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あい?まい?みー?MINE!!

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 教諭と帝人、両名が揃って戦場に足を踏み入れると、それまで俄かに騒々しく賑わっていた室内が水を打ったように静かになる。
不躾と言っても良い程の遠慮無い視線に晒され、一瞬帝人は蹈鞴を踏んだ。

「皆さん、本日からもう1人、皆さんの勉強を見て下さるボランティアの方が来て下さりました。竜ヶ峰帝人先生です。」

「はっ、初めまして、只今ご紹介に与りました、竜ヶ峰帝人です。若輩者ではありますが、どうぞ宜しくお願いします。」

ペコリ、と小さくお辞儀を付けて挨拶すると、「硬ぇよー!」、と言う、苦笑交じりの野次と共に、小さな拍手が起こる。
帝人は取り敢えず拒絶はされなかったとホッと息を吐き、改めて教室内を見渡した。
何所にでもあるような学校の、普通サイズの教室に、数年前までは良く見掛けた机と椅子が等間隔に並んでいる。
背面黒板を囲むのはクラスの掲示物のようで、今だに学級新聞なんて作っているのだなぁ、と感慨深く帝人は思う。
放課後の学習会と言う事で集められた生徒は教室の後方を陣取っており、人数にして10人そこら、ではあるのだが。
皆、一様に廊下側の席に犇き合うようにして着席している。
何がそうさせるのか、などは愚問である。窓側の一席、そこだけが異様な空気を醸し出したまま、室内に重苦しさを科していた。
中学生男子の平均身長を優に超した長身。細身でありながら男性的なしなやかさを窺わせる体躯。
艶やかに染められた髪の毛は黄金色をしており、無造作に垂れて額に掛かっている。
だらしなく前へと突き出される両足は、制服の丈が若干合っていないようで、少し不格好だ。帝人からしてみれば、長くて結構な事だと羨んでしまう。
そして、その貌は少年期から青年期へと差し掛かる頃合いの、絶妙なアンバランスさで彩られ、端的に言えば、野性味の溢れる、小奇麗な作りだった。
しかしながらそれら全てを台無しにして他人を遠巻きにさせるのは、彼の眼元である。
鋭く釣り上がり、ギラリと輝く双眸からは全力で"寄るな・触るな・話し掛けるな"、と威嚇の意が発されている。
元より池袋では有名な人物である訳で、加えて本人の醸すオーラが他人を拒絶しているとなれば、賢く懸命な一般人は己可愛さに近寄りもしないのが妥当だろう。

「お分かりになりましたでしょうが、あれが、平和島静雄です。」

コソリ、と肘を突いて教えてくれた教諭は、苦い笑いを湛えながら帝人に忠告していた。
出来得るならば、関わらず終わってくれて構わない、と。
それだけ言うと、教諭は他ボランティア2人の許へと向かって行った。静雄以外の生徒の捗り具合を見に行くのだろう。
ふむ、と帝人は瞬時に考えを巡らし、1つ小さく息を吐くと、足を動かした。
誰もが避ける、窓際の席へと。
反対側から、ギョッとした様な視線が幾つも突き刺さる。が、大して気にした風も無く、未だ気付かず机の上のプリントと格闘している静雄の許へと軽快に向かって行った。



 机の前に到着した事で、室内に入り込む西日が、静雄を影で覆った。彼は漸く、誰かが目の前にやって来た事に気付いたようだ。
億劫そうに、目に力を込めて面を上げた所で、相手の浮かべている表情を目の当たりにし、目を見開く。

「どう?何所か分からないトコある?」

 相手は、静雄に向かって微笑んでいた。
それが全くの自然体である事が知れる故に、静雄は更に混乱する。
無理をした表情や、内心に怯えや恐れ、苛立ちや怒りを抱いているならば、野生の勘とでも言うのか、はたまた悲しい事に経験上とでも言えば良いのか、静雄には分かる。
今を以て尚、然して静雄と交友を持たない者や初対面であっても静雄の噂や実際の現場を目の当たりにした人間は、揃って諂うように、または嫌悪や恐怖に彩られた眼差しで静雄を見る。
それは酷く静雄の心を痛めるが、自身の化け物染みた力や沸点の低過ぎる性格がそれらを諦めさせた。所詮、自分と分かり合ってくれる人間なんて、居やしないのだと。
静雄のパーソナルスペースは、彼の性格や行動により、恐ろしく広い。より詳しく言えば、"身内"と"それ以外"に、世界は明確に分けられているのだ。
身内の中には、静雄のどうしようもない性分を分かった上で付き合いを続けてくれる奇特な友人も含まれていたりするが、兎に角、自己を擁護し受け入れてくれる彼等以外は、静雄を化け物扱いするものだと考え、また静雄もそれが当たり前であると思って来た。


 それが、これは、どうした事なのだろうか。
静雄が無い頭を絞って記憶を浚ってみても、眼前で尚も微笑みを向けてくる男に覚えは無い。
竜ヶ峰、などと言う仰々しい名前の知り合いが居た事など1度たりとも無いし、同年齢だと言われても疑わないであろう幼い顔もまた同様である。
短く切り揃えられた黒髪は西日を受けて艶やかに光っているし、全体として華奢な体付きを覆っている衣服とて、季節感はあるものの、当人の人柄を顕したように極めて地味である。
平凡な容姿、何所にでも居そうな若者。だが、その性質は(恐らく)静雄の事を知っていながら平然と間合いに入り込み、全くの自然体で静雄に話しかける様な鋼の神経の持ち主なのだ。
静雄が望んでも手に入らない、"日常"を具現化した容をしていながら、異常なまでの"非日常性"を感じさせる不可思議な男を前にして、静雄の目は釘付けになったままだった。



 面を上げた途端、顔を凝視して言葉を発さない少年に首を傾げた帝人は、まぁ良いかと、先程まで手を付けていたであろう課題のプリントに視線を落とした。
性格が現れた様な、御世辞には綺麗、とは言い難い字で以て綴られる数字の羅列が、真っ直ぐに、時折迷いながら、過程を通じて解へと導き出されている。
ザッ、と目を通した帝人は、静雄の前の席に腰を下ろすと、「ココと、ココと、コレ。」、と言って、プリントの箇所を指し示した。
その声に弾かれた様に俯いた少年に苦笑して、少年が見るに邪魔にならないよう注意を払いながら、問題の部分を指摘した。

「見させて貰った所、基礎はちゃんと出来てるし、理解も出来てると思う。ただ、ちょっとケアレスミスがあるね。勿体無いよ、そんなつまんない所で点を落とすなんてさ。」

すると、少年は小さく、あっ、と漏らし、筆入れから赤いボールペンを取り出すと、その箇所を修正し始めた。
一連の行動を眺め、きょとん、と静雄の旋毛を見る。

「消しゴムで消して、最初からやり直せば良いのに。」

漏らす帝人に、ピタリと静雄は動きを止め、数瞬迷う様に視線を彷徨わせた後、しっかりと、帝人に目線を合わせて言った。

「・・・見返した時、何所が間違ってたか分かんないと、次も同じ間違い、すんだろ。」

ボソリと、低く漏らされた言葉は、小さかった。確実に廊下側の集団には聞こえて無い。
その一言に、帝人は容姿に見合わない少年の本質を見取って、心の中で合点がいった、と小さく頷いた。


 放課後の学習会など、遊びたい盛りの子供達にとって、これ程邪魔なものは無いだろう。
実際、最初に聞いていた人数と、今この教室に居る人数とでは、大分開きが見られる。