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どしゃ降りの涙♪

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涙が溢れ、ぽろぽろと頬を伝って流れていく。
「ありがとうクライヴ……、本当にありがとう……!!」
嬉しくて嬉しくて、えくえくとしゃくりあげながら、ぎゅっとそのままクライヴの服で涙を拭う。すると、彼が躊躇いつつも、アンジェの小さな体を抱きしめ、ぽしぽしと頭を撫でてくれた。

幼子にいきなり泣かれ、どうしようと戸惑っているのがありありだ。
そんな不器用な彼の腕が心地いいし、それに薬が回ってきたせいで、意識もふわふわして目があけていられない。
アンジェは結局、そのまま疲れて眠ってしまった。


「天使どの?」

出血が多くて貧血を起こしたのかもしれない。
主が危機だというのに、鳥もどきの妖精は来る気配もない。それにもう後2〜3時間で朝日も昇る。半分吸血鬼の血が混じっているクライヴに、夜明けの光はきつすぎる。
苦しくて動けなくなる前に、日の光を遮れる場所に、彼は身を隠さねばならなかった。

「……仕方ないな……」

深手を負った天使を、墓場に捨てる程非道ではない。
彼はアンジェを抱き上げ己のマントで包むと、愛馬に乗ってまっしぐらに自分の家に連れ帰り、衣服を剥いで下着一枚にした彼女の傷口に軟膏を擦り付け、包帯をぐるぐる巻きにした。
天外孤独な彼に家族はいない。よって、この家にはベッドも一つしかない。

「…………」

所詮五歳児、小さな彼女を転がしても、ベッドは余裕でクライヴの寝る場所はある。それに辺境の地は北国、天気は変わりやすく、今も雪がチラチラと舞い出した。
クライヴは冷たい床に毛布一枚で転がるのを中止し、アンジェを起こさないように、静かに隣に横たわった。

もぞもぞ……、ピトッ。

「…………」

小さい体がクライヴの胸に収まり、もみじのようなぷくぷくとした手が、彼の寝巻きの裾にしがみ付く。
こんなに警戒心がなくて大丈夫なのだろうか?
すうすうと寝息を立てて熟睡する彼女に、心がふんわりと温かくなる。クライヴは、小さくて暖かな天使を抱いたまま健やかに眠った。



☆☆


レグランス教国の隣、アルカヤ大陸の中央部には、小国が6つ集まり、大国と引けの取らない国力を有する【六王国連合】がある。
この国に纏まった武力はないが、交易が盛んで金がある為、傭兵は雇い放題だ。また、職種ごとの組合…ギルドの発言権が大きい。

その中で、最も特殊で権力を持つものが魔術師達の【魔導士ギルド】だ。
一般の人が持ち得ない魔力を持ち、また医者であり学者でもあり教師でもある彼らは、知識の宝庫であり、六王国連合全土に広がり、学校や施療院を建てて民に慕われる存在だ。
そんな彼らの中でも剣技に優れ、戦闘訓練を受けた者は【ウォーロック】呼ばれ、一人で百人分の武力を有している。

――――筈だったのだが――――


明け方近くとはいえ街のど真ん中で、ウォーロックな筈の勇者候補…フェインは、魔導師達に襲撃されていた。長旅に相応しい厚地で砂色のマントがズタズタに引き裂かれ、天使の目から見れば稚拙な火炎や突風の餌食となり、彼の短い銀髪がみるみる路地に沈む。
バイクに皆を残し、二人だけで建物の影に身を隠していたセイランとゼフェルは、目の前の惨劇に愁眉した。
魔術が行使される爆音が周囲に轟き、煉瓦で舗装された路地を壊し、かなりの騒音を撒き散らしている。ギルドのお膝元での凶行だというのに、フェインの仲間が誰も駆けつけてこないのが不思議だ。


「……死にそうだね?……」
「……なんかさ、さっきのナンパ野郎といい、こいつといい、男の勇者候補って、どうなってんだ一体?……」


ゼフェルのため息混じりの困惑に、セイランも同じ気持ちだ。
8人がかりなら多勢に無勢だが、1人も返り討ちできないまま、路上でうつ伏せに倒れているなんて情けない。

「ねぇゼフェル、人間にも負ける男に、勇者って勤まるの?」
「…俺も激しく不安に思うけどよぉ……、ここで見殺しにしてアンジェにばれたら怖いぜ。お前、インフォスん時、憎いシーヴァスをこっそりぶっ殺して、おまけに迷宮をスルーしてあの世に送っちまったことあったろ?」
「……君、嫌な事思い出すね……」


セイランの脳裏に、憎い金髪碧眼な青年騎士の姿が横切った。
シーヴァスは、ロクスよりほんの少し素行がよい、貴族出身の美麗な勇者だったのだが、あの男はアンジェに懸想し、酒に酔ったふりをして、介抱していた彼女をベッドに押し倒したのだ。幸い、ロザリアが目を光らせていたから事は未遂で済んだのだが、自分の女に不埒な振舞いをされ、黙って許す程セイランは寛容ではない。

天使から役目を賜った勇者には、祝福の魔法が施してある。彼らは殺されても10日以内ならば復活することができる。
だから魔族の奇襲を装って、彼直々にシーヴァスを血祭りにあげ、そのまま二度とアンジェの前に姿を現せないように、天界にある霊達が眠る白バラ園に送ったのだ。
だが、自分が勇者にしたシーヴァスを心配するアンジェの母性愛は不屈だった。
セイラン直々に念を入れ、シーヴァスが自ら失踪したのだと裏工作を施した筈なのに、天然の勘でバレた。
セイランは、シーヴァスを元通りにインフォスの世界へ戻すまで、アンジェに散々泣かれた。その後も一言も口を聞いて貰えなかったばかりか、『えっちお預けの刑二ヶ月』を食らった。
地獄の二ヶ月の間、セイランの精神状態は、まさに発狂寸前、堕天使1歩手前の危険さを醸し出していただろう。

あの苦しさを思いだし、セイランの眉間の皺が深くなった。それに六人目の説得で、彼自身も疲れてきたのか、やる気も起きない。

「……おめー、なんか機嫌悪くねー?…」
「……ちょっとね。多少の『自然災害』は許される筈だろ?」

渋々と手に雷を集め、一気にフェインに纏わりついていた8人全部をこの世から抹殺する。
ゼフェルは、あーあとため息を吐き、顔を手で覆った。

「そりゃ、落雷で人は死ぬけどよ、消し炭しか残んねーのって問題だろ?」
「気にするな。僕はフェインを助けたって実績があればいい。あいつも素直に恩に着てくれて、勇者になれば楽なんだけどね」

セイランは投げやりな態度を崩すこともなく、ゆったりと路上でうつ伏せに倒れている男を説得する為、傍に歩み寄った。傷の手当て用にと、適当なアニスの葉かポーションの瓶を探して薬袋を弄っていると、先にフェインの元に辿りつき、しゃがみ込み彼を仰向けにして傷を調べていたゼフェルが、ドカッとセイランの向う脛を手の甲で叩いた。

「……何? 痛いんだけど……」
「おい、この面ってお前見覚えねーか?」
「??」

ゼフェルの記憶力は半端でない。セイランも興味を覚えたことは、一度見聞きしたことは忘れないのだが、どうでもいい人の顔を覚えるのは苦手だ。
胡乱気に血と泥で汚れた彼の顔をまじまじと見れば、ブレーメス島で会ったフクロウを連れた孤独な少女……アイリーンが枕元に大事に飾っていた細工絵に写っていた義兄と、今目の前にいるフェインの風貌がばっちり合う。


(……まさかこいつ、アイリーンの探している、彼女を『捨てた』義兄?……)

作品名:どしゃ降りの涙♪ 作家名:みかる