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悪意在ル私的見解

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 とは、口の悪い相方の弁だがこれは仕方がないというものだ。
 惚れてるのだからしょうがない。
 いつの間に好きになっていたのか判らなければ、いつの間にバレていたのかも判らない。情けないことながら、きっと知らずの内に表に出ていたのだろう。以降、何かと試される立場になっている。
 主に、忍耐力とか。
「あー…、跡部のヤツ、急に下痢とかになって部活休まねえかな…………」
 どうやら少し気が逸れている間に、話題は不穏な方向へと歩き出したようだ。
「バァカ。それでも部活はあるんだから意味ねえだろ」
「甘いな。宍戸は跡部を読み切れてねえ。あのサディスト、絶対自分がいない時にはしごかないね。アレはおれ達の苦しんでる顔が見たくてやってる趣味だから。思い出せよ、しごいてる時のヤツの晴れやかな顔!」
 憎々しげに促す岳人につられて、彼の云う『晴れやかな顔』を思い出しているらしく、宍戸と鳳は暫し無言だった。
 散々な云われようだが、哀しいことにそれらは事実であり否定できる要素がどこにも見当たらない。
「くそっ、じゃ今から待ち伏せて仕掛けるか?」
 極めてシンプルな思考回路をしている宍戸は、混乱のあまり極論を通り越して暴論とも思える提案を口走った。
「そんなことしてみろよ、相手は跡部だけじゃなくて樺地もいるんだぜ。あいつ相手にどうしろっていうんだよ」
 こちらも激しい動揺で、宍戸に反論するだけでいっぱいいっぱいのようだ。恐らく今の二人には、鳳の「もう諦めましょう……」というささやかな声は聞こえてはいない。
「んじゃ、このまま死ねって云うのか?何もしないで大人しく殺られろってのかよっ!」
 これは一体どんな状況で発せられるセリフなのだろうか。少なくとも学校の部活練習を巡る会話ではない。
 次第に宍戸と岳人の会話は、自分と鳳を残して更に盛り上がりを見せ始めた。いい加減観念したらいいのに、とは思うが、そう簡単に諦められるのであれば十四年間も『岳人』と『宍戸』をやってはいない。しかしだからといってこの単純さはどうか。
「だからって、無闇に襲っても返り討ちにあうだけじゃん!」
「んじゃどうしろってんだよっ」
 二人の無謀な策略は更にエスカレートしそうになった、その時、
「いい加減にしねえかてめぇらっ!もう部活は始まってんだぞ」
 酷く耳慣れた怒鳴り声。
その声が耳を打った瞬間、冷却されたかのように身体が固まった。
 いつの間に来ていたのかとか、今の会話を聞かれていたのだろうか、などが頭の中で駆け巡る。確認したいことは山とあるが、取り合えず今一番痛感したことは、
(とばっちりはごめんや)
 だった。聞かれたら岳人辺りには殴られそうだが、そう考えてしまうことは仕方がないというものだ。人として。
(ひとまず釈明せな)
 そんな人でなしな算段をしつつ、覚悟を決めて振り返ると、そこには恐ろしくも麗しき部長様ではなく、
「えへへー。そんな驚くほど似てた?」
 と、至って暢気に笑う慈郎がいた。
「ジ、ジロー……」
 へなへなと宍戸と岳人が座り込む。鳳も詰めていた息を深々と吐き出し、こちらも踊りだした心臓を宥めるのに手一杯だ。
「脅かすなよジロー。寿命が二十年は縮んだぞ」
 心底安堵したのだろう、座り込んだまま力なく宍戸がぼやいた。
「えっ、大変じゃん宍戸!今すぐ死んじゃうだなんて」
「何でだよっ」
 それでも慈郎のボケに突っ込む気力は残っていたらしく、その勢いで立ち上がった。
「そんなことより、早く練習始めないとほんとの跡部のカミナリが落ちるよ」
「跡部、もう来てんの?」
 岳人が咳き込むように尋ねる。
「おれ達のメニュー貰ってきた。跡部は一、二年の指導だって」
「クソクソ跡部のやつ、また自分だけサボるつもりかよ」
 のほほんとした慈郎と対照的な岳人が可哀想に見えたので、頭を撫でて宥めてやる。
「岳人、男は引き際が肝心やで」
 云いつつ、慈郎からメニューを取り上げ眼を通す。
「そうそう、むしろ今日はおれに感謝してほしいよ」
「なんでジローに感謝しなきゃなんないんだよ」
 胡乱気に眺める岳人に、慈郎は胸を張りがなら、
「だっておれが跡部に後輩の指導勧めてなきゃ、今日のメニュー全部跡部と競うところだったんだから」
 そう云ってにっこりと笑った。
「はあ?何云ってんだよお前」
「…………や、これはほんまにジローのお手柄やで」
「なんだよ、侑士まで。それに何が書いてあるんだよ」
 横合いから紙を奪われる。見ない方が幸せだと思うがもう遅い。
「な、何だよ、これっ!」
 絶句。その言葉を身を持って体験することになるとは思いもしなかった。その紙には、未だかつてないほどの厳しい練習事項がしたためられていたのである。
 メニューは全部で三種。

