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どしゃ降りの涙♪

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となると子供でもいいが……ランディではボロが出そうだし、メルでは真面目に犯行を白状してしまいそうだ。結局、セイランが悩みぬいて摘み上げたのは、子供の中で一番賢いレイチェルだった。

≪判っているとは思うけれど……セシアに見破られるようなマネはするんじゃないよ。それと、アンジェを呼び出すのは控えるようにするんだ。大丈夫、彼女には天使は多忙だと繰り返して言って、生半可なことでは呼び出すのを後ろめたく思わせるように仕向ければいい。できるね≫

セイランの心話を受け取り、レイチェルは幼いながらも神妙な顔でこくこく頷いた。セイランにとっても、初っ端にこの魅了の魔法の使える優秀な妖精を失うのは痛かったが、彼女ならきっと、セイランの期待に答えてアンジェの手をなるべく煩わせないように、聡くセシアを働かせてくれるだろう。

彼は信じきった目でセイランを見上げているセシアに対し、滅多に見せない極上の微笑みを披露した。美しい彼に優しく微笑まれ、初心なセシアの両頬に朱色が走る。

「君にはこの娘をつけるよ。困った事があったら何でも彼女に相談してくれ。アンジェに会いたくなったらこの娘に呼んで来てもらえば良いし、敵と遭遇したときも、この子が君の為に援軍を呼んで来てくる。可愛がってやってくれ」
「レイチェル・リリーです。勇者様、宜しくお願いします☆」
「ありがとうございます!! 私、天界の御使いに、いつも側にいて貰えるなんて感激です!!」

セシアは恐縮してレイチェルを包み込むように両手で受け取り、その後は何度も彼に対して頭を下げた。

(なんてイイコなんだろう〜〜〜〜!!)

バイクに残った皆は、心の中で滂沱の涙を流した。
そして、銀色のバイクが飛び立つまで見送ってくれるセシアに対し、何度も何度も心の中で頭を下げたのだ。




エローラでは……。


セイラン達が到着した時、ルディは身一つで逃げ出した為なのか、十八才の王子様の衣装とは思えない程庶民的な服のままで王宮の寝台に横たわっていた。彼はオスカーと同じような真っ赤な髪をしていた。短めの前髪から覗いている寝顔は、あどけなさを残しているものの、王族の一員を感じる真面目そうな雰囲気をかもしだすような風貌だった。

「おい、ルディエール……起きてくれないか? 火急の用事なんでね」
セイランは、ふわりと寝台前に浮いて立つと、いきなりルディエールの包帯を巻いた肩に蹴りを入れた。
王子はこの狼藉に、目を剥いて一発で目覚める。

「何するんだよ!!」
「何が?」

セイランはルディが起きあがる前にすかさず床に降り、何食わぬ顔で彼を見下ろした。
ルディはきょろきょろと辺りを見回し、やがてキッとセイランを睨みつけた。

「おい、お前……今俺の肩を蹴っただろ?」
「夢でも見たんじゃない? 急に痛むなんてその怪我……かなり悪いんじゃないのか?」
「……うう……」

うさんくさげなルディをほって、セイランは手に持ってきた袋の口をおもむろに広げると、中から一番安いポーションを取りだした。そしてキュポンと音をたててコルクを抜き、心底気遣わしげな顔を作り、今だ不信な目で見上げるルディに小瓶を差し出した。

「これをお飲み。ちょっと味が悪いが、天界の薬は人の世界のより良く利く」
実際、彼の肩のような単なる軽い火傷程度なら、自分の使う魔法一つで事は足りたのだ。だがセイランが、愛しいアンジェのためならいざ知らず、初対面の相手にわざわざ自分が呪文を刻む労力を行使するはずもない。

怖いもの知らずにも、セイラン相手に最初は喧嘩ごしだったルディだが、彼はあまりにも育ちが良かった。未だに腑に落ちない点はあるものの、彼は自分を心配してくれるふりをするセイランから大人しく薬を受け取った。そして毒かどうかも疑わぬまま、薬を一気に飲み乾したのだ。
途端、傷が本当に綺麗に治ってしまった。

「う…わぁ……凄い!!」
ルディの顔つきも、傷同様に一気に素直なものに変わった。

「あんた、本物の天使だったんだ?」
「そうだよ」
「じゃあ……いつも来ていたあの子供は……?」
「アンジェのことかい? 彼女も本当の天使だよ。僕が今日来たのは彼女の代理でね。あの子……過労でちょっとダウンしてるんだ」

ルディエールは眉間に皺を寄せ、頬を膨らませた。
「待てよ!! だったらどうして俺にあんな子供を派遣してきた!! 魔族が本当にアルカヤで跋扈しているのなら、なんで真面目な大人がスカウトに来なかったんだ!!………そしたら……俺だって、少しは真剣に話を聞いた……俺の城だって……もっと……きっと守る方法を考えられた筈だ……」

(おやおや)

セイランは俯き過去を悔やみ出すルディを見て、心の中でにやりと笑った。

(これは……都合の良い話運びじゃないか♪)

セイランは、わざと沈鬱そうに髪をかきあげ、彼に見せるためだけに、深くため息をついた。

「ああ、まったくもって嘆かわしいが、天界は今、確かに子供に過酷な労働を強いているんだよ。あの子は学校も出たてなのに、いきなり人間界の守護に派遣されてきてしまってね……でも仕方ないんだ。天界も、魔軍との戦争が長引いてて、人手が足りないんだ」
「だからって!! あんな幼児を戦場になんか!!」
「そう。このままだったら、君の国……レグランス王国も同じ轍を踏む事になるだろうね」

「え!!」
民を引き合いに出された途端、ルディの顔は一気に引き締まった。

「だってそうだろ? このアルカヤは魔族に侵攻を許してしまった。彼らの好むのは憎悪に破壊に殺戮に恐怖だ。そんな人間の持つ負の感情が彼らの魔力を高めるとしたら、奴らはこの大陸の民に何をさせるか? 君にだって予想はつくだろう?」
「……」
「戦争だよ」
「…………」

セイランは断罪を下すように、冷たく、ゆっくりと突き放すように言いきった。
ルディの顔からみるみるうちに血の気が引いていく。

「彼らは国同士を戦わせるように仕向けるだろうね。戦火が燃え広がればその分だけ自分達も強大になれるのだから。
この大陸の戦争は長引くだろう。終りそうになる度に魔族はきっと暗躍する。それこそ、呪詛や恨みつらみに悲しみ憎しみの負の感情をかき集める為に……このアルカヤを全滅し尽くすまで戦わせるだろうね」
「………そんな………」
「ねえルディエール……兵士だってきっと、無限に湧いてくるわけじゃないだろ?」

セイランはチェックをかけるべく、呆然としているルディエールの目を真剣に射た。
ルディはいきなりつきつけられた重い話にショックを受け、途方にくれていた。そんな未来に絶望しだした彼に取り、セイランの自信に満ちた眼差しは希望の光同然に思えた。
彼は吸い込まれるようにセイランの目に捉えられた。視線はもう外せない。
セイランは噛んで含めるようにゆっくりと穏やかに言葉を綴った。

「ねえ? 君の国の成人した男性が戦死し続ければ、次はどうするの? 黙ってレグランス王国が滅びるに任せるとでもいうのかい?」
「そんなこと……俺がさせない……」
「なら君はどうやって戦うんだい? 足りない兵は、君一人の力で賄うのかい?」
「………」
作品名:どしゃ降りの涙♪ 作家名:みかる