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君という花

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三、お兄様のお友達と腕いっぱいの贈り物と巨大うさちゃんと、地獄


 日曜日の昼下がりのことだった。暇を持て余していたアイスランドが、読みかけの本でも読もうかと腰を上げたところに呼び鈴が鳴った。僕が出るよと声をかけ、インターフォンで来客を確かめる。よく知った人間の来客に彼女は顔をしかめ、扉の鍵を開ける。
「おうアイス、久しぶりだっぺ!」
「ダン……なにそのでっかいの!」
 やたらやかましくて無駄にテンション高くてうざい、兄の友人が訪ねてきた。また兄を連れ出しにきたのだろうと、何の気なしにドアを開けた彼女は思わず声を上げる。
 異様な物体が、そこにあった。インターフォンの小さなカメラ越しじゃ、この男の顔しか映っていなかったから気づかなかったのだ。
 デンマークが片腕いっぱいに巨大なビニールの包みを抱えていた。申し訳程度に結ばれた赤いリボンから、かろうじて贈り物なのだろうと分かる。半透明のビニールをかぶったそれは、街のおもちゃ屋のすみっこでホコリをかぶって鎮座していそうな、巨大なうさぎのぬいぐるみだった。
「う、うさぎ?」
「めんげぇだろう。おめぇの進学祝いだっぺ」
「えっ」
 ほれ、と薄いピンク色した巨大うさちゃんを突き出されて、反射的に受け取ってしまってからアイスランドは後悔した。その予想以上の重量にたたらを踏む。上背のあるデンマークをして、やっとのことで運んでこられたくらいなのだ、小柄な少女には大きすぎた。
「やがまし声が聞こえっと思ったら」
「ノーレ!……うわぁっ!」
「でぇじけアイス?」
「なんとか」
 リビングから出てきた兄に気を取られて、アイスランドは身体のバランスを崩しそうになる。アイスランドはひとまず、どさりとうさちゃんを床に下ろした。
「来たっぺ親友!俺が一番乗りみてぇだな!」
「黙れあんこうざい」
 いつも通り騒々しい兄たちを横目にため息をつく。確かに可愛らしいけども。成人したごつい男が巨大うさちゃんを買い求めている姿をうっかり想像して、アイスランドはげんなりとした。いったいどんな顔して――いや、この男、デンマークならいつも通りの傍迷惑なテンションで至極普通にぬいぐるみを購入し、あまつさえラッピングまで要求したことだろう。
 アイスランドにもたれて座るうさぎのぬいぐるみ。ふと、見覚えがある気がした。もう中学生にもなればおもちゃ屋なんて行かないし、どこで見たんだろうと首をかしげ。
「あ」――兄の部屋で、見たのだ。
「見覚えがあると思ったらこのうさぎ」
 どんな会話になったのか、ノルウェーに首根っこをつかまれてがっくんがっくん揺さぶられていたデンマークは、にっと笑う。
「おう、おめぇの兄貴にもやったやつだっぺ。同じシリーズのやつなんだと」
 ノルウェーの部屋の中でもひときわ存在感を放っているのが、アイスランドがもらったうさぎによく似た姿かたちをした、ベージュ色のうさぎである。部屋に入るたびに気になってはいたのだが、ようやく分かった。この男の贈り物か。いったいどんなチョイスだ。
「何でもいいけどさ。じゃ、僕は部屋に戻るから」
「ひとりで行けっか?」
「ほれ、言うわんこっちゃねぇ!」
 アイスランドはもう一度うさぎの腕を持って肩に担ぎ上げる。よろけた彼女にデンマークとノルウェーが慌てて腕を伸ばす。彼らよりも先に、彼女の身体は後ろから支えられた。
「玄関先で何やっとる」
「うわぁ、アイスくんにも贈ったんですね、あのうさちゃん」
