二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

どしゃ降りの涙♪

INDEX|37ページ/38ページ|

次のページ前のページ
 

「……私は父親だぞ!!……」
「ですが殿方ですわ。叔父様はアンジェの服を、急いで調達なさってきてくださいませ」

と言われても、着の身着のままで来た彼らに、予備の服などない。
仕方なく、クラヴィスが己の長い黒衣をせっせと一枚脱いでいる隙に、ロザリアはしげしげと親友の状態を確かめた。

ベッドの上でアンジェに圧し掛かってた男を見て、ロザリアはアンジェが勇者候補に襲われているものだと思った。
だが、アンジェはどう見てもきつきつの包帯に巻かれ、痛みに泣いている。

(誰よ、こんな下手な巻き方をしたのは!!)

舌打ちし、ロザリアは血で真っ赤に染まった邪魔な布切れを、慌ててナイフで切り裂いた。見れば、彼女の胸元には、横一直線に無残に裂かれた五本の刃傷が走っている。
となるとさっきの男は、やはりアンジェに乱暴を働いたわけではないらしい。

ロザリアはこくりと息を呑み、恐る恐ると振り返った。

平屋一階建ての室内は、150平方メートルはあり、かなり広い。
板張りに毛皮の敷物が敷かれた室内を、ゴロゴロと転がって逃げていたクライヴは、かなり頑張ったがやはり多勢に無勢だったようだ。
いつの間にか銃声は止み、彼はぐるりと5人に取り囲まれ、ゲシゲシと足蹴を食らっている。

「よくも、よくも僕の恋人を!! あんた、ただで楽になれると思うなよ!!」

あのセイランが、憤怒に顔を赤くし怒鳴り散らしている。アンジェが真実愛されていることを目の当たりにできて、自分やクラヴィス的には良かったかもしれないが、現実はやはり厳しい。
例え勘違いでも、勇者候補にしでかした狼藉は許される範疇を超えている。責任は、やはり暴行を働いた殿方の皆様に、きっちりと取ってもらうしかない。
ロザリアはこほんと一つ、咳払いをして喉を整えた。

「ありがとう、クライヴ。貴方はアンジェの手当てをしようとしてくださったのね」

凛としたよく通る妖精族のプリンセスの声に、再び室内は凍りつき、恐ろしい沈黙が舞い降りた。
クラヴィスとかちりと目があったロザリアは、互いに無言のままこっくりと頷いた。
二人の思いは、この瞬間ぴったりと一致した。

(………私たちは知りません。ええ、あの人達とは、今は一切何の関係もありませんわ……)


☆彡

ロザリアのそらぞらしい御礼の言葉は、喧騒を一瞬で鎮めた。

硬直したセイランの目は点になり、オスカー、オリヴィエ、ゼフェル、エルンストも、蹴るために振り上げた足を、そろ〜っと下ろした後、一斉に気まずそうに、床にうつ伏せに倒れ付している哀れなクライヴを見た。
彼の背中は、5種類の靴跡でべたべたに汚れており、見るからに悲惨な状態だ。

セイランは、動転した気を落ち着かせるつもりか、ぽりぽりとほっぺたを掻いた。
「え〜っと、ロザリア……、どういうこと?」

「貴方さっきポーション飲ませたでしょ。それが今になって効いちゃったってことかしら。この子ったら体が大きくなってしまったから、小さい体の時に手当てしてもらった包帯が、体中締め付けちゃったのよ。全く、人騒がせなんだからぁ」

またまた重苦しい沈黙が、どんよりと押し寄せる。
その小さい体の時に、アンジェに手当てしてくれたものはといえば、そこに踏まれて倒れている男しかありえまい。

「…なんつー不幸な奴……」
ゼフェルの鋭い突っ込みが炸裂するが、今更どう足掻いても、好意を踏みにじられた挙句、体まで踏みにじられた憤りを、笑って許して欲しいな〜などの、寛大さを彼には求めても無駄だろう。

どうしようと、5人の罪人は目で連絡を取り合った。
そして、今までリーダーシップを取ってきたセイランにと注目が集まる。
だが彼は流石切れ者だった。
深くため息を一つついた後、皆の期待に答えるように、にっこりと清々しい笑みを零した。

「これはクライヴと君の分♪ 彼の担当は君だ♪」

セイランは爽やかに、オスカーの手の平に、ハイポーションを2瓶置いた。

「なにぃぃぃぃぃ!!」
「じゃ、後は宜しく頼むね。皆、撤収するよ♪」
「「「は〜い♪」」」
「ちょっ、ちょっと待てセイラン!! おい、オリヴィエ!! 俺達は親友じゃなかったのか!!」

オスカーとオリヴィエの熱い友情は、ゾンビ・ハンターならぬ、見た目ゾンビと化したクライヴに、彼ががしっと足首を引っつかまれた時点で、炭と化し終わっていたのだろう。
クライヴが、おどろおどろしい妖気を漂わせ、スラリと日本刀を引き抜いた頃には、赤毛の王子ただ一人を残し、皆は後も振り返らずに猛然とダッシュでバイクに飛び乗っていた。

「じゃあね〜♪」
オリヴィエペンギンが、すちゃっと着ぐるみの手で敬礼を見せる。

「アンジェ、帰ったらじっくりと傷の手当てしてあげるからね、もう少しの辛抱だよ」
セイランはぐったりしたアンジェをしっかりと抱きかかえた。

「おっさん、尊い犠牲、感謝する!!」
「き〜さぁ〜まぁ〜らぁぁぁぁぁ、うわぁぁぁぁぁ!!」
オスカーの野太い悲鳴が聞こえる中、バイクは全速力で天界へと帰還した。




こうして一部の勇者と、一部の妖精にとっての災厄は、ようやく終了したのだ。



☆ ☆☆

翌日の昼下がり。


「以上を持ちまして、報告を終わります」

クラヴィスを除く四大天使……ジュリアス・ミカエル、ルヴァ・ラファエル、ディア・ガブリエルを前に、包帯だらけの赤毛の妖精騎士は一礼した。

実はオスカーはジュリアスのスパイだった。
彼はセイランと行動を供にし、色々と彼の心情を探り…包み隠さずにジュリアスに報告することを命じられていたのだ。

「やはりあやつはレヴィアスと接触していたのだな」
「まぁまぁジュリアス、彼はちゃんと誘惑の手を振り払ったじゃありませんか」
「だが、あの男は息子を諦めたわけではないのだろう。これでセイランとて、何時堕天するかわからぬということが確定した」

アイリーンの所で見た、人工の皮膚で覆い、隠してある魔傷のこと。
聖杯を使って追い詰めておきながら、レヴィアスをとり逃がしたことの真相といい、どちらも捏造次第では、天界からセイランを放逐できる、絶好の脅迫ネタだ。

「ですがジュリアス様、私が見た所、クラヴィス様のご令嬢……アンジェリークが、いえ次代のジブリール様がいる