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どしゃ降りの涙♪

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レイラは眉を顰めて抱えていた手を緩め、黒く厳つい軍服の上からでも十分に判る、豊満な膨らみを帯びた胸を見た。
女性であり母になることのできるの者だけが持つことを許されたシンボル。
けれど、騎士である自分には必要のなかった物。
昔は平らだったのに。なぜ年を経るごとに何時の間にか自分の体型は変わっていたのだろう?

レイラはもともと昔から整った顔をしていると言われていたが、成長し、尻と胸に肉がつき出すと、誰もが母譲りの美貌を誉め称えだした。
今、レイラの腰近くにまで伸びている緩くウェーブのかかった金色の髪は、先帝直々に切ることを禁止された。
騎士になっても≪お前は帝国貴族の一員なのだから≫と、貴婦人のようにドレスを着る舞踏会のときのために、髪を切ることは許されなかったのだ。
そして唯一の女性騎士は、容姿の美しさをかわれ、いつも皇帝陛下の近衛として傍に侍るように命じられた。彼女が帝国の精鋭……近衛に入れたのは剣の腕を買われたのではない。やはり女であることとこの容姿故だ。彼女は正直居たたまれなかった。そして彼女が18になった頃、数多の貴族達からの縁談と、他に皇帝陛下が直々に選んだ王弟との結婚話までが舞い込んだ。

≪もう年頃なのだから、騎士を引退して嫁げ≫と。
≪美しいうちに女の幸せを掴め。お前の生む子供ならば、強いく良い騎士になるだろう≫

レイラはその時、正直皇帝陛下に失望した。
自分を歴代初の女性騎士に取り立ててくれた恩人ではあるけれど、結局自分はただの一度も最前線に出ることは無かった。ずっと宮廷でお飾り騎士として人形のようにただ在っただけ。貴族の妻として宮廷に着飾って参列するよりも、軍服を身につけサーベルを下げ、武芸で宮廷に仕えたいというレイラの意志は、結局は踏み躙られたのだ。
王族、公爵、侯爵―――その奥方に収まれば最後、騎士を続けさせて貰える筈もない。

皇帝からの縁談を、仮病を使い言葉と知恵を駆使して片端から蹴散らしている時に、アルベリックが抱えきれない程の深紅のバラを手土産にやってきた。

「まあアルベリック!! よく来てくれたわ!!」

レイラの一番好きな花束と心休まる親友の訪問は、気落ちした彼女に微笑みをとり戻させた。彼はあいかわらず帝国騎士最精鋭の第一騎士団に所属している。同じく皇帝のお膝元で仕える騎士であるが、近衛のレイラよりも遥かに多忙の身だ。なのにそんな忙しい仕事の合間を縫って、仮病で自宅療養中の自分を励ましに来てくれたのだ。その彼の真心が嬉しくて、レイラは召使を退け、自ら彼をホールまで出向いて迎えた。
だが、その日の彼は酷く顔色が悪く、青ざめて緊張もしている。
レイラは首を傾げた。

「アルベリック。貴方どうかしたの?」
レイラは正直彼が何か病気を患っているのではないかと心配したものだ。
なのに彼は、ホールに入るなり唐突にこう言ったのだ。

≪レイラ!! どうか、私のものになってくれ!!≫と。

「え?」

≪―――嫌なんだ!! お前が、私以外の男の妻になるなんて!! ずっとずっと愛していた!! お前をずっと愛してきた!! 美しい私のレイラ……お前を誰にも渡したくない!! どうか私の妻に……未来のクロイツフェルド公爵夫人になってくれ!!―――――≫


「―――――――お前までもか!! この裏切り者!!―――――――」
レイラは彼の青ざめた顔面に強烈な平手を放った。


アルベリックは幼い頃からの親友だ。だから彼女は、自分が貴婦人として宮廷に侍るより、父や彼と同じように軍人として生きたいという気持ちを誰よりも理解してくれると思っていたのに。

