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いつまでも、君が怖い理由

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「じゃあ、失礼しますね」

リングを嵌めた獄寺くんの指が、俺の髪を撫でていく。
くすぐったくて目を細めると、すぐ近くの顔が微笑んだ気配がする。

「……楽しいの?」

「いえ、十代目がお可愛らしくって つい」

「かっ…可愛いって、俺は男だよ?!」

そりゃあ、さっきは君の事可愛いとか思ったけど…!
でも、君にはふわふわの耳があるんだ。仕方ないじゃないか…!!

「勿論存じていますよ。十代目は、最高にシブくて男らしいです。でも、俺の事撫でて笑ってる十代目とか、今こうして目を閉じているお姿は…やっぱり、可愛いっす!」

「そ、うかな…?」

「はいっ!」

獄寺くんは、本当は分かってるんじゃないかって思う時がある。
俺がどれだけ、その声と顔に弱いのか。だって、心の底から嬉しそうなんだ。俺にだけ見せてくれる、特別な顔。

「…ありがとう、獄寺くん」

閉じていた目を開くと、そこには思っていたよりもずっと近くに獄寺くんの顔があった。
グリーンの瞳と、きらきらの銀髪。獄寺くんは、どこも綺麗。その後もぼんやり見つめ続けていたが、さらに近づいてきた唇の感触で俺はようやく我に返った。

「ご、獄寺くん…っ!いま、キ…キス…?」

「――――っ、すいません!向こうじゃ挨拶代わりなもんで…!」

「あ、そ…そうなんだ。挨拶、なんだ…」

確かに、唇が触れたのは一瞬だ。
近づいてきた獄寺くんから、なんだか良い匂いがして、何の匂いだろうと考えているうちに全てが終わっていた。でもこれ、俺の…ファーストキス、だったりするんだけど…。

「すいません、十代目!!」

獄寺くんは俺を撫でる手を止め、床に額をつけそうな勢いで謝罪を始める。
あーあ、結構気持ち良かったのにな、撫でて貰うの。…じゃなくて!

「あー、もう!謝らなくていいから!挨拶だったんだろ?じゃあ、いいよ」

「…ホントっすか?」

「うん。別に嫌じゃなかったし。それに獄寺くん良い匂いがするよね。香水、つけてるんだ?」

ただ思った事を告げただけなのに、獄寺くんの頬がどんどん赤く染まっていく。
俺、変な事言ったかな…?

「い、いやじゃな……っ、あっ、そうです。向こうの香水なんですけど、お気に召したなら是非プレゼントさせてください!」

「あ、いいよいいよ。俺が付けたって母さんにからかわれるだけだし、それに…あれは獄寺くんがつけてるから、良い匂いなんじゃないかなぁ」

吸っている煙草に、微かに香るシャンプー。
それと香水が合わさって、すごく良い匂いになっている気がする。

「俺、獄寺くんの匂い好きだな」

「っ…!十代目…!!」

「なに?」

「そ、その…。もしお嫌じゃないんでしたらで構わないんですが、これからまたあの挨拶…させてもらっても、いいですか?」

「………誰もいない所だったらね」

「…っ、はい!!」

こうして、俺達の間には二人だけの約束が出来た。
思えば、獄寺くんとした約束は、これが初めてだったかもしれない。




「あ、その時は耳、撫でさせてね」

「……は、い」

二人揃って真っ赤になった約束が、実はとても恥ずかしいと気付くのは、それから大分先の事。

作品名:いつまでも、君が怖い理由 作家名:サキ