心中日和
負けても、やっぱり全国レベルの学校は強いなと感心した顔のひとつでもすればいい。どうせもうすぐ使わなくなる制服だし、ここで汚してしまっても惜しくはない。俺は、前の学校の制服のまま、軽く準備運動をした。
受け取ったラケットの、具合を確かめるようにくるくる回す。
俺、かなりクセあるプレイやけ、あんま前の学校では好かれとらんかったけど、ここでは平気かの。
ああ、強ければ何でもいいさ。
幸村はあっさりと言った。
腕組みをした、仁王立ちの真田も頷いた。無表情に、閉じているのか開いているのか分からない目で俺を見ていた柳が、うっそりと笑った。
前の部活とは比べ物にならないくらい、クセのある人間が集まったところのようだ。
こういうところの居心地は、良いか悪いかの極端に決まっている。
柳生、と幸村が呼んだ。
ジャッカルといったか、ダブルスの片方と話していた柳生がこっちを見た。
どこの馬の骨とも分からん相手にいきなりレギュラーぶつけてくるか。俺は少しうんざりとした。買いかぶりすぎだ、と言おうか迷う。
何でしょう、と近づいてくる柳生の、眼鏡と、髪型と、同年代に敬語というあまりのアレさに顔をしかめた。
柳生も、俺の髪型と、だらしのない立ち方やそんなものにだろうか、嫌な顔をした。
ちらと一瞥をくれたきり、俺と目を合わせないまま柳生が幸村に尋ねた。
「入部希望者ですか」
「ああ。試しにやってみてくれ」
柳生は少し間を置いて、言った。
「本気で?」
幸村はあははと笑った。
本気を出せるようなら出していいぞ。
柳生は少し困ったというふうに俺を見た。いけ好かないやつだ。俺は不愉快を隠しもせずに柳生を睨んだ。目が合った。
一瞬時が止まって、かちりと何かのスイッチが入れられたような気がした。その音すら聞こえた。
慌てて瞬きをしたけれど、おかしなことに時が止まった形跡はなかった。
不思議に思って柳生を見た。
柳生の俺を見る目は、一秒前とまったく違っていた。
うまく形容はできない。強いてたとえるなら、高名な格闘家が、ようやく自分の強さに見合うだけの相手を見つけたときのような、なにかぎらぎらとした、相手に逃げることやはぐらかすことを許さない目だった。
柳生は一秒で俺に恋をしていた。と思う。おそらく恋をしていた。
俺が一秒で柳生にとらわれたように。