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最高無敵で最愛のお姉さま!@11/27追加

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愛を知る人-過去-







貴方を変えた何かが憎い。








寝転がれば青い空が視界に広がる。眩しいそれが目に痛くて、臨也は瞼を閉じた。頭の下は柔らかい感触があり、それが一層眠気を誘う。その気配を感じ取ったのか、柔らかい感触の持ち主―――所詮は膝枕というが――が呆れたように息を吐いた。
「突然教室に来たかと思えば、サボりの同伴願いですか」
「別にいいじゃない。姉さんの頭なら授業の一つや二つサボったって支障ないでしょ」
「出席率も単位に含まれるんです。また1年留年したらどうしてくれるんですか」
「そしたら俺と同じ学年だね!」
「絶対卒業します」
「つれない!」
しまいには腰に手をまわしてごろごろと懐いてくる頭を肘でぐりぐりしながら、帝人は雲一つない青空を見上げた。確かにこんな良い天気に教室に籠って勉強するのは勿体ない。夏の気配を纏った風が帝人の髪を揺らしていく。心地良い感覚にそっと目を細めた帝人を、臨也はじっと見つめていた。


臨也は人を愛している。その中で帝人という存在は特別だった。彼女が笑えば臨也は嬉しくなり、泣いていればその涙の訳を殺したくなる。帝人は臨也をありとあらゆる面で人間にさせるただひとりの存在だ。彼女の全てを知りたがる臨也はもう弟でなく、ひとりの男として帝人を愛していた。
しかし臨也がどう望んでも、帝人の全てを知ることはできない。帝人自身がそれを望んでいないからだ。空白の1年間。帝人と臨也の間にある忌々しい時間だ。高校へ進学する直前、帝人は臨也の、家族の前から姿を消した。
(いってきます)
その一言だけ告げて、帝人は消えた。携帯も財布も残されたまま、着の身着のままで。当然臨也も双子の妹たちも必死で探した。けれどまだ子供だった臨也たちには限界があった。日に日に薄れていく帝人の気配。いつのまにか高校に出されていた休学届。初めて無力を感じた時間。
喪失感に狂いそうだった臨也を引きとめたのは、やはり彼女だった。




(ごめんなさい、ごめんなさい臨也さん。僕は大丈夫です。ただ少し遠い場所にいるだけです。心配しないで。ちゃんと帰るから。戻ってくるから。舞流と九瑠璃と一緒に待ってて。ごめんね、ごめん、愛してます。僕の家族。愛してるから)



(どうか許して)





一方的な言葉。けれど臨也が帝人の声を違えることは無い。
(愛してます)
その音に、臨也は声を上げて泣いた。無様に、まさしく臨也が愛する人間のように。
(愛してる愛してる愛してる愛してる君を愛してる愛してる!!!)
臨也を絶望の淵に落とすのも、掬い出すのも帝人だけだ。
昔も今も、―――これからも。



「臨也さん?」
「んー?」
「眠いですか?」
「んー」
「・・・・眠いんですね。仕方ありませんね、1時間だけですよ」
閉じた瞼の上に、ふわりとのせられた柔らかな掌。
じわりと沁み込む熱で、目の奥が熱くなった気がした。


消えた春に戻って来た彼女は、どこか儚く笑う女性になっていた。
(何があったの)(何をしていたの)(どうしていなくなったの)
けれど彼女は何一つ語ろうとはしなかった。薄く微笑んで、(ごめんなさい)と(許して)を繰り返す。酷い免罪符だと臨也は想う。彼女の全てを知りたいけれど、彼女の望みを臨也は無視などできなかった。
(酷い酷い嗚呼愛してる酷いひと好きだ狂おしいくらい愛おしい)
今の臨也にできるのは、掬ったその手を硬く握り締めるくらいだ。
(もっと、もっと大人になったらきっと)


「姉さん」
「うん」
「姉さん」
「・・・・うん」
「姉さん、姉さん、――――みかど、」
「・・・・ここに、います」
いますから。臨也さん、大丈夫。私はここに、いるから。
臨也は瞼に添えられた掌を強く握り締めて。
微睡む意識の中、臨也は嗤った。







愛する人、貴方を変えた何かが憎い。
(けれどそれ以上に俺のものにならない貴方が憎くて愛おしい)