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どしゃ降りの涙♪

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古来から、戒律に縛られた僧侶達の多くは、民に徳の高い説教をする反面、影では女達と享楽的に遊んでいる。セイランに言わせれば、日常を清く正しくあれと締め付けるから反動が来るのであり、神に仕える聖職者であろうと、人間である以上、適度の息抜きまで奪う必要は感じない。

だが、ロクスは明かにやりすぎだ。
本来、成人したら教皇に即位する筈の男が、23にもなって式典が行われていないのは、彼の素行があまりにも悪いからだ。


そして今、沢山のギャラリーに囲まれつつ、セイランの目の前でチップを山と積み上げ、五枚のカードを捲る彼の口元は、なけなしの虚勢で下品に歪み、いびつな薄笑いを浮かべている。


ロクスは最初、イカサマのセオリー通り、長衣の袖にネコババしたカードを隠していた。
だからセイランも、悪びれずに手の平サイズになったロザリアに姿を消してもらい、彼が袖から欲しいカードを引きぬく毎に、ついでに2〜3枚引っ張って、ワザと彼の失敗を演出したのだ。

イカサマが発覚すれば、その勝負に賭けられたチップと三倍の違反金が相手のものとなる。僅か5回のイカサマがばれただけで、ロクスの負けは金貨800枚に膨らんでいる。

真っ向からの勝負に切り替えたロクスだったが、消えているロザリアなら彼の手持ちカードを読み、セイランに知らせるなど造作もない。
最早、彼の敗北は確定しているのに、諦めの悪い男はまだ逆転のチャンスを狙い、自分の手元にあるなけなしのチップを、更にテーブルに山積みした。

≪セイラン、ロクスは3と8のツーペアです≫

ロザリアから、周囲に聞こえない心話を受け取り、セイランは己の手札を見た。
ハートのカードが五枚揃っている。彼の役はフラッシュだ。相手が次にカードを一枚チェンジした時、3か8のカードが来ない限り、楽に勝てる札である。

セイランは彼と同額のチップをテーブルに並べ、五枚のカードを開いて置いた。
途端、ロクスの綺麗な顔がすうっと強張るが、彼はうっすらと微笑んだまま、望みをかけてカードを一枚場に捨てる。

「あんた、見かけと違って結構場慣れしてるな」
「まあね。どんな種族だって個性はある。大体、皆がアンジェみたいな清廉で愛らしい奴ばかりだったら、僕らの世界はとっくに崩壊していると思わないかい?」

ギャラリーが多いので、セイランもワザと『天使』とか『天界』という言葉を使わないように心がけた。ロクスは口元をにやにや歪め、中央に置かれたカードの束から、一枚新たな札を得ようと手を伸ばす。

「ふーん、君はあの『ちんくしゃ』の仲間だったんだ」


ピキッ


セイランと、姿を消していたロザリア、そして彼の背後で勝負を見ていたクラヴィス、同じくゼフェル、エルンスト、オスカー、オリヴィエ、ヴィクトールの表情は瞬時に固まった。
勿論、セイランとロザリアとクラヴィスは、ロクスの言葉が勘に触り、残りの面々は、セイランの顔色の変化に怯えている。

今までの柔和そうな『天使』の仮面が剥がれ落ち、無表情になったセイランは、ゆるゆると顔をロクスに向けた。

「今、君は誰の事言ったんだい?」
「誰ってそりゃ、あのおつむがパーのチビの事に決まっているだろ?」

セイランの怒りのボルテージは、一気に急上昇した。思わず拳を振り上げたが、ロクスが先に手を出してこない限り、人間に対する正当防衛は成立せず、セイランは目の前の男を殴れない。
ぶるぶると震える拳を鉄の意志で引き戻し、代わりに射殺さんばかりの目でロクスを睨みつける。
だが、セイランが自分に拳を絶対に振るうことはないと納得した男は、途端に態度がでかくなった。大きく足を組み、自分が捲ったカードを片手に、どっかりと腕を伸ばして椅子の背もたれに体重を預け、それから不遜にセイランをにやりと見上げる。

