キリングミーソフトリィ
私は立ち上がり、私とそして何よりもあの方を愚弄するこの薄汚い吸血鬼にせめて一撃を食らわそうとし、演説の小休止として煙を吐き出すよりも造作なく打ちのめされ、彼の靴の底で髪をカーペットに固定されながら続きを聞いた。そう焦るな、まだ続きは長い、という言葉が上から降ってくる。
そう急くな、君のためでもあるんだ。
よく考えたまえ、君はもう自分を騙すのに限界だったはずだ。
君はザトーを神聖視しすぎていた。
あのつまらぬ男に夢と理想を託しすぎていた。
君が「この世の誰もが彼のある一面を自分に都合のいいように歪めて見ている」と言うなら君だってそうだ、いや、間違いなく君がそうだ。
このくだらない演説がとてもお気に召しているらしい、吸血鬼はうまそうに煙を吐いてまた続けた。
君は君のためにザトーを愛した。
君は君を価値のある人間だと思いたくて、もしくはそうなりたくて? つまらぬ男と知っていながらザトーを利用した。
彼の役に立つことで自分に価値が生まれると思っていたのか? 彼が感謝の心など知らぬ厚かましい男だったのは君にとっても好都合だったのだろう。君は彼に認められるために働く。彼が君を認めてしまったらそこで君は終わりだ。君は決してたどりつけないゴールがほしかった。ザトーはおあつらえむきの男だ。君は君のためにザトーを利用した。かいがいしくあの男の世話を焼くことで自分の「存在していい場所」を作り、君の信頼と愛情に応えない相手に尽くすことで君の望む「辿りつけないゴール」を手にいれた。君はミリアを憎んでいたというはそれはただのふりだろう。
君にミリアは必要だった。君は君のために全てをしつらえた。自分がいないと立ち行かない男、そして自分がその男の関心を引きすぎないように美しい女も用意した。女がいればああいった男の目がそちらにいくのは当然だからな。
君はあらゆる意味でザトーに応えてほしくなかった。君は臆病だ。君は自分の居心地のいい場所に安住するために今の状況を作った。
ザトーが死んで嬉しいだろう?
あの男は君の望んだ通りの愚鈍な人間だったが、悲しいことに君の思う以上に愚かだった。君がどんなにがんばって目をつぶっても彼の愚かさはどんどんとあらわになっていった。
死んでくれてよかっただろう? これからあの男は君の中で美しくなってゆくしかない。
作品名:キリングミーソフトリィ 作家名:もりなが