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どしゃ降りの涙♪

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「あんたに決定権があると思うな、この犯罪者!!魔族に苦しむアルカヤの民の不幸は皆あんたのせいだろうが!! この卑怯者がっ!! 償え!!」

半殺しにし、ぐったりと朦朧とした目の男の襟首を、セイランは引っつかんだ。

「おい、この僕が直々に祝福の魔術を施してやる。だから勇者になって魔物におびえているアルカヤの民に詫びろ。本当なら、今のあんたに『勇者』なんて肩書きはおこがましいかぎりだけれど、貴様のせいで死んだ民を、そしてこの先死ぬだろう人の命の代価を、貴様の体で支払え。もし志半ばであの世に来たって、僕はあんたを送り返すからな。あんたは生きて生きて生き抜いて、ひたすら民のために尽くせ、絶対に逃がさない、いいね!!」

セイランの純粋な怒りを一身に受け、フェインは神妙にこっくりとうなずいた。
彼は自分の罪の深さを知っている。耳に心地よい慰めの言葉より、今の彼に必要だったのは断罪する相手だったのだろう。
半殺しな目に合わされたというのに、路上に捨てられた彼の表情は、安堵で緩んでいた。

セイランはくすぶった怒りを、冷静な仮面の下にねじ込み、忌々しげに髪をかきあげてバイクを見た。
フェインに言い過ぎたとは思わないが、彼も心に傷を負っているのは事実。
目に見えない痛みを癒すことができるのは、労わりや、気遣う優しい気持ちだろう。

「コレット、できるだけ尽くしてやってくれ」
「……はい……」

おとなしくて控えめだが、優しくて母性愛の強い娘だ。
今の彼にはぴったりなパートナーだろう。


路上にフェインを見捨て、静かにエアバイクは舞い上がった。
今回傍観者を決め込んでいたオリヴィエが、ペンギンの手のままつんつんセイランの頬を突ついた。

「あんたってば、メチャクチャやってるみたいなのに、ちゃんと天使してたんじゃん」
「……」
小銃を腰から引き抜き、チャキッと鳴らしてオリヴィエの眉間に銃口を押し当てれば、彼はすぐさま両手を上げ、ピラピラと横に振った。
「ちょっと撃たないでよ。折角褒めてんだから」
「そうそう、素直に喜んどけって。オリヴィエ、セイランは天邪鬼だから、照れてる時も凶暴になるからな」
「え、あらホントだ。顔が赤いわ」
「………ゼフェル………」
むっすり口を引き結び、そっぽを向くと、ゼフェルはふふんと、得意げに鼻を鳴らした。

「へへっ、今頃こいつの良さが分かったか? 俺の幼馴染は奇人変人だけど、嘘はつかねー良いヤツなんだぜ」
「もう、いいからさっさと辺境へ行くよ。早くしないと帰る時間になるだろ?」


勇者候補の残りは一人だけだ。
だが、山の稜線がうっすらと光がかかって見える。
ということは、間もなく朝日が昇るだろう。
バイクは、ゼフェルの「いっくぜ〜!!」の掛け声とともに、元気良く空間の隙間に滑り込んだ。



その頃天界では。


「……準備完了いたしました……」

チャーリーが涙目をぐしっと拭いながら、爆弾のスイッチをジュリアスに差し出した。
セイランとクラヴィスが天界から離れた今、エミリア宮殿にある傍迷惑な迷宮を、邪魔されずに粉々に壊すのに絶好の機会だろう。
だが、ここにあるのは魑魅魍魎が蠢く魔の巣窟だけではない。
閑職に回されて以来、セイランは暇潰しに趣味の世界に没頭した。その結果、今や天界一の芸術化でもある。彼の素晴らしい作品群が沢山エミリア宮にあるというのに、それを一つも持ち出す猶予もなく、いきなり爆破など……フロー宮の売り子は、目に涙を浮かべ、駄目で元々ともう一度ジュリアスに直訴した。

「あの人の性格は破綻してますが、物に罪はありません。セイランさんの創った美術品は芸術です。世界の宝です。お願いや、後一時間、嫌30分でもええ、救出する機会を俺にください!!」
「時間がないと申したであろう。あの迷宮が今までにどれだけ天界の貴重な人材を、事々く堕天に導いたと思っている? 物で命は代えられないのだぞ」

(堕天したなんて自分達の自業自得やんけ。このお人はどこまでセイランさんのことを貶めるんや!!)

坊主憎けりゃ、袈裟まで憎い。その理屈は判る。
自分の双子の兄レヴィアスが、いくら堕落したといっても、子供だったセイランは関係ない。それどころか自分の甥だろう。
なのに年端もいかない子供に救いの手を差し伸べる所か、いつか堕天すると決め付け、事々く武器の販売も制限し、監視し、彼の創造する芸術品ですら難癖をつける。一体こいつは何様のつもりなのだろう?

ジュリアスの指は、躊躇うことなく爆弾のスイッチを押した。
たちまち、エミリア宮殿に仕掛けられた火薬が破裂し、一瞬の内に白亜の美しい建物が、粉塵をたてて崩壊する。

(……酷い、…酷すぎや…、あんまりだ……)

チャーリーは、滝のように涙を流しながら、粉々に吹き飛んでいくセイランの宮殿を眺めていた。天使達垂涎の絵画や宝飾品が、一つも運び出すことがままならないまま消えていく。
彼は商人だ。芸術品を見出し、正当な値段をつけ、物の売り買いを通じて皆に幸せを運ぶことを生きがいにしている天使なのに、何故自らの手で、この世に二つとない芸術品を木っ端微塵にしなくてはならないのだ?

物に罪はない。
それを……それをよくも一方的な私怨で!!


(天界は、お前中心に回っとるとちゃうで。今に見とれよ、こいつ!!)


こうして有能な天使がまた一人、反ジュリアスに転向した。


★☆★☆★




12








――――自分は一体、どこの住人なのだろうか?―――――


父は吸血鬼、母は父の手により同族に変えられた人間の女だったという。
そして、クライヴは母を殺したハンターの手により、死した腹から取り出された。

本来ならば母親の仇と恨むべきだろう。だが、彼がいなければ自分は母とともに死んでいた。
その男に吸血鬼ハンターの仕事を仕込まれ、成長した自分は今や立派な狩人だ。
昼の光を避け、闇夜を徘徊し、もし母が死ななかったら自分も仲間の一人となっていたかもしれない夜の世界の住人を屠り、昼を過ごす人々から金銭を得て日々の糧を得ている。

自分も、いつか完全に『吸血鬼』になる日がくるかもしれないというのに。

吸血鬼とのハーフだから、普通のハンターより遙かに強く死ににくい。だからハンターギルドからの自分への依頼は、他者がしり込みするぐらい危険なものばかりだ。
しかもクライヴに協力する者はない。
いつ豹変し、人間の生き血をすするかも判らないものになど、人々は自分達の『仲間』とは決して認めることはない。
クライヴの力を利用していても、いつ敵になるやもしれぬ相手に背中は預ける程の信頼はないのだ。

自分は、一体どちらに属する者なのだろう?
人間のままでいられるのか? それとも同属殺しの吸血鬼?


判らなかった。
生きていれば、いつか答えはでるのだろうかと思い、ただ生き延びて既に21年。
今も結局、自分がどちらの陣営に属しているのか知らない。


そんな自分に、この幼い天使は『勇者』になってくれと頼む。
一人で戦ってきた自分に、初めて手を貸してくれたのがこの天使。
『ありがとう』と、心の底から感謝されたのも初めてかもしれない。
作品名:どしゃ降りの涙♪ 作家名:みかる