それはレイラが勝手に描いていた幻想だったのだ。結局、アルベリックは自分を親友ではなく、恋しい人として見ていたのだから。
自分は勝手に彼は誰よりも友と信じ、その純粋な勘違いを彼の裏切りだと愕然とし、彼を誰よりも憎んだ。そんな傷ついた幼いレイラが取った行動は、今思えば最悪のものだったろう。

「例えお前がこの世で最後の男となったって、私は貴様の妻にはならない!!」

彼が差し出したバラの花も床に叩きつけて突っ返し、直ぐに彼を館から追い出した。
その後は彼の手紙も受け取らず、夜会で会っても無視し、話し掛けてきても睨みつける。
他の縁談同様。嫌、それよりも手酷く、一つも躊躇いも気を持たせることなく拒絶した。

これが自分の生き方だと思っていたから。
己の信念に従って、帝国の為に、国民の為の騎士でありたいと思い続けてきた。
親友の癖に自分を裏切ったと……アルベリックの事を逆恨みして。
単に、自分の≪騎士でありたい≫という気持ちが踏みにじられた憤りを、アルベリックに八つ当たりして甘えていただけなのに。

(何が『親友』だ。私は≪あいつは私の何を見ていた)と憤っていたけれど、私こそ、『親友』であるあいつの何を知っていたんだ!!)

幼かったから、レイラは自分の心に歯止めが利かなかった。
アルベリックも幼かったから、レイラの手厳しい拒絶に深く傷ついてしまった。

それが、この結果なのか?
牢獄にある自分。死んでしまった父。
そして壊れてしまった彼。


(――――アルベリック………貴方はそこまで、私が憎かったの?――――)


先帝が崩御し、未だ十にも満たない幼い皇帝が即位した。
父は確かに幼い皇帝が位を継ぐことには反対だった。子供に帝国を治める手腕は無く、宰相の操人形になるのは目に見えていたから。

けれど、一端幼帝が即位してしまったなら、今度は頼りない幼帝の盾となり命がけで仕えただろう。絶対にアルベリックが言うように、父が反逆を画策するなんてありえない。
父は結局アルベリックに決闘で負けたことにより、逆賊としての汚名は確定した。
だが、レイラも誰も、その決闘が茶番だったということは知っている。なんせ大将軍で歴戦の騎士が、たかが一介の貴族騎士に負ける訳が無いのだから。

自分も獄に繋がれる身。
そして、彼が言う通り、夜明けにも自分は反逆罪で処刑されるのだ。
そう、父と同じく反逆罪で。
レイラはぎゅっと唇を噛み締めた。

(――――悔しい!!――――)

このまま、父の汚名と無念も晴らせずに、刑死するなんて!!
このまま、無駄死にしなくてはならないなど口惜しい。けれどあの男に身を投げ出して命乞いするなんて、真っ平御免だ!! 
父を殺したアルベリックの情けに縋って、愛妾として生きるぐらいならば!!
いっそ死んだ方がマシだ。
嫌、自害してこの身が潔白だったと示すのだ。
自分は反逆罪で刑死したくない。だから、自分は罪人ではなかったと自らの命で、陛下に証明しよう。

「………かなり後ろ向きな決意だけれど、もう仕方ないわね………」

レイラはふっと虚ろに微笑むと、顔を上げ鉄格子を見上げた。
毛布一枚貰えなかった彼女だ。予想通り牢獄には首を吊るロープ代わりになるような布は何もなかった。
でも、この牢はかなり天井が高い。鉄の滑らやかな格子なら、レイラが首をくくっても、十分に体重を支えることができる。
縄の代わりにはこの丈夫な軍服を使おう。布目に沿って裂き、ねじって補強すればいい。


(――――このまま――――この冷たい鉄格子で――――)

作品名:どしゃ降りの涙♪ 作家名:みかる