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最高無敵で最愛のお姉さま!@11/27追加

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愛に縋る人-過去-




本当はね、もうこのまま、消えてしまおうかなって、思ったんだ。







廃墟と化した雑居ビルの一室でひとり、ただぼんやりとガラスすら無い窓から見える夜景を眺める。闇を彩るおびただしい数の人工の光。その中の一つが消えても、誰もきっと気付かない。知るのは当事者だけ。
あまりのむなしさに顔を覆う。

血塗られたペン。
肉を断つ感触。
恐怖に塗られた顔。
許しを乞う叫び。
それを阻む嗤い声。
全て、全て、帝人が仕向けたもので帝人に向けられたもの。
爪にこびりついた赤黒い汚れに、何て様だと思う。薄汚れた服も、ぼさぼさになった髪も、およそ女がする格好ではないと嗤ってしまう。

初めはただの好奇心だった。
思いつくままに創り上げた集団。
来る者を拒まず、去る者を追わず。
無法地帯の其処に、それでも共通するのはただひとつ。

(違う世界を見てみたい)(ただそれだけだった)

持っていたものだけで満足できればよかった。なのに、帝人は手を伸ばしてしまった。脳裏を過る、可愛い義妹たちの顔。背中を追いかける、賢い義弟の声。それらから目を逸らし、耳を塞ぎ、帝人は逃げてしまった。
帝人が創り上げた『ダラーズ』は急速に勢力を上げ膨れ上がり、手に負えない一歩手前まで来ている。これ以上続けていれば、法の名の下に裁かれるだろう。社会は万能ではない。けれど愚鈍でもないのだ。
(潮時だ)
ダラーズの中でも数少ない賢い人間たちが、創始者である帝人を手放すわけがない。ならば帝人が自ら手を離すしかないのだ。
もうたくさん傷つけた。
たくさん苦しめた。
たくさん哀しませた。
(もういいじゃないか)(充分新しい世界は見れた)
(残酷で優しくてけして手に入らない世界を)
どうせ、この手にはなんにもないのだから。
「―――ハハッ、なんて、・・・・何て無様だ、」
おかしくておかしくておかしくて――――泣きたくなる。
「求めたのは何?愛?日常とは違うもの?否、私が欲しかったのは私だけのものだ。与えられたものじゃない、私が、私自身が欲して手に入れたものだ。舞台は作った。あらゆる人間の手で整えられた。物語は入り乱れ混乱し分岐点が幾つも存在するのにエンディングはまだない。私だけのものが欲しかったのに、私の手を離れてしまった。いつ終わる?どうすれば終わらせられる?終止符は誰の手に委ねればいい?終わりを望む者は誰?始まりは私だ。ならば、ならば終わりも私が決めよう」
鈍く光る携帯の画面。
それだけが帝人の唯一だった。

「もう、終わりにしようか」

誰もいない空間で帝人は宣言する。ゆえに賛同者はいない。けれど咎める者もまたいないのだ。勝手に始めた『ダラーズ』という組織だ。ならば勝手に終わらせてもいいじゃないか。私は創始者なのだからと傲慢に嗤う。
帝人が創り上げた世界を全部、全部。
始めたのも一人で、終わらせるのも独りだ。
ずっと、ひとりで、(このまま消えれたら)




(―――――姉さん)




ほとり、と乾ききった心に、落ちては沁みる音。
携帯から微かに聞こえるのは、懐かしい(そう懐かしいんだ)声。



(どこにいるの、今何をしているの、どうしていなくなったの、姉さん、いやだよ、いなくならないでよ、俺たちがいるのに、寂しいなら俺がずっとそばにいるから、姉さん、聞こえてるの、聞いて、姉さん、)




帝人は何も言わなかった。
何も、言えなかった。
逸らして、逃げて、失くしたと思ったものがそこにはあった。



(姉さん)



繰り返し、繰り返し、帝人を呼ぶ声。帝人だけを求める声。
あの賢い義弟がこうも必死で呼びかけるのを初めて聞いたような気がする。
美しい義理の弟。むかしむかし、帝人に与えられた家族。嫌う理由など無かったから、帝人は彼らを愛した。そして彼らもまた帝人を愛してくれた。帝人と唯一血の繋がりがあった母が死んでも。家族というものを与えてくれた養父が死んでも。変わらず愛し、そして愛してくれた。
そうして帝人は裏切ったのに。
(置き去りにしたの。何も言わずに出て行ったのは怖かったから。依存してしまうのが恐ろしかったから。私には何もないの。だから世界を作ろうとしたの。私だけのものがほしかった。貴方達は私のものじゃあないから)


「それでも、・・・・それでも貴方は、私を、――――『僕』を、呼んでくれるの?」



(姉さん姉さん姉さん帝人姉さん)



頬を濡らすのが何かなんて、知っているくせにね。


「―――――臨也さん、」
手放した愛に縋るなんて、本当に無様だけど。
(ごめんなさい、ごめんなさい臨也さん。僕は大丈夫です。ただ少し遠い場所にいるだけです。心配しないで。ちゃんと帰るから。戻ってくるから。舞流と九瑠 璃と一緒に待ってて。ごめんね、ごめん、愛してます。僕の家族。愛してるから)(どうか許して)
携帯の電源を切る。画面は黒く変色し、帝人の唯一だったそれは光りを失った。けれど、帝人の心は軽かった。現金なものだと自分を嗤う。しかしそんな自分を指摘する人間はいない。だから帝人は好き勝手にするのだ。
終わらせよう。
全部、全部。
自分が元凶で仕向けて犯した罪を。
終わらせて、全部全部終わらせて、

――――― 帰るんだ。


縋りつく甘い愛おしい声の元に。







そうして一つの世界は消え去った。
(独りの少女と共に)