【東方】東方遊神記8
「はいっ!任せてくださいっ!」
当の椛はそのようなことは微塵も感じさせない。大役・・・というほどでもないが、仕事を任された椛ははりきって里の男たちに手伝ってもらえるように声をかけ、分配の指揮を取り始めた。神奈子たちの手前、男たちは素直に椛の指示に従って動いた。どこかで誰かが何か呟いた声が微かに聞こえた。明確な悪意が感じられたが、その内容までは聞き取れなかった。
「早苗、ちょっと」
椛が離れていったのを見計らって、今度は早苗を呼び寄せた。
「はい。なんですか?神奈子様」
早苗は心得ているようだったが、あえて神奈子に聞き返した。
「聞こえてたと思うけど、椛を手伝ってやってくれ。でも、必要以上に手を貸すのはだめだ。この意味は、解るね?」
「はい。解ってます。これも椛さんのためなんですよね」
「さすが早苗。そういうことだよ。御影も言っていたけど、あの娘はもっと沢山のきついことを経験した方がいいんだよ。鉄は熱いうちに打てってね。椛だったら、きっと世にも見事な名刀に仕上がると思うよ」
神奈子は一生懸命周りに指示しながら自らも運ぶ作業をしている椛を見ながらうんうんと感慨深く頷いた。やはり神奈子は母性というより父性を感じさせる。
「フフフ、やっぱり神奈子様、お父さんみたいです」
神奈子だったら良い父親になれるだろう。生物?学的には不可能だとしても。
「・・・もう勘弁しておくれよ。ほら、さっさと行った行った」
神奈子はシッシッと手ではらうような動作をしながら溜息をついた。
「はい、じゃあ行ってきます」
早苗は終始微笑みながら椛の方へ走って行った。
「やれやれ・・・よし、諏訪子、青、文、もう本当にいい加減御影の所に行こう。これ以上待たすと、いくら約束してなくてもむこうさんはカンカンだろうよ・・・ん?」
神奈子が諏訪子たちがいる方に顔を向けると、ちょっとおもしろい光景が展開されていた。例によって物思いに耽(ふけ)っている 青蛙神を、諏訪子と文がにやにやしながら覗きこむようにしてみている。どうやら青蛙神は二人が見ていることに気が付いていないらしい。いい加減ネタも無いし飽きたので、神奈子はつっこまないことにした。
「よっこいしょっと。それじゃあ文、御影の所へ案内してくれ」
神奈子は青蛙神を小脇に抱えると、我に返って慌てる彼女を無視しながら歩き出した。
「了解しました~」
「美理の腕はどれくらい上がってるかな~」
諏訪子は美理に会うたびに美理の武芸の実力を試すようなことをしている。今回もそれを楽しみの一つとしていた。二人とも神奈子の行動にはつっこまなかった(笑)。
作品名:【東方】東方遊神記8 作家名:マルナ・シアス