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双方向インプリンティング【俺にとっての君】

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 臨也はてっちゃん、もといテツに対する情報を脳内でまとめる。耳には入っていたが苛立ちが大きくて性別を自分で突き止められなかったのが負けた気分で臨也は考えずにいた。
 彼女は先月亡くなった一郎の妻であったらしい。
 夫を亡くして急に痴呆の症状が進む。よくある話。何を間違ったのか臨也を夫だと思ったらしくて一ヶ月間祖母を困らせていたようだ。
 帝人にその話が届いたのか直接交流があったのかは知らない。
 ただ一つわかることは臨也と帝人が初めて会った日に彼女、テツもその場にいたという事だけ。
 これは臨也の記憶に強く刻まれている。
 帝人のことを抱いてみるかと渡してきたのは彼女だった。妹が生まれても兄としての自覚が芽生えていなかった臨也に重い荷物を渡してきた性別不明の祖母の友人、遠い血縁。
「俺は感動を忘れていたんだ」
「かんどう?」
「帝人君。木登り疲れただろう? 寝ていいよ」
 ぐずるようなむずがる仕草で帝人は臨也に絡みつく腕を強くする。
「お兄ちゃんもう帰る?」
「さみしい?」
「お兄ちゃん一人でお空行くから」
「行かないよ。大丈夫。ずっと一緒だよ」
 むくれる帝人の背中をぽんぽん叩いてやる。
 臨也のあやすような仕草に目がまどろむのを見て夜遅くまでテレビを見ていたのだと知る。
(一郎さんの葬式で帝人君を抱き上げようとして拒まれた。・・・・・・俺は深く傷ついてたんだ・・・・・・自分のことは気付かないもんだね)
 振り向き登った木を見る。
(いつもは一緒に登るのにその時は一人で行けるところまでいって見下ろしたら帝人君は行なかった。帰っちゃったんだ。俺がこんなに構って愛しているのに)
 思い出しても苛立ちはわかない。
 腕の中で「臨也お兄ちゃんがいるのに眠るのもったいない」と言っているかわいい子がいるのだ。胸には愛しさしかない。
(今日も帝人君に会えて嬉しいはずなのに先月ことを思い出してイライラしてた。もう一人前の顔して俺に頼らない顔で俺を見ない顔で俺を)
 帝人を抱きしめ抱き上げることを普通だとおごっていた。年齢を考えれば歩けるようになった子供が何もないのに抱き上げられるのを良しとしないのは当然だ。
 臨也もまだまだ子供の体格を抜け切れていないから抱かれている帝人もそんなに楽ではないだろう。
(帝人君を抱きしめることは当たり前の事じゃないんだ。俺は幸せにあぐらをかいていた)
 血に汚れた手で目をこすろうとする帝人を臨也が立ち止まり制する。
「帝人君、木から落ちたら危ないんだよ?」
「なんで?」
 目を開いてきょとんとする。
「お兄ちゃんがいるのに、どうして危ないの?」
 変わらない純真さ。
「お兄ちゃんは神様じゃないからだよ」
「違うよ。神様は何もしないけど、お兄ちゃんがお兄ちゃんだから僕は大丈夫なんだよ」
 全幅の信頼。
 臨也のことなどまるで知らない親戚の子供。
 年下に格好を付けたい時に利用するように兄ぶった。ただの遠縁。そんなのは嘘だ。
「帝人君の中でお兄ちゃんは無敵なんだ?」
「だってお兄ちゃんだもん」
 意味の分からない言葉のまま帝人は笑う。臨也も笑う。
 自分を真っ向から肯定する存在を臨也は愛しく思って同時に(帝人君に否定されたら生きていけない)と臨也は確信する。
 いつだって帝人が預けてくれる重みや感情が臨也を安定させていた。
(帝人君に嫌われなければ何したって大丈夫だな)
 臨也の中での常識が更新された瞬間。
 竜ヶ峰帝人を基準に世界を計る。
 人々を嘲り見下すことで心の安寧を得るのではない。
 たった一人に愛されているから世界全てから排斥されても構わない。
 幼い臨也に当然大小さまざまな悩みやブレがあったが、この時から歪みなく「折原臨也」を生きていく。
 帝人が臨也を肯定して必要とするのなら自分は何にだってなれるのだと思った。
 腕の中で世界の悪意を知らない子供がかわいく欠伸する。