二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

僕のmonster

INDEX|5ページ/6ページ|

次のページ前のページ
 

「あのですね、静ちゃ・・・静雄さん。逃げませんから、そう睨まないでください。怖いです」
あれからやってきたセルティに回収された二人は、そのまま新羅宅の一室を借りて向かい合っていた。
1cmの身じろぎでも見逃さないとでも言うような視線は、いかな吸血鬼の帝人でも怖い。正直に伝えれば、若干緩くなったが、それでも静雄は瞬き一つせず帝人を見つめている。その姿にどこか必死さが垣間見え、帝人は苦笑しながらも、同じように見つめ返す。
金色の髪。シャープになった顔つき。端正な横顔。細身なのに、服を着ててもわかる鍛えられた肉体。低い声。広い肩幅に、大きな背中。(成人しているとは思っていたけれど、・・・・ここまでとは)ほんと人間の成長っぷりには目を見張ると帝人は思った。
「久しぶりですねぇ。元気にして・・・・なかったら、自販機は飛ばないか」
「・・・何時から、ここに居たんだ」
「池袋にですか?んーと、今年の春からです。セルティに誘われてきました」
「セルティに?」
「ええ。僕とセルティは友達なんです」
確か貴方も友人なんですよね。いやあ、世間って狭い狭い。と帝人は笑うと、ズンッと空気が重くなった。発信源は言わずもがな。
「・・・・何で、会いにきてくれなかった」
低い男の声なのに、何故か記憶にある幼い声と重なり、帝人は思わず苦笑した。
「まさか静ちゃ・・・静雄さんが同じ池袋に居るとは思わなかったんです」
「噂ぐらい聞いただろ」
「聞いたような聞かないような」
「んだよ、それ・・・・」
大の男が本気で落ち込む姿はシュールのはずなのに、彼の場合はご主人様に放っておかれた大型犬のように見えるのが不思議だ。帝人は「ごめんなさいねぇ」と金色の髪を無造作に撫ぜる。
「言い訳ではないんですけど、僕らと貴方達人間では時間の流れに対する感覚は違うんです。静雄さんにとって長かった時間も、僕には瞬きをしたぐらいにしか感じない」
人間の世界で生きて長いくせに、帝人はやはり吸血鬼という化け物だから、時間の流れを、限られた生を理解することができないのだ。人がこんなにも早く成長し、そして消えていくのを何度も見ていたはずなのに。
連れて行けとしがみ付いた小さな子供が、今は帝人の背をゆうに超え、大人という姿になって目の前に在る。子供らしさのすっかり抜けた頬を帝人の白い手が包み込む。蒼の眸を薄茶色の眸が焦がれるように見つめた。

「大人になったんですね、静雄さん」

ふわりと微笑む帝人に、静雄は軽く舌打ちしたかと思うと、一気に引き寄せその華奢な身体を腕の中へと抱き込んだ。ぎしり、と骨が軋むほど強く。

「それでもっ、・・・あんたにとっては短くても、俺には途方もねぇくらい長かったんだ・・・。くそっ・・・腹が立つけどよ・・・俺はあんたを、一度として忘れたことはなかった・・・・忘れられなかったんだ・・・」


(会いたかった)


あの言葉に込められた長い長い時間。やはり帝人には理解できないことで、正直その時間を奪ってしまったことに罪悪感を覚えたりするけれど。(逃がしてあげたかったんだけどなぁ)出会いと別れを繰り返して麻痺していた心が素直に嬉しいと感じてしまったことを、帝人は(まるで人間のようだ)と唇に苦い笑みを敷く。
「・・・静雄さん、少し腕緩めてもらえませんか」
「・・・・・嫌だ」
「少しですよ、少し。このままだと抱きしめ返してあげられないんです」
「っ、」
僅かな逡巡の後、本当に少しだけ緩められた力から腕を引き抜き、大きくなった背中を包むように回した。回りきれない腕にまた成長を実感する。
「本当に大きくなりましたね」
「・・・あんたは変わらないな」
「化け物ですから」
落とした言葉にまた腕の力が強くなる。(そういえばこの子、化け物ってこと気にしてたなぁ。僕はその通りだからついつい言っちゃうけど、この子の前だとあまり言わないほうがいいかな)とつらつら考えていると、しばらく押し黙っていた静雄がぽつりと「約束」と零す。
「なあ、約束覚えてっか?」
「約束?・・・・ああ、約束」


(きみがもし大人になっても、僕を忘れずにいたら)


「『連れて行ってあげる』って、あんた言っただろ」
「そうでしたねぇ・・・・」
「俺、忘れなかったぞ」
「うん」
「覚えてたぞ」
「うん」
「今まで放っておいた分、約束守れ」


俺を、連れて行け。
(ずっとずっとお前の傍に)



本当に人間というものは実に興味深い。どんなに長く生きて人間の世界を流れるように見ていても、彼らは常に帝人を驚かせ、そして喜ばせる。だから帝人はここに居るのだ。
「そうですねぇ」
上にある端正な顔をじっと見つめる。懇願の色を載せた薄茶の眸を愛おしげに見つめながら、帝人は鮮やかに笑った。





「あと、十年くらい待ってみません?」





本当に色々と台無しである。
作品名:僕のmonster 作家名:いの