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どしゃ降りの涙♪

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「無駄だ。君は行けば反逆者で掴まる身だ。それにこんな突拍子もない話を一体誰が信じるという? 魔軍の力の源は、人間の憎悪に欲望に絶望だ。彼らの撒き散らす瘴気は大気を汚し、人からまともな思考を奪う。誰もが自分の欲望により忠実になり、人が変わったように凶悪になる。誰も世界の為に身を呈して働こうなど、思うものか。」

「……そんな……じゃあ、アルベリックが狂ったのは……」
レイラは思い当たる節があるのか、蒼白になってがっくりと肩を落とした。思案に耽る彼女に、セイランはそっと耳打ちした。

「だが、まだ手立ては残されている。天界の使者はこの地に舞い降りた。天の加護は人間に届けられるだろう。そして、天使の加護を受けた者は、魔軍をはらいのけられる程の力を有する」
レイラがはっと顔を上げる。

「天使の加護を受けられるのは勇者だけだ。そして、君はその誘いを受ける機会に恵まれた。帝国を救ってくれレイラ。君ならできる」
「当たり前よ!! 私の故国を滅ぼしてなるものですか!!」
彼女はぐっと拳を握り締めた。
「勇者になる!! 私は貴方達の申し出を受ける!!」

チェック・メイト♪

セイランは内心ほっこりと笑みを零した。
「では、手始めに君に妖精をつけよう。ランディ」

振り返り、セイランはロザリアのスカートにしがみついていたランディを手招きした。
「あい!!」

≪おい!! セイラン!! そのレディは俺の担当じゃなかったのか!!≫
オスカーは虫かごのゲージに飛びつき、扉を開けようとがたがたと暴れだす。

セイランはランディを自分の手に救い上げた。
「レイラ。この子は見ての通り、生まれたばかりの妖精だ。でも、さっきの戦いを見ただろう? 小さい体でも、自分よりも大きな敵に一歩も怯みはしなかった。彼は将来、きっと勇敢な騎士になるだろう。
ランディは、天使と君を結ぶパイプ役が仕事だけれど、君の手が空いた時に、君の見事な剣を仕込んでくれると助かる」

レイラは妖精に護られるよりも、護る側の方が実力を発揮する。そうセイランが読んだ通り、レイラは差し出されたランディに対して、非常に嬉しそうに微笑みを浮かべた。

「ほら、しっかり役に立つんだぞ」
「まかちぇてくだちゃい!! えいっ!!」
ランディはいつものようにくるくると回転してジャンプを決めた。ぺったんと彼が着地したのはレイラの豊かな胸だった。

「あらら」
レイラは掬うように彼を両腕で抱く。
「ふふふ。可愛いわね♪」
小さくて愛しいものを与えられ、レイラは花が綻ぶように嬉しそうに笑った。

≪ああああ!! 俺もぎゅ〜してくれぇぇぇぇぇ!!≫
オスカーはますますがたがたと虫かごの扉を揺すった。

≪ランディ!! 後生だ!! 俺と代わってくれぇぇぇぇ〜……はううう!!≫
げい〜ん!! と、いい音を立てて、ロザリアのピンヒール・キックがゲージを蹴り飛ばした。

「お兄様!! 妖精族の王子ともあろう方が情けない!! あんまり私に恥をかかせないで下さいませ!!」




レイゼフートから遥か離れた街にレイラを降ろすと、バイクは再びぐんと飛び立った。
これでやっと三人。
セイランは残りの四人の居場所を地図で確認した。

「ここから近いのはセレスタのサヤク。それとブレーメスのダーグか」
フェインもアイリーンも夜型人間だ。どちらを先に訪れてもいいが……と、思案に耽った時だ。今まで彫像のようにクラヴィスの肩に止まっていたフクロウが、そわそわと身じろぎを始めた。
レイチェルのかけた魅了の効果が薄れ始めている。
となると、先に彼女から攻略していった方がいい。

