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どしゃ降りの涙♪

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憎くて憎くて憎くて憎くて、悔しくて、脳髄がぐしゃぐしゃにかき混ぜられて、そして馬鹿みたいな自分自身を憎悪した。
こんな奴を追いかけ続けていたのだ。
この12年間、1日たりとも忘れたことなどなく!!

涙と、悲鳴をあげるような泣き声とともに、セイランの体内に燻っていた何かも動き出した。
それは、言わばセイランの心の中で止まっていた『時』だ。
過去にレヴィアスに傷つけられ凍ってしまった彼の心、七歳の子供が抱いていた執着が、今やっと『納得』という、自己完結に解かれ、霧散していく。
やっと彼はレヴィアスの呪縛から解放されたのだ。


なのに。



「セイラン。我の手を取れ」


心がようやく平穏を取り戻し、泣き声がやっと擦れ程度に納まった頃、魔方陣に囚われていたレヴィアスが、身を起こし、セイランに手を差し伸べた。


「我が手を取れ。お前は我の愛し子だ。もう一人にはせぬ。今こそ、お前を魔界の王子に迎えよう」


セイランは、最初目の前の男が何を言っているのか理解できなかった。
泣き濡れた目を拭い、まじまじと変わり果てた父の姿を見る。
美しかった白銀の髪は、漆黒の闇色に染まり、身に纏う数々の魔石は血色に輝いている。
父が手を取れというのは、セイランに『堕天使になれ』と言ったも同然。
彼の心が、一瞬で絶対零度にまで冷え込んだのは当たり前だ。


「どんな世迷いごとをほざいたかと思えば、あんた、脳味噌腐ってんじゃないの?」


結局、父親なのにこの男は、セイランのことなど、何一つ理解していなかったのだ。
未来を勝手に決められた挙句、可哀想にと殺された自分。
やっと今、そのトラウマと踏ん切りがついたのに、またもやこいつはセイランの未来を勝手に決めようとする。



「成長した僕は強くなった、今度は自分の役に立つから我が元に来い?って?」
「違う、我はお前を愛している……、だから今度こそ、もう寂しい想いはさせぬと……」
「へぇ、あんたは『アイシテル』を免罪符に振りかざして、僕にジュリアスの軍から離反して、しかも堕天使に姿変えて、こっちへこいって言うんだ。ねえ? なんで僕がそこまであんたに尽くさなきゃならないのさ? 僕を殺そうとしたあんたに対して」


淡々と畳み掛けるように、父の言葉を封じると、レヴィアスは傷ついたように表情を歪めた。


「我は確かに間違ったのかもしれん。だから、もう間違えたくない。セイラン、お前に我の全てをやる。お前を魔界に連れて行き、今度こそ我はお前を幸せに……」
「あんた自身、自分の立場を何も変えようともしない癖に、僕だけ変われって? あんた一体何様のつもりだい?」
「ならばお前は我にどうしろというのだ!?」
「僕に聴くな。そうやって考える頭もないから、簡単に僕を……子供を殺したんだろ。脳味噌全部詰めなおして来い、この能無し」

「セイラン!! 貴様親に向かって……!!」

「もう沢山だ!! あんたの価値観を僕に押し付けるな!! あんたに僕の何がわかる? 僕自身、僕の幸せの基準が未だ理解できてないのに、なんであんたが僕の『幸福』を指図するんだよ!!」


セイランの怒声とともに、彼の体からほとばしった衝撃波が大地を削る。
今や天界の4大天使並みに力のあるセイランだ。理性の糸がぶっち切れ、感情の波に身を任せれば、古城の一つ二つどころか街一つが簡単に消滅する。
それは聖杯を核にして、レヴィアスを雁字搦めに捕縛した魔方陣も同じこと。
張り巡らされた聖句の檻が、ズタズタに切り裂かれる。


綻んだ戒めに、レヴィアスが身を起こす。
彼は必死の形相で再びセイランに両手を差し伸べる。


「セイラン!! 我は愛を証明した。我は残して行く幼いそなたを、殺そうとまで思いつめたのだぞ!!」
「それが何? そんなたわごと一つで、今、あんたが僕を『力のある道具になる奴』としか見ていないって、言ってるんじゃないんだよ♪って、この僕に納得しろって? 生憎僕はそんな安くないよ。僕を魔界に引き込みたければ、天界の一つ二つ、僕への手土産に差し出してみろ!!」


誰よりも崇高で気高く、神の傍らにはべる第一の天使。
そんな父を恋い慕ってきた。
こんな所で、セイランごときに捕らえられるろくでなしなど、最早父と呼ぶことすら悪寒が走る。


「セイラン、我は……今一度、お前とやり直して……!!」
「帰れ魔界へ!! あんたの顔なんて二度と見たくない!! 消えろ!! 今すぐ僕の目の前から居なくなれ!!」



セイランの絶叫と供に、古城の崩壊し、魔方陣も瓦解した。
我が子に絶縁されたレヴィアスは、『我は、欲しいものは必ず手に入れる。必ずお前を迎えに来る』などと、自己完結したたわ言をほざいてくれたので、更にセイランの怒りを買い、彼の掌握している稲妻の集中砲火を浴びた。
言葉も通じない唯一の肉親との会話に、もう何も考えたくないぐらい、セイランは疲弊してしまった。


瓦解してしまった古城、セイラン自身が砕いてしまった魔方陣。
聖杯だけはちゃっかり懐に収めた後、くたびれたセイランは、自分の軍を纏めて勝手に天界へ帰ってしまった。


レヴィアスを完全に追い詰めながらも取り逃した件で、セイランはジュリアスから裏切り者の嫌疑をかけられたが、もうどうでも良かった。
他人の思い込みの断罪など、自分がいくら弁解を働こうが、ジュリアスに信じる意志がまったくないのだから言うだけ無駄だし、ただでさえ気に食わない男に媚を売ってまで、軍に残って何になる?

抜け殻になったセイランは、もう軍に対して未練はなかった。
軍属を解かれた自分に与えられた辞令は、同じくこの大戦で愛妻を失い、生きる屍となったクラヴィス・ウリエルの配下となり、エリミア宮を管理することだった。


生きる目標は、もう何も無かった。
自分がこれから何のために生きていけばいいのか、今のセイランには判らなくなった。



★☆★☆★


 9









生きている以上、誰だって悩むさ。恋に破れたり、願いを叶えるために努力しても、それが報われなかったり、突然最愛の家族と死に別れたり、裏切られたり、盗まれたり、失ったり、傷つけられたり――――――過去もきっと千差万別。

その時受け取った心の痛みだって、それぞれ受け取り方が違うだろう。

だから僕は、君に「大変だったね」「可哀想に」「頑張ったね」なんて、ありきたりの言葉は贈らない。
君の気持ちは判るなんて、そんなおこがましい僕の思い込みを押し付ける気はないから。

けれど、君同様に家族と別れた過去のせいで、僕も多大に心に傷を負った身だ。袋小路に追い詰められて時を止めた君に、未来を歩く切っ掛けを一つだけ指し示すことはできる。

――――――選ぶのは君だ――――――



☆☆



ベッドで膝を抱え、丸くなったアイリーンと、その傍らの椅子に腰掛けたセイランとの間に、今静かな時間が流れていた。

気を張って殻に閉じこもっていたアイリーンは、穏やかな表情でセイランの話に耳を傾け、セイランもまた…皮肉屋の仮面を取っ払い、素直に胸の内をさらけ出しているせいか、綺麗でいつもなら作り物めいて見える顔に、温かみのある表情が伺える。


作品名:どしゃ降りの涙♪ 作家名:みかる