「あんたさ、随分あの脳タリンを庇うじゃないか?」
「……あんた、言葉を慎め。アンジェは僕の恋人だ……」
「ほー、変態のロリコンだったんだ。ちんくしゃ相手によく欲情するよなぁって……、ああ、悪い。あんた達は皆、童貞だったっけ?」

ぷつんっと、セイランの中で、堪忍袋の緒が切れた瞬間だった。
彼は荒々しく席を立つと、震える拳を握り締め、憤怒に歪んだ目で、にやにや笑う男を睨みつけた。

「用事を思い出した。ゼフェルでもクラヴィス様でもオリヴィエでも誰でもいい。この場は任せる」
「いやあ、気を悪くしちゃったみたいだね。悪気はないんだよ〜……あははは。とうとう僕にもツキが回ってきたみたいだね。フルハウス!!」

ロクスはほくそ笑みながら、3枚の5と2枚の3をテーブルに並べ、場に並べられたチップの山を、意気揚揚と自分の手元に引き寄せた。
今、彼は最高に良い気分だろう。セイランを言い負かしたと思い込み、人ごみを掻き分けて酒場の出口に向かう彼に対し、高らかに哄笑まで浴びせているのだから。


――――――それが更に、彼の逆鱗に触れている事に気づかずに――――――


≪セ……セイラン!!≫

ロザリアが、姿を消したままぱたぱたと彼の元に飛んできて、裾を縋るように両手で引っ掴んだ。そんな彼女に対し、彼は薄っすらと微笑み、珍しく優しく妖精の頭を指で撫でた。

「アンジェの勇者だから。なるべく穏便になって貰おうと思ったけれどさ、あいつには少し教育的指導が必要だと思わないかい?」

ロザリアはこくりと息を呑んだ。

「何をなさるつもり?」
「うん、ちょっと思いついたことがあってね」
「……殺人だけは止めてね。あんたが堕天使になったら、あの子はきっと泣くわ」
「判ってるさ。アンジェにバレて、彼女を悲しませるようなヘマはしない」

言葉のニュアンスに、ちょっとしたズレを感じるが、セイランとロザリアは、双方にっこりと黙殺した。

「ロザリア、君はこのままクラヴィス様の所に戻って、今まで通りにロクスのイカサマを阻止しつつ、彼の手札を教えてやってくれ。僕も準備ができ次第、直ぐに戻るから」
≪ええ、判ったわ≫

ロザリアは羽根を翻し、再び酒場の中に戻っていく。
それを確認した後、セイランは、歩きながら自分の上着を次々脱ぎ、上半身を体もあらわなノースリーブの黒いシャツ一枚きりになると、兆発的に通りすぎる男たちに目配せを送った。

美しい二本の腕で、ゆっくりとシャツの裾もたくし上げ、形良いへそも見せる。
もともと娼婦もかすむ程の美貌だ。いかがわしい路地で、誘うようにむくつきの男達に笑って見せれば、鼻の下を伸ばしたカモが、そそくさとセイランの元に群がり出す。

「よぅ兄ちゃん、いくらだ?」
「当然僕は高いよ。さぁ、アンタ達はいくらつけてくれる?」

その一言で、彼が男娼だと証明された。
その途端、遠巻きに見ていた男までもがどんどん彼の周りに群がっていく。

「俺は二時間で金貨1枚出すぜ」
「俺は一晩で金貨5枚だ」
「俺なら10枚はずむぜ!!」
「俺は20枚出す!!」

この界隈では二度とお目にかかれないような上玉に、博打で儲け、気が大きくなっていた男達が、どんどん値段を吊り上げていく。
作品名:どしゃ降りの涙♪ 作家名:みかる