逃れられない理
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この臨也さんの病院に来て、2年がたった。僕の病は確実に僕の体をむしばんでいる。
刻一刻と僕の命の残量はすり減っていくのが自分でも解った。
「またそんな暗い顔をしているね」
新羅先生が苦笑しながら、はかった体温計をしまいながらだめだよ?と助言をくれた。
「心で負けていては体は決して勝てない。だからそんな顔をしてはだめだ。いいね帝人くん」
僕は先生の励ましに、ありがとうとごめんなさい、そして解りましたの意味を込めて首を振る。
けれど、もう僕の体はそれほど動かなくなっていたので若干目を伏せた感じになってしまっているのだが。
「よし!良い子だ!それじゃあ僕はこの辺で失敬するよ。何かあったらナースコールしてね」
新羅先生は僕の前髪をなでると、またねと手を振りながら病室を出て行った。
僕は窓の外からのぞく庭園をのぞき見る。今の季節は冬のためか、庭園にいる人など一人もいなかった。
(この病院でも、冬は寂しいんだよね・・・)
いつもは賑やかな病院も、冬になると一変して静寂さがあたりを包み込むようになった。正臣は半年前に退院しており、時々見舞いに来てくれるが冬の時期は風邪の患者が増えるために親から行くな、と言われているらしい。
(・・・臨也さんも忙しいらしいし・・・)
臨也さんほどの名医には休み時間など無いらしく、特に冬の時期は引っ張りだこなのだ。
時々会いに来てくれるが、すぐに看護師や看護婦に呼ばれて姿を消してしまう。
(ちゃんと休んでいるのかな・・・)
彼が疲れた顔を見せないのにも不安だ。いったいいつ彼は休息をとっているのか。倒れるのではないかと、不安になる。
(まぁ、僕が気にしてもどうしようもないんだけど・・・)
この頃の僕はよく臨也さんのことを考えている時間がとても多くなったと思う。そしてその分、生きたいとも思うようになった。けれど反比例するかのように僕の体はどんどん悪い方向へと向かって行っている。
げほっげほっげほっ、と苦しい咳を吐く度に生理的な涙が視界を揺らす。
(臨也さん・・・会いたいです・・・・)
自分の命が残りわずかだと思うからだろうか。ほんの少しでも、1分でもかまわない。彼に会いたかった。