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どしゃ降りの涙♪

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――――あいつは必ず墜天する――――


誰が決め付けてくれと言った!?


――――可哀想な子――――
――――可哀想に――――――


人に同情するふりしながら、人の未来を貶めて蔑ずみ、自分は堕天することはないと、勝手な優越感に浸る。
確かに今天界一の地位を得たジュリアスを『レヴィアスの弟』と貶めて、己の立場を危うくするより、反論できない子供を嬲る方が楽しいだろう。
そんな程度の低い馬鹿に突っかかる程脳味噌が小さくなかったから、セイランも『ジュリアス・ミカエルの甥に、何か用でもあるのか、こらぁ』と、簡単にアホをあしらったのだ。


肩書きでしか人を評価できなかったかつての同僚は、ジュリアスの名前に怯み、そそくさと消えた。今後、彼はセイランが出世する度に、腹立ちまぎれに『権力のある伯父を持っている奴は幸せだな』と、あちこちで毒を吐いてくれるだろう。
そんな負け犬など、頭の片隅にすら記憶を留める価値もない。
セイランは、再び何事もなかったように、本を紐解いた。

天使軍に入隊できたからって、一兵士のままでは魔軍の王に会える筈がない。
父を追い詰めるのなら、父を追いかけている天使軍でも最精鋭の部隊に入り、意見を通せる立場を得なければならない。
ジュリアス・ミカエルの軍か、それに並び立つクラヴィス・ウリエルの軍。
その地位に上るまで、今後もますます戦功を立てる必要がある。


子供なセイランが、剣を振り回して敵軍に突っ込んだとて、せいぜい取れても魔物の首一つか二つ。そして返り討ちに合い、死んでしまう可能性の方が高い。
ならば、セイランは有益な作戦を立案し、指揮権を持つものが使いたくなるように仕向けるしかなかった。

再び本を開き、先程しおりを挟んだ個所をめくる。
少ない人数で、多大な戦功を立てようと思うのなら、戦場となる土地を有効に使うのは当たり前。
次の戦地は樹海。火山が多い。
平地はまずない。視界の悪い森、だが火山の裾野に大きな森があるとすれば、その森を養う水が必要で、地下水を樹木がせっせと汲み上げているのなら、森の地盤は空洞。
そして、地図を見れば至る所に鍾乳洞が存在している。
鍾乳洞の特徴は……土地の脆さ、有毒なガス、水、そして袋小路。


「鍾乳洞に誘い込んで爆殺……となると、追いかけたくなるような餌が必要か。うーん、あの部隊で魔軍が危険承知で食らいつく人材なんて、カティス・オベロンぐらいか」

小隊長の自分では、まだ上役を罠に嵌め、自分に都合良く動かすのは後々立場が危険になる。
セイランはペンを走らせ、組み立てた作戦に大きくバツをうつ。


「なら鍾乳洞のある山に追い詰めて足元を崩す。……上手く崩せれば、中身は空洞。蟻地獄のような穴に嵌った敵なら………僕の隊でも1個中隊ぐらい撲滅可能か……よし、これでいこう!!」


幼い心を占めるのは、相変わらず血で塗れた剣を持ち、微笑む父の姿だけ。
もう一度会いたい。会って聞きたい。


――――何故墜天した?――――と。
――――何故僕を捨てた?――――と。


父に再会することを夢見て、戦場をひたすら駈けた。
その執着が、彼を『戦略の天才』『稀代の軍師』にした。


18の時、今更だがジュリアスに認められ、彼の参謀となった。
同時に「私に肉親の縁など、当てにするな」の言葉を貰ったが、セイランとてジュリアスは単なる自分が目標を果たすために利用する道具。そう割り切って戦功を重ねつづけた。