 振り返れば、とがった顎に目つきの鋭い男と、人のよさそうな青年――スウェーデンとフィンランドがいた。デンマークだけでなく彼らも訪ねてくる予定だったのか。スウェーデンはアイスランドからぬいぐるみを引き取ると、「上がるなぃ」と断って家の中に入っていく。
「いいよスヴィー、僕が自分で……!」
「スヴェーリエに手伝ってもらえ。おめぇじゃ階段転がり落ちてきそうだっぺ」
「そんなでっかいブツを寄越したのはどいつだべ、このほんずなしが」
 ノルウェーはごつんとうさぎの贈り主を小突く。苦笑していたフィンランドは、「僕はこれ。中学卒業と高校進学おめでとう」とアイスランドに、紙袋に入った包みを手渡す。うさぎを軽々と担いでいたスウェーデンがリビングの前で立ち止まり、「フィン、」と目線で何かをうながしている。
「もうスーさんったら、せっかく買ったんだから自分から渡せばいいのに!」
「今手が離せねんだ、渡してやってくんねが」
「はいはい」
「なに?」
 ほんのりと、スウェーデンの頬が赤いような。フィンランドはくすくす笑いながら、傍らに置いていた、もう一つの紙袋から中身を取り出す。
「で、こっちはスーさんから」
「わぁ……」
 透明のセロファンと細いリボンで包まれた、プリザーブド・フラワーだった。華やかな色合いに、花にはさほど興味がないアイスランドも思わず見入る。
「さすがはスヴェーリエ、デリカシーのねぇどこかの馬鹿とは大違いだべ」
「そうけ?めんげぇだろ、あのうさぎも」
「可愛けりゃいいってもんでもないでしょ」
 呆れ口調のアイスランドだが、「でもまぁ、うさぎに罪はないわけだし。もらってあげる。……あ、ありがと」とぼそぼそ礼を言うと、晴れやかにデンマークは笑う。
「おう!……これで全員そろったな。んじゃ、買い出しにいくっぺ」
「仕切んなあんこ」
「まあまあ。僕たちはアイスくんと留守番してますから、ノルくんとターさん、よろしくお願いします」
「悪ぃな。行くべあんこ、おめぇが車出せ」
 「共同作業だっぺな、親友!」「おめぇ一人で行かせられっか、飲兵衛に任せてっと酒しか買ってこねぇかんなぁ」とふたりは連れ立って出かけていく。
「って、え?」
 ちょっと待って、とアイスランドが兄たちを呼びとめる前に玄関の扉は閉まった。
「ん?」
「フィンとスヴィーと留守番?僕も?」
「え?」
 フィンランドとふたり、顔を見合わせる。
「もしかして、アイスくん聞いてないの?」
「なにが。僕の進学祝い持ってきて、それから四人で出かけるんじゃないの?」
「えっ、まさかノルウェーさん、肝心のアイスくんに言ってなかったの?!」
「だから何が!なんにも聞いてないよ!」

 ――ありえない!ありえない、意味わかんない!
 アイスランドはふくれっつらをしながら、手渡されたりんごジュース(すりおろし果実入り)のプルトップを勢いよく開ける。向かいの席でしれっと缶ビールを袋から出しているノルウェーをにらんでも、「どうせおめぇ、暇してたろ?」と悪びれもなく返されるだけ。
 ――その通りですけど!兄は腹立つくらい自分のスケジュールを熟知してますけど!でも今日の主役のはずの自分がなんにも知らされてないってどういうことだ!
「ごめんねアイスくん!ほら、アイスくんの好きそうなもの、いろいろ買ってきてもらったから!ね!」
「好きなだけ食いねぃ。足りねがったら、また買ってくっから」
 フィンランドとスウェーデン、双方向から宥められて、アイスランドは拗ねたように口をへの字に結んだ。このひとたち相手じゃあ、八当たりするわけにもいかない。
「おめぇら、酒は行き渡ったかー?あ、アイスはまだジュースで我慢なー」
作品名:君という花 作家名:美緒