二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

どしゃ降りの涙♪

INDEX|15ページ/38ページ|

次のページ前のページ
 

暗い想念に囚われ、レイラはゆるゆると立ち上がりかけた。
その時だった。
彼女の耳に、今まで一度も聴いたことのないような低い重低音が響く。
「な……何だ!?」
雷とも地震とも違う。大気も重苦しくびりびりと震える。

ブォォォォォン!!

「………きゃああああ!!………」
眩い閃光が視界を真っ白に染め抜いた。
目がくらみ、瞼を閉じた彼女の目が、次に見開かれた時には……鉄格子を挟んだ向こう側に、レイラが見たことも無い銀色の巨大なそりが具現化した。
その上に群がっているのもまた、レイラが今まで見たこともないような者達だった。


☆☆


ゼフェルはエアバイクを石畳に無事着地させると、被っていたゴーグルを取り外し、誇らしげに面々を見まわした。
「へへ〜ん♪ すげえだろ!! 1mmも狂いなく到着だぜ♪ こんなバイク・テクを持つような天使、この俺様以外はいねぇっつーんだよ♪♪」

セイランは、ぶれる視界に眩暈を起こしかけた。頭を振ってゴーグルを外すと、周囲に視線を走らせ、バイクから振り落とされた者がいないかどうかしっかと確認を取る。
「ゼフェル。それは僕も認めるけれど、僕以外の皆は、もう少し別の賞賛(?)を君に捧げたいみたいだね?」
「ああん?」

すっかりご満悦なゼフェルであったが、セイランが顎をしゃくる方向……サイドカー上の面々の表情は、鉄格子とバイクの隙間を凝視して強張っていた。なんせ、バイクの舳先と鉄格子の間は僅か五センチだ。
サイドカーでセイランの真後ろに座っていたロザリアが、口元をひくひく引きつらせて、むりやりとってつけたような笑顔をつくる。

「ねぇ、ゼフェル? 私貴方にお聞きしたいことがあるのですけれど。もしも今のテレポートしたバイクの出現地に、バイクの出現を妨げる余計な物体があったら……私達は一体どうなっていたと思うかしら?」
「あん? そりゃ、核爆発起こして木っ端微塵に吹っ飛んだろ。元の物体のある所に、俺達が無理やり割り込むんだからな。分子レベルで破裂しちまうわ。幼年生でもしってるぜ。 あわわわわ!!」

空を舞ったロザリアの、ピンヒールキックが、ドゲシッ!! とゼフェルの後頭部に炸裂する。

「イテェ!!」
「あんたって人は、それを判ってて、私達をこんな狭い場所にぃぃぃ〜〜〜!!」
「わわっ!! よせ!!」

彼女は尚も手の平を振り上げ、ゼフェルの頭をびしばし引っ叩く。ゼフェルは女に手を上げる訳にはいかず、体を左右に振って身をかわそうとするが、ロザリアはトロいアンジェの親友とは思えない程動きがスピーディだ。ゼフェルは逃げ切れずに、彼女の平手を全部食らっている。
セイランはほれぼれと見入ってしまった。

「ふぅ〜ん。ロザリアはいつもああやってオリヴィエのことを引っ叩いているんだね」
「そうそう。それに蹴りまで加わった日にはもう。『許して〜!! 女王様〜!!』な気分よ……って、あんた、私に何言わせるの!!」
「ん? 赤裸々な噂話のネタ。お好みなら、尾鰭も背鰭も角までつけて流してあげてもいいよ」
「ふざけてろ。馬鹿!!」
オリヴィエは、我に返ると急いで着ぐるみの翼をはためかせ、二人の元に飛んだ。

「まぁまぁ、落ち着いてよロザリア〜!!」
「おどき!! この馬鹿にはきつく言っておかなければなりませんのよ!! 一度目なら事故でもいいわ。でも二度目は駄目!! ここでしっかり釘を刺さなきゃ、何度でも同じ事を繰り返すのでしょう!! オリヴィエは私達が怪我したり吹き飛んでも良いっていうの?」 
「そりゃ、いい筈ないけれど、勇者候補が見てるんだって!! 今は良い子だからお止めってば!!」

