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どしゃ降りの涙♪

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そんな偶然、いくらなんでもと思いいつつも、魔術師一家の婿ならば、職業がウォーロックなのはありえるだろう。細工絵は20歳ぐらいの若い姿だったが、顔の骨格を見る以上、目の前の男は間違いなく、年を重ねた本人だ。

(こいつが、12歳の彼女の心煮に酷い傷を負わせ、自分の時を止めてしまう程、焦がれさせた奴?)

セイランは、殴りかかりたい気持ちをぐっと押し殺し、きゅっと唇を引き結ぶと、ポーションから瓶のコルクを引き抜き、三本纏めて中身の薬品をフェインの顔に勢い良く浴びせた。
深い傷口に、アルコールの入った薬品はさぞかし染みるだろう。
190センチを近くの鍛えられた巨躯が、痛みに驚き海老のように跳ね上がる。

「う……ううう……」

激痛に震えながら、開いた琥珀色の瞳をジロリと見据え、セイランは再び薬袋を弄った。

「僕らはアンジェの仲間だ。一応襲われていた君を助けた訳だけれど、動けるのならこれをお飲み」
ゼフェルの手を借り、身をかろうじて起こしたフェインに、セイランは強めの回復薬『ハイポーション』を手渡した。
瀕死の重病人でも回復する妙薬は、大怪我も瞬時に治癒させたようだ。
だが、この薬は眠気も誘う。
セイランは、うとうととまどろみかけたフェインの胸ぐらを引っ掴むと、平手で思いっきり殴りつけた。

「ここで今寝たら凍死するぞ。君、宿は? 仲間は?」
「……あ、スマン……」

朴訥な彼は、今の悪意に全く気づいていない。
殴られたのに目をくしくし擦りながら、お礼まで言うメデタイ男に、セイランは腕を組んで冷たく侮蔑交じりにフェインを睨みつけた。

「君、ブレーメル島にアイリーンっていう義妹残してきてない?」
「あ、ああ…何故それを…」
「さっき会ったんだ。その時義兄を探しているって見せてくれた細工絵が、君そっくりだった」
「………そうか、偶然は凄いな………」

セイランの心の中で、纏めて数本の血管がぶちきれた。

「どう凄いのさ?『凄い』と君が一括りで完結した定義はいったい何? 偶然を感動するよりも前に、僕に義妹は元気だったかとか色々聞くことがあるんじゃないの? ああ、そうだよね。捨ててきた義妹のことなんか知ったことかと思ってるのか。僕は人にあんまり同情する性質じゃないけれど、こんな非道な義兄を慕って、健気につんつん突っ張って生きてるアイリーンが、健気な馬鹿に思えてきたよ」

何気ない一言に、喧嘩口調にまくし立てられれば、フェインも当然面白くない。

「助けてもらったが協力はできんと、いつも来る天使に伝えてくれ。俺は妻を捜していて忙しいんだ」

―――――妻を捜している―――――

セイランの眇めた目に、今フェインが吐いた言葉に黒いもやが映る。
レミエルは幻視を司る天使。最後の審判で人間を裁く役割を与えられた彼に、嘘偽りや虚偽の言葉は通用しない。

「……妻ねぇ……」

腕を組んだまま、指でトントンと肘を叩く。

「アイリーンの話だとさ、彼女のお姉さんって急に人が変わっちゃって、自分達の祖父を瀕死の重傷を負わせて逃げたんだってね。たった12の子が祖父の最期を看取って、葬儀も1人で切り盛りしてさ、可哀想に。その間義兄と実姉は一体何をやってたんだか。ねぇ?」

セイランにキツく睨まれれば、やましい事盛りだくさんなフェインだ。彼の琥珀の瞳が逸れ、面持ちも俯く。

「お前には関係無い」

吐き捨てた彼の言葉が、再び嘘で黒く煤けて見える。
言葉が黒くなるということは、セイランに関係無いどころか、彼の管轄のようだ。
セイランは死者の魂を導く者。だが、目の前のフェインは紛れもなく生者である。
となると、消去法で自動的に死者は彼の妻ということになる。