「よし、ゼフェル。先にブレーメスに向かってくれ」
「おう!!」
ゼフェルはすぐさま座標を決め、バイクを空間移動させるべく、加速を開始した。


だが。


「おうわ!! まじい!! 座標が狂った!!」
「え?」
加速のついたバイクが、おかしな蛇行を開始する。
「くそぉぉぉぉぉ!! 引っ張られる〜!!」
「ゼフェル!! ちょっと!!」
セイランの静止も間に合わなかった。彼が顔を上げた時、既にバイクは空間の狭間に身を躍らせていた。

雲間を突っ切るような冷たい大気に全身をしたたか打ち付けられる。
何処までも続くかと思われた暗闇も、出口はやはり唐突だった。
青白い閃光と眩い白濁とした光の渦に包まれ、バイクは何時の間にかその動きを止めていた。
閃光で眩んだ目が慣れると、彼らがいる所は、ルヴァの執務室を思わせるほど本がうずたかく積まれた部屋だった。木の床には、巨大な魔方陣がしかれている。

「召喚の魔方陣? 一体誰が?」
「あたしよ!!」

彼らの目の前には、分厚い本を手に持ち、怒りで顔を真っ赤にした少女が仁王立ちしていた。

「よくもウェスタを誘拐したわね!! この泥棒が!!」
「あ……アイリーン……」
ヴィエペンギンが情けない声を出し、あちゃ〜と顔を覆う。

だがセイランはふてぶてしく腕を組むと、じろりと冷たく彼女を見据えた。
先にケンカモードで突っかかってきたのはアイリーンだ。となるとセイランの性格上、売られたケンカは漏れなくお買い上げした上相手を叩きのめす。それが彼である。

「へぇ君は千里眼か。人の身で凄いね。平気で僕ら天使を罪人扱いできるなんて、ただの人間が何様のつもりかい?」 
「なんですってぇぇぇぇ!!」


こうして、セイランがアルカヤに来て初の、勇者候補との戦いは始まった。




★☆★☆★








「ヴェスタを返して!!返さないとただじゃおかない!!」
「へえ?どうやって??」


ぎらぎらと睨み付ける深い蒼の目は鋭い。だが、たかだか12才の少女に睨まれた程度で、萎縮する程セイランは柔ではない。
逆に、侮るように口の端を歪め、腕を組んで嫣然と見下す。この意地っ張り同士の無言の戦いに、先に禁を破ったのは、忍耐強くなく気迫負けした少女の方だった。

「この誘拐魔!! ウェスタを返せ!!」

アイリーンは傍らにあったものを手当たり次第に引っつかむと、勢い良くセイランに向かってぶつけてきた。
天使相手に人間の脆弱な魔力を使ってくる程、無知な馬鹿ではなかったことを証明したが、それでもセイランにはそよ風と同じ。
ひょいひょいかわす彼に、何の一撃にもならなかった古文書やガラスの実験器具が、石畳の床に叩きつけられ、壊れ、ばらばらとページが舞う。

アイリーンは物を投げながら一気にセイランとの距離を詰めた。そしてウェスタを奪い返すべく、彼の左肩に停まっていたふくろうに、手を伸ばして足を掴む。

……筈だった。

「…!!」

虚しく何も触れられなかった指、ぱさりと乾いた羽音がたつ。
今だレイチェルの魅了の術から抜け出せないウェスタは、無情にも主の手を拒み、すんでの所で彼女の華奢な手をかわし、天井近くまで舞い上がる。
そして、二回彼らの頭上で大きく旋回した後、鳥はアイリーンから少しでも逃れたかったのか、セイランの右手首に両足で捕まる。

「驚いたな」

人間風情が、セイランの裏を欠こうとするなんて。
だが、そういうチャレンジャーは好きだ。気に入らない奴なら、更に徹底的に叩き潰せるし、面白い奴なら逆に飽きるまで愛でたくなる。
作品名:どしゃ降りの涙♪ 作家名:みかる