人の年に換算して1年後。
セイランが19歳になった時、天使軍は、魔軍と真っ向から戦った。

その大戦の最中、セイランはジュリアスを出し抜き、自分の率いた部下だけでレヴィアスを罠に嵌めた。

廃墟となった城の奥に、魔軍を殲滅させる為の巨大魔術をしかけるため、天界の至宝【聖杯】を持ち出して核に据え、その情報を魔軍に流したのだ。
力の無いものが持てば、一瞬でその身を塵と化す聖遺物。【聖杯】は、杯に魔力を集める器である。飲み干しても無尽蔵に湧き出る魔力の杯を、もし1魔物が手に入れる事ができれば?
永遠と尽きぬ魔力だ。レヴィアスが手に入れれば、ますます魔界の王の権威は増す。
だが、レヴィアスの側近になれるような有力な魔物がこれを得れば? 
力はレヴィアスをも凌ぐやもしれない。となれば、魔界の勢力もまた二つに分かれる可能性もある。

レヴィアス自身、己の側近の者に【聖杯】を奪われても身の破滅、また今や4大天使と同等の力を持つと評されたセイラン・レミエルの仕掛けた巨大魔術だ。『発動されれば最後、魔軍の殲滅は免れまい』などのウワサを流されれば、魔軍の皆が浮き足立つのも必須。
デマだと一蹴できない、かといってセイラン相手に戦えるのは、自分の側近ぐらいだろう。だが腹心の部下を差し向けても、所詮堕落した天使、聖杯が絡んでいる以上、いつレヴィアスを裏切るかもわからない。

そんな厭らしい作戦を仕掛けられれば、レヴィアスは、罠だと知りつつも来るしかなかった。





巨大魔術はもともと、セイランがレヴィアスを捕らえる為に施した大掛かりな仕掛けで、聖杯を核にした魔方陣は、いくら魔界の王でも簡単に破れる代物ではない。

銀色に輝く鎖と凄烈な眩い光の檻、聖句の詠唱が浪々と響く中、指一つ動かすこともできずにうつ伏せて蹲る父に対し、セイランは目の前が赤くなる思いだった。



「――――何故、僕を捨てた?―――――」



ずっと、何年も心に抱えていた疑問。
淡々と問いただした自分に対し、一人囚われた闇色に染まった堕天使も、口の端を歪めて笑う。



「……お前は子供で、我が連れて行くには足手まといだった。堕天の者は嫉妬深い。例え我の子でも、我が愛しているからこそ、我が知らぬ間にお前は殺されるかもしれない。かと言って我が反逆すれば、お前はきっと反逆者の子として天界で辛い思いをして生きるだろう。ならば、殺してやる方が慈悲」


懐かしい父の左右色の違う目は、相変わらず揺ぎ無く、迷いなど微塵も感じられない口調で、『愛』を囁く。
子供の人格も意志も一切省みず、勝手に自己完結した挙句、自分を殺してくれた親の言い分はやっぱり身勝手で、セイランのただでさえ低い沸点が臨界点をぶっちぎる。


「何が慈悲だ? 誰が殺してくれと頼んだ? 誰が足手まといになる? 僕はそんな柔じゃない。勝手に決め付けやがって。僕を見くびるのも大概にしろ、馬鹿親父!!」



ずっと恨んできた。
ずっと憎んできた。

7歳で捨てられて以来、ずっと父を追いかけ続け……、やっと得た答えがこんな理由?


ふざけるな!!
ふざけるな!!
ふざけるな!!
ふざけるな!!

子供は親の所有物か!!


「あんたはもう、親じゃない!!」


セイランの双眸から、勢いよく熱い涙が滴り落ちた。
7歳の時、全て涙は出尽くした筈だったのに、もう止められない。
再び心に憎しみの火が燃え上がり、彼の喉から獣のような意味を持たない喚き声が迸る。
ただの子供に戻ってしまったかのように、セイランは膝をついて身をうつ伏せ、声をあげて号泣した。

作品名:どしゃ降りの涙♪ 作家名:みかる