【東方】東方遊神記8
御影や美理は、普段は里の大通りの一番奥、大本殿と呼ばれる建物で政務や仕事をしている。大本殿と言ってもそんなに大層なものではなく、大きな武家屋敷のような外観だ。この建物は、御影の父親である初代天魔の時代に建てられたもので、初代の趣味が色濃く出ている。御影はあまり気に入っていないようだ。御影はここで昔で言う宰相の役割もしている美理と共に、初代の頃では考えもしなかったような、突拍子もない政策を日々熟考している。今考えているのは、人間の里に技術学校を建設し、人間の生徒を集めて、まさに「人材」の育成に取り組もうというものである。これによって人間の持つ技術レベルを向上させ、さらに人間と天狗の交流を深めることで相互理解をし、天狗に人間は自分たちの下の存在ではなく、互いに協力できる盟友なのであるという意識を強めたいという狙いがある。しかし、これはあくまで建前であり、実は御影には真の目的がある。それは、自分も気軽に人間の里に遊びに行きたいのだ。よく人間の里に取材や遊びに行く文には、人間の里に行ったら必ずその日のことを一部始終報告せよと命令している。その報告の際に、やれ○○屋のあんみつは美味しいだのやれ寺子屋の子供たちが生意気だのと聞いているうちに、自分もそのあんみつを食べたい、子供たちと遊びたいという欲求が日増しに強くなっていった。補足説明をしておくが、元来天狗などの高等妖怪は食事をしなくても何の問題も無く生きていける。人妖(じんよう)や憑き獣(つきげもの)といった低級妖怪は、自らの体を維持するための食糧摂取は必要だが。しかし、必要ないと言っても味を楽しむことはできる。なので、食とは高等妖怪にとって一番身近な娯楽なのである。勿論排泄する機能もちゃんと持っている。そんな中で食に対して高い関心を持つ御影が自分の望みを叶えるにはどうしたらいいか?それならば、天狗の今までの古い認識を変えてしまおうという結論に至ったのである。だから、傍から見ればとても立派な考えに見えるのだが、思いっきり私情が入っている。でもまぁ結果的には天狗たちの未来に光明が射(さ)すのだから、それはそれで良いんじゃなかろうか。 因みに、美理は自分の鍛錬、椛の行く末、御影の補佐、今の所この三点しか頭にない。
「神奈子様っ、いい加減に下ろしてくだされっ」
「しらんしらん」
「ちょっ、そんな」
「天魔様は謁見の広間でお待ちになってます」
文が天魔がいる場所まで案内し、ちょうどその部屋の近くまで来ると、部屋の中から誰かの大きな声が聞こえた。
「あや?誰か来てるんですか?」
「この声は・・・天魔じゃないね 。だけど、何か聞きおぼえがあるな」
すっかり観念し、おとなしくなった青蛙神を抱えたままの神奈子がそう言って首をひねった。
「にとりじゃない?あの可愛い声は」
あんたも十分可愛い声だよ・・・おっと。にとりというのは、河童でありながら、その類まれな頭の良さと技術力で天狗の里の発展に大いに貢献し、里の中に自分専用の工房を与えられるほどの待遇を受けている、河童一族随一の出世頭『河城 にとり』のことである。細かい説明は後述する。
「あぁなるほど、また来たんですか。あの娘も頑張りますねぇ」
文は得心したように手を叩くと、何か思いついたというようにニヤッと笑って、
「ちょっとこのまま話を聞いてみましょうか?」
などと提案してきた。
「おいおい・・・お前は本当に・・・趣味がいいねぇ」
「うんうん、ちょっと聞いてみよう」
上位神の二柱は即賛成(笑)
「ちょっと、それはいくらなんでも失礼では」
青蛙神は慌てて常識を振りかざすが、
「「「まあまあ」」」
と三人に制されあえなく強制参加。
作品名:【東方】東方遊神記8 作家名:マルナ・シアス