GUNSLINGER BOYⅢ
黒。
臨也さんの第一印象は〈黒〉だった。
と、いうのも、それまで僕は目覚めてから白衣を着た研究員の人たちとしか会ったことがなかったし、
部屋の壁も天井も大体白で統一されていた。
僕自身が身につけていたのも白い病人服のようなものだったし、目覚める前の記憶は白紙。そう・・一般的に〈思い出〉といわれるものが僕にはない。
しかし、〈思い出〉は無いのに日常生活や言葉等についての〈知識〉はある。
研究員の人たちが「それで正解」と言っていたので、多分これでいいんだろう。
僕の世界は真っ白だった。
ある日、真っ白だった日常に突然現れた黒い人はとても綺麗で、雰囲気から何から全てが知らない異質なもので構成されているようで。赤みがかった瞳と目が合った瞬間、人工物で出来ているはずの心臓がドクンとはねた。
知りたいと、そう思った。その気持ちがどうして生まれたのかは分らないけれど。
もっと話がしたくて思い切って話しかけたら、なぜか笑われた。黒いコートのファーが小刻みに揺れ、さらさらとした黒髪がわずかに乱れる。
わけがわからない。
何かおかしいこと言っただろうか。しただろうか。わからない。
・・黒い人はひとしきり笑った後、僕の名前を訊ねてきた。
僕にはまだ名乗る名前が無かった。
義体の名前は担当官になった人がつけてくれることになっているのだ。(それまで僕は製造番号で呼ばれていた)
そのことを伝えると・・黒い人は見とれるような笑顔を浮かべて、じゃあいいの考えてあげないとねと言った。
僕は意味を理解しかねて首をかしげた。
俺が、君に知りたいこと全部教えてあげる・・君の担当官は今日から俺だよ。
甘い声。
差し出された手は白くて綺麗で、でも男性らしく大きくて骨ばっていた。
その手をとればこの眩暈がするほど白い世界から連れ出してもらえる気がした。
からっぽの心を埋めて欲しかった。
僕は覚えていないけれど、その時僕は笑っていたらしい。
全然思い出せないけれど臨也さんがそう言うのだからそうなのだろう。
作品名:GUNSLINGER BOYⅢ 作家名:net