しぶとく腕を振り上げようとするロザリアを、ヴィエが背後から羽交い絞めにする。
どうやら騒動も沈静しそうだ。となると俄然興味を削がれ、セイランは二人の処理をヴィエに任せ、横で座っているクラヴィスの持つ虫篭を見た。

≪出せ〜!! 俺をここから出せ〜!!≫

チビちゃいオスカーは、まるで動物園の猿になったかのように虫篭の網にへばりつき、体を前後に揺すって暴れている。彼の視線は驚愕し腰を抜かしたレイラに釘付けで、セイランが彼を見ていることにも気がついてないようだ。

(さて、彼女はどう攻略しようか?)

レイラはオリヴィエの言う通り、世間一般にいう『美しい女』だった。
流れる金髪は肩にかかり、清楚な顔立ち。それが黒い軍服を纏い婀娜っぽい艶を添えている。見開かれた瞳は青。でも凍てついた輝きはなく、どちらかといえば純粋で不器用そうな、未だ大人になりきれていない少女じみた真っ直ぐな視線を感じた。

処刑が近いと騒ぐオリヴィエの言葉を真に受け、ゼフェルは率直にも直にバイクで乗りつけてしまった。彼女の資料も不足している上、セイランが作戦を練る時間もなかった。

(まあ、軍人堅気で真面目だということだから、ここは名うての女ったらしに任せてみようか)
≪オスカー。君、彼女を担当したい?≫

セイランがオスカーに思念を飛ばすと、ゲージに貼りついていた彼は、直ぐにセイランを振り仰ぎ、こくこく頷いた。その期待に満ちた目。彼はヤる気満々だ。

セイランはかつてジュリアスの軍に所属していて、オスカーとも三十年程一緒に戦った。彼と親しかった訳ではないが、彼が多くのお固い軍隊の女性を言葉巧みにやすやすと篭絡していくのを見てきた。
レイラのような年頃で生真面目に生きてきた女性ならば、オスカーの甘い囁きでころりと参ってくれるかもしれない。
そうなればセイランも楽だ。彼は男には容赦がないが、かといって女子供も無関心だ。自惚れではなく客観的事実として自分の『綺麗』な顔が、特に女受けするのも判っている。だから、下手に女性に優しくして、付きまとわれてアンジェを悲しませるような真似はしたく無かった。

≪なら、彼女に気に入られて勇者に落とせるかい?≫
≪任せろ!!≫
オスカーは凄く自信満々だ。だが、彼の場合裏付けられた実績もある。
「よし。期待している。上手くやってくれよ」
セイランはそう小声で囁くと、指で鍵を外し虫篭の扉を開けた。チビオスカーは瞬く間に元の大きさに戻り、悠々と牢屋の前に軽やかに降り立った。

「…………」
レイラは、突如現れたオスカーに、声もなく呆然と見ているだけだった。
そんな牢の中で固まっているレイラに対し、オスカーはふっ……と髪をかきあげて見せた。
オスカーが自慢する、『女性を甘く魅了する微笑』を見たレイラは……何故かきつく眉を吊り上げ、彼を爬虫類を見るような目つきで睨み、そのままゼフェルのバイクに視線を戻してしまった。

「……………」
オスカーの目が一瞬傷ついたように翳る。
セイランも眉を顰めた。どうもレイラはセイランの良く知る女性の軍人と、少し趣が異なるらしい。

(……作戦を間違えたかな?……)

だが、熱い男はこのぐらいのことじゃへこたれない。
直ぐにフッとまた甘い笑みを浮かべると、鉄格子の前で彼女に恭しく膝を折った。
作品名:どしゃ降りの涙♪ 作家名:みかる