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ぎとぎとチキン
ぎとぎとチキン
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なんでもない日に

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臨也がすっかり部屋を綺麗にして、洗濯物をしまい終わり、お風呂も掃除して水を溜め、冷蔵庫に残っていた賞味期限が切れているものを処分して、今日買ってきたものを冷蔵庫にしまい、更に料理を作っている所で、匂いでも漂ってきて空腹に気付いたのか、寝室の帝人がもそもそ起きだしてきた。

「いざや、さん…。」
「おはよーって言っても、もうこんばんはだけどね。もうすぐ出来るから、座って待ってて。」

帝人はまだ寝ぼけているのか、掠れた声で臨也の名前を呟いたが、臨也の言葉に素直に従って、リビングの椅子に腰かける。
そうして、ぼーっと調理する臨也を眺めていた。
臨也は途中だった調理を手早く終わらせると、皿に盛ってことんと帝人の前に置いた。
本日のメニューは胃に優しく、だしで煮た卵雑炊、鶏胸肉とねぎの白煮、人参の和風スープの三品である。
以前持参した圧力鍋で煮た白煮は特に自信作だ。
帝人は出された料理と目の前に座る臨也を交互に見てから、箸を持った。

「…いただきます。」
「どうぞ召し上がれ。」

もそもそと食べ始める帝人を見て、臨也は自分の分に手をつけた。
ちらりと帝人を伺えば、どこか幸せそうにねぎを頬張っている。
帝人は別に、食べ物に興味が無いわけでも、美味しいものが嫌いな訳でもない。
ただ単に、お腹が減ったという事実と、用意やら何やらの手間をてんびんにかけて、食べるのが面倒という結論に至るだけだ。
料理だって、昔は一人暮らしをしていた事もあり、出来ない事も無い。
現に今だって、友人や取引先が訪ねてきたら、自分でお茶をいれたりもする。
まあそれは単に外面が良いというだけではあるが、同じように洗濯だって掃除だって、実は何だって出来る。(得意、という訳ではない)
しかし、やっぱり、億劫なのだ。

(まあでも、昔から料理は焼くだけ煮るだけというより、チンするだけ、だったよね)

臨也は別に面倒見が良い訳でもないし、誰にでもこのように甲斐甲斐しい訳ではない。
基本的に器用なので何でも出来るが、何でもしたいわけではない。
帝人だけ、だ。
帝人はその事に気付いていたし、臨也だって知っている。
臨也と帝人の間には昔複雑な事がアレコレあって、それでも10年以上経った今も、一緒に居た。
帝人はプログラマーになり、臨也は未だ情報屋ではあるが、昔の様に人を盤上に乗せる事は無くなった。
それでもなお。お互いに理由がなくなった今もなお、一緒に居るのは。

「ごちそうさまでした。」
「お粗末さまでした。」

食べ終わった帝人にお茶を出して、それをにこにこと眺める。
帝人はゆっくりお茶を飲んで、それからようやくパチリ、不思議そうに眼を瞬かせた。

「あれ、臨也さん、いつ来たんですか?」
「昼前には来たよ。というか俺の作ったご飯まで食べておいて、気付くの今なんだー。」
「えと、すみません。」
「ん、許す。ていうか別に怒ってる訳じゃないけど。仕事、終わったの。」
「はい、ええと、多分、朝方。」
「納期まで時間あるのに、限界までやっちゃうの、悪い癖だよ。もう帝人君も三十路越えしたんだから、無理しちゃダメだよー。まあ、見えないけど。未だに高校生に見えるけど。」
「高校生は無いですよ。臨也さんだって四十路に見えませんよ。」
「四十路とか言わないで、俺永遠の21歳だから。」
「ジム通って体型維持して、化粧水とかパックでケアまでしてるなんて、僕には真似出来ません。そんけーします。」
「…………それどこ情報。」
「秘密です。」

くすくす笑う帝人に、臨也はふてくされた様に唇を尖らす。
とても、40を超えた大人には見えない。
帝人はそんな臨也を放って、ソファまで移動する。
臨也はテーブルの上の皿を片付けてから、ソファに座る帝人の膝に勝手に頭を乗せて寝転がった。

「食べてすぐ寝ると、牛になりますよ。」
「あとで運動するから大丈夫!」
「………僕、徹夜明けなんですけど。」
「すぐに分かってくれる君が好きだよ!愛してる!」
「ああそうですか…。」

膝の上でごろんごろん転がる臨也に、帝人は溜息一つで諦めた。
言って聞かないのは、昔からだ。
臨也は転がるのをやめると、人差し指を帝人の顔の近くで振って、大体、と先程の話を続けた。

「40越えて未だに体力底なしで馬鹿力、肌だって昔と変わらないとか、そんなのありえない!」
「ああ、静雄さん…変わりませんよね。」
「そりゃ昔よりキレにくくなったけどさー、ていうか帝人君も人の事言えないよ。紀田君はちゃんと年相応に見えるようになったのにさあ、もう帝人君連れてると俺、父親に見られるんだけど。」
「あはは、あなたが父親とか、きついです。」
「君の言葉がきついよ…。」
「あ、でも青葉君とか、結構若いですよ?」
「それでも大学生には見えるからね!帝人君は高校生!ここ重要!…ああでも、中学生じゃないだけましか…。」
「刺されたいならボールペン持ってきて下さい。」
「せめてそこは自分で持ってこようよ。」

帝人はくるくる動いてくる臨也の手をどかして、テレビのリモコンに手を伸ばす。
無駄に大きいテレビは、臨也が映画鑑賞をしようと買い与えたものだ。
テレビをつけてみたものの、特に見たい番組がある訳ではない。
なんとはなしについた番組は旅番組で、温泉を特集していた。

「温泉、いいですね。」
「行く?」
「いやぁ…、」
「そうだよねー歩いて5分のコンビニも面倒…というか部屋の中の移動だって面倒がるくらいだもんねー。」
「………トイレとかは、面倒じゃないですよ。」
「生理現象だからね。」