな姿をしていた少年は、コンクリの上に座ったままの謙也の顔を見た瞬間、驚きに固まってしまった。が、すぐに縋る様な眼差しを送って話し掛けて来た。

「なあ、ケ……やない、兄ちゃん、青い紙袋、落ちてんの見かけてへん?ワイ、お使い頼まれとるんに無くしてしもてん……」

このままやと叱られてまう、と、少年は眉根を寄せて悲しげに呟く。余程使いを頼まれた者の叱責が恐ろしいのか、大きな瞳からは今にも涙が溢れ出しそうだ。
その庇護欲を掻き立てるような表情に、元々面倒見が良い謙也はこれは放っておけぬ、と笑みを浮かべて少年の頭を優しく撫でた。

「坊、男が簡単に諦めたらあかんで。俺も探したるから、頑張ろうや、な?」
「えっ、ホンマに探してくれるん?兄ちゃん、おおきに!!」

今泣いた烏がもう笑う、と言うように、少年の顔には笑顔が戻る。その無邪気な笑みに、これは絶対探したらんとあかんな、と軽く頬を叩いて気合いを入れたのだった。



*****



少年が無くした紙袋を見付けたのは、二人で探し始めてから五分程度の事だった。
電柱の陰にひっそりと隠れるように落ちていた青い包みを掲げて、謙也は少し離れた所を探している少年に呼び掛けた。

「坊、見付けたで、これやろ?」
「ケンヤ、見付けてくれておおきに!!」
「金ちゃんの為やったら、この程度、楽勝っちゅー話や」

――……ん?

弾けるような笑みを浮かべた少年の手に紙袋を握らせてやりながら、謙也は自分の発言に引っ掛かりを覚えたのか、首を傾げてみせる。
その違和感に気付いたのは、少年も同じだったようで、大きな瞳を更に丸くするとあれだけ必死に探していた筈の手にしていた袋を投げ捨てて、謙也の体に飛び付いた。

「ケンヤ、ワイの事、覚えてるん!?」

力任せに抱き付かれ……と言うよりも腹を絞め上げられ、目を白黒させながらも謙也は何とか状況を分析しようとしていた。

確かに自分は彼とぶつかってから今迄の間、お互いに名乗った記憶は無い。それなのにも関わらず、この少年は迷う事なく自分の名を二度も呼んでいた。
そして自分もまた、彼の名前らしき物をさらりと口にしている。
――分からない、幾ら考えてもこの答えは出て来そうにない。

「えっと……なぁ、坊。お前、名前何て言うんや?」
「遠山金太郎やって。覚えとるんに何言ってんねん」

とおやまきんたろう、と脳内で今告げられた名をゆっくりと反芻してみる。
初めて聞く名前の筈なのに、何処か聞き覚えがあるような、懐かしいような。
そんな不思議な感覚の正体を掴めずに眉間に皺を寄せて悩んでいると、背後から新たに声が掛けられた。

「金ちゃん、何しとるとよ?」
「あっ、千歳!!」

パッと謙也から離れた金太郎は、その声の主の元へと駆け寄る。
新たに現れた日本人の平均身長を遥かに越えた規格外の背丈に波打つ黒髪を持った青年は、穏やかな笑みを浮かべて金太郎を咎めてみせる。

「中々戻って来る気配が無いから、白石が心配しとっ……」
「千歳、千歳ッ、聞いてや!!ケンヤがおったんや!!でもって、ワイの事ちゃんと覚えててくれたんや!!」

と、言葉を遮られた青年は、金太郎に絞められた腹部を擦っている謙也を視界に捕らえた瞬間、柔和な顔に驚愕の表情を浮かべた。
が、それをすぐに消すと、ピョンピョン跳ねている金太郎の頭を撫でて言い聞かせるように小さな声で話し掛けた。
作品名:妖鬼譚 作家名:まさき