① フルサーキット 五セット
② 試合形式ラリー 二セット
  ※ただし三セットマッチのリーグ戦とする。
③ 外周を二周して終了
  ※制限時間三十分。
尚、最後の外周走で三十分以上かかった者に対しては、ペナルティーを用意している。

「あ、ありえねえ…………」
 そう呟いたのは誰だったのか。予想以上の量と質に眩暈を覚えたのは自分だけじゃないはず。
 まず最初のフルサーキット。これは持久力増強のために複数の種目を組み合わせた氷帝オリジナルのメニューで、手始めに外を一周走り、コートに戻ってストレッチ――各三十回三セット――、五十Mダッシュ五本、これらをすべて一通りこなしてワンセット。しかし今日はこれを五セットとあるため、五回も繰り返さなくてはならない。因みに氷帝学園の外周は凡そ五キロほどあり、本日走る総距離はざっと三十五キロになる。
「…………オレ等、テニス部員じゃなかったっけ?」
 呆然と宍戸が呟いた。鳳ですらあまりのことに言葉もない。
 そんな絶望感を味わっている彼等に、慈郎は無邪気に追い討ちをかけた。
「云っとくけど、それ跡部も参加してたら最後のペナルティーは、跡部に負けた人全員させられることになってたんだよ」
「そのペナルティーってのはなんやねん」
「洩れなく下校時に監督とデート」
 今ひとつ状況が見えていないのかそれともわざとなのか、やはり慈郎がのんびりと答える。しかし告げられた内容は暢気さとは程遠い代物で、本日最高の衝撃が走った。
「オ、オレ今日すげえ調子いいんだよな。三十分なんて軽いぜ」
「おおおおおれだって宍戸より十倍元気なんだからもっと良い記録だしてみせるっ」
「じ、自分も負けません!」
 三人揃って我先にと走り始めた。焦る気持ちも判るがペナルティーは最後の外周走にかかっているのだから、今急いでもあまり意味があるとは思えない。しかしせっかちな三人はすでに遠く、自ら自滅への一途を辿っていた。
「最後の最後で罰ゲームなんて、ほんま性格悪いわ」
 三人を遠い眼で見送って溜息を一つ。さすがに悪態の一つも吐いたって構わないだろう。
「跡部、なんか云うとった?」
 どんな時でもマイペースな慈郎は、やはりゆっくりとした口調で簡潔に跡部の様子を伝えた。
「すっごい満面の笑顔だったよ。楽しくて楽しくてしょうがないって感じだった。ああいう処、跡部って凄く可愛いよねえ」
 ほっこり笑顔で締め括る。
作品名:悪意在ル私的見解 作家名:桜井透子