「僕は死した魂の管理人だ。あんた、僕の所に来るはずだった魂を何処にやった?」
「あ……なに?」

琥珀色の目が、一瞬強烈に光った。
だが、直ぐに目を伏せた彼に、セイランの頬の筋肉が引きつった。

「あんた魔術師だったね。ならさ、反魂の黒魔術に手を出した……ってとこ? 死んだあんたの奥さんが動き回っているって事はさ」
「まさかマジでこいつ!!」

セイランとフェインの顔を交互に見る幼馴染に、彼は目配せを送った。

「死んだ妻をあきらめきれず、魔法で生き返らせようとしたけれど失敗した。で、こいつの師匠だったアイリーンの祖父が、孫娘を黄泉に戻そうとしたけれど阻みきれずに逆に返り討ちに合った。それでこいつは逃げた妻を探して世界を放浪しているって訳だ。僕の推理、違うか?」
「……馬っ鹿じゃねーの、こいつ!! 何しくさりやがったんだよてめぇ!!」

ゼフェルが、素っ頓狂な声を立て、抱き起こしていたフェインの胸ぐらを引っ掴む。

天使の勇者達は、予め死ににくい祝福の魔法を施してあるから、瀕死だろうが魂が体から抜け出ようが復活できるのだ。何も手を打っていないただの死者を、蘇らすなど神ですら出来ない。
死者の総括で四大天使の一人、クラヴィス・ウリエルですら最愛の妻アンジェリーク・ジブリールを亡くした時、ただ喪に服し、日々嘆くしかできなかった。なのに、一介の魔導師に反魂?
黒魔術を行使し、師匠を死なせた。セイラン達からすれば当たり前の愚考だ。
そもそも黒魔術は、悪魔が甘言で人間を誑かすまやかし術だ。神にできないことでもできるんだと証明し、自分達を崇めたてる信者を募集する悪魔達の詐欺に、何を引っかかってるんだと罵りたい。

「俺は、セレニスを愛していたんだ!!」
「セレニス? セレニスだって!!」

激白するフェインに対し、セイランの我慢は吹っ飛んだ。
さっきバイクの中で目を通した報告書の筆頭に、セレニスという魔女の名前が明記されていたのだが、彼女こそがこのアルカヤ大陸に、再びセイランの父『レヴィアス・ルシフェル』を呼び出そうと、魔物が跋扈する世界に変えた張本人である。
一介の魔女の分際で、よくそんな大それた魔力が持てたものだと感心したが、『甦り』なら話は早い。
恐らく、セレニスは魔物に憑依された木偶人形だ。
だがそれも、こいつが反魂などという真似をしなければ、避けられた事。

セイランは握り締めた拳を振り上げ、フェインの顔を散々殴りつけた。

「すべての元凶はあんただ。このアルカヤに魔物の侵入を許したのは、あんたが中途半端な黒魔術を使ったのが原因だ。僕とアンジェとの甘い生活を邪魔しくさったのも、死んだ人間を呼び戻し、自然の摂理に反し、安らかに眠れる筈だったセレニスを不幸にし、アイリーンから優しい家族を取り上げて絶望させたのもあんたの所為だ!!」

一番腹が煮えくりかえるのは、フェインが、己自身のことを一番悲惨だと思い込んでいる事だ。
もしアンジェが死んだなら、自分は冥府でもどこにでもついて行く。
彼女のいない世界に意味はない。
フェインだって、ご法度の黒魔術に手を出す程に好いた女だったら、誰にも迷惑かけずに後を追えばよかったのだ!!
恋人を化け物に変え、世界に魔物を呼んで、生き残ったたった12歳の義妹を一人残し、1人のらりくらりと旅をしていたことも許せない。

作品名:どしゃ降りの涙♪ 作家名:みかる