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どしゃ降りの涙♪

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「………貴様相手では……命がいくつあっても足りぬ……私はまだまだくたばるつもりはないからな……」

最初から、素直にそうしろと言わんばかりに、セイランは大仰に首を竦めて右手に持ったショート・ガンを再び腰のホルダーに戻した。前回クラヴィスは、このセイランの目の前で、二度寝を貪るという大愚を犯したので、速攻で眉間に銃弾を撃ち込んでやったのだ。
セイランが手加減していたからこそクラヴィスも脳震盪と血を流す程度で助かった。彼が本気で弾に念力を込めていれば、クラヴィスの脳漿は確実にぶっ飛んでいただろう。

セイランはその実力だけなら四大天使に匹敵する程の聖力を持っている。頭も良く、センスも良い彼は、過去、ジュリアスの幕僚にいて、軍の布陣や軍略を立てるなどに、抜群の才能を見せ、天才の名を欲しいままにしていた。だが彼の場合……気が向かなきゃ働かないという性格をジュリアスに疎まれ、魔軍との大戦終結後、速攻軍から外され閑職であるクラヴィスの配下に回されたのだ。

「何一つ生み出すこともなく、ただ過去の想い出に縋り、死者の声を聞き続けるために、生者を拒絶し、この暗い部屋に閉じこもるだけの日々。そんな貴方にどうして生きてる意味がある? そんな粗大ゴミ、世の為人の為僕の為を思うのなら、とっととくたばって欲しいぐらいだね」
「その手には乗らぬ……貴様になど、百年経とうが千年経とうが、アンジェとの結婚など、絶対に認めぬからな………」
「おや、残念」
「大体、貴様に私のことが言える口か。かつての軍の神童が、なんという体たらくだ?」
「それでも、僕は納得した自由な人生を送っている。毎日美しい物を創造し、感動し、恋をし……素晴らしく充実した日々さ。貴方はどうなの?」

セイランはにやっと口の端を歪めて笑った。
先の魔軍との争いで、クラヴィスの最愛の妻……ディアの双子の姉君アンジェリークは亡くなった。クラヴィスを庇い、彼の目の前で魔軍の将ベルゼブブに切り殺されたのだ。その日から、彼はずっと役目を放棄し、闇に身を置き、失った愛しい妻の魂と話すためだけに、この部屋に閉じこもり続けている。

この男が死を選ばないのは、ひとえに可愛い愛娘の行く末が気にかかるからだ。
クラヴィスは、彼の納得いく男に娘を託したら、即妻の魂とともにあの世に旅立とうとしていたが、それなのに娘が恋人に選んだのが……クラヴィスの部下セイランなのだ!!

(こんな男に、娘を託せるか!!)

自分の事を棚に上げ、クラヴィスが憤ったのも仕方がない。仕事を放棄したクラヴィスである。そんな彼の元に送られる部下は、やはりそれなりに問題の多い者ばかりだった。
そんな中でも、セイランは更に異彩を放っている存在だったと言えよう。
過去に華々しい経歴を持っているにも関わらず、現在クラヴィスの元で何をしているのかがまず把握できないのだ。

エミリア宮を任されたのをいいことに、巨大迷宮をこしらえたのは彼である。しかも、稀代の捻くれ者という評判に違わず、その迷宮も階層を九つに分けた手の込んだ作品で、下の宮に行けば行くほど魂の生還は絶望的という代物である。
そして、セイランは自分の気に食わない者が守っている勇者の魂が迷い込んでくれば、これ幸いと問答無用で最下層にぶち込んだ。助けに入った天使の中には、発狂した者、自殺した者、また行方不明となった上、セイラン憎しで堕天したものまでいるというから、彼の細工の巧みさも伺い知れるだろう。

そして、悪い噂はどんどん勝手に巨大化していくのだ。
彼が迷宮でミノタウロスやラミアを飼っているとか、勇者の魂を餌にして、魔法実験しているとか……そんな黒い噂は山のようにあった。

セイラン自身は、噂が一人歩きしていることに気付いていたが、打ち消して回るのも邪魔くさいし、人と関わるのが疎ましかったので、これ幸いとそのままほっておいたからいい。
だが、そんな評判がついて回る彼に、愛しい妻の忘れ形見である一人娘を託さねばならぬとしたら!!

(絶対に、この男だけは許さぬ!!)
と、父親は石に噛り付いてでも生きようとするだろう。

自殺をしたがってる者に、自殺をしやすくなるように仕向けるのは簡単だ。
しかもそれが美しくも哀しい恋であるのならば、セイランの信条から言えば『ぐだぐだ言ってないで、さっさと逝け!! 後のことは僕に任せろ!! アンジェは絶対幸せにしてやる!!』と、相手が望めば指にかかったトリガーを代わりに引いてやるぐらいはやるだろう。

実際、その方が自分もアンジェと結婚して一緒に暮らすという夢が叶うのだから、セイランにとっても、クラヴィスがくたばりたいのなら喜んで協力してやりたいところだ。



だが、アンジェが身も世も無く泣くのが判っているから……。



いまだに亡くなった母を恋しがり、夜、自分の腕の中で泣くこともあるのだ。このまま父親に置いていかれれば、どれだけ彼女が嘆き哀しむか、想像できてしまう。

他人の切ない恋の成就より、自分自身の都合より、自分の愛しい恋人が幸せに笑ってくれるのが何よりも一番だ。
だからセイランはクラヴィスに対して容赦がなかった。
クラヴィスがセイランを嫌えば嫌う程、彼は絶対にアンジェを残して自害しないのだから。



「そ。なら、そんなに大切な愛娘が、貴方のせいで今大変な目に合ってるって聞いたら……貴方はどうするのですか?」

セイランが腕を組みながら冷ややかに見下ろすと、クラヴィスはきまり悪げに眉間に皺をよせた。

「あの子がアルカヤに派遣された話は聞いているかい? ジュリアス様方は、よほど貴方を公職に復帰させたいとみえる」
「…………」

「可哀想に。インフォスで力を使い果たして、幼児体型しか維持できない程弱っているというのに……そんなか弱い存在を、魔軍が跋扈しているアルカヤに派遣するなんて……しかも、勇者候補達は、ちびちゃいアンジェが必死で頭を下げまわっても、冗談だと思って、話しも聞いてくれないらしい。
聖なる力もない。勇者もいない。妖精もロザリアを外されオリヴィエただ一人にされた。なのに、インフォスよりもかなり強い魔軍がいると見うけられるアルカヤが任地だ」

セイランはもう一度ショート・ガンを引き抜くと、クラヴィスの眉間に銃口を当て、トリガーに指をかけた。

「貴方、もしかしてアンジェを見殺しにして無理心中を企んでいるのかい?」


勿論これはセイランのいいがかりだ。
クラヴィスは怒りで顔色を変えた。

「そんなことはない!! 私は、あの子の幸せを望んでいる!!」

彼は首を振りながら吐き捨てた。
その表情から、彼が自分同様……アンジェがアルカヤに派遣されたことを今日初めて聞いたことが推測される。
セイランは心の中で、クラヴィスが惰性でとぼけていたのではないことに安堵した。でも表情は変えずに、ますます強く彼の額に銃口を押し当てた。

「アンジェがアルカヤに派遣されたのは、貴方のせいだよ。どうしてくれるんだい?」
「お前は……何を希望する?」
「愚問だね。当然貴方に働いていただきたい」

クラヴィスの口元がひくひくっと引きつった。
作品名:どしゃ降りの涙♪ 作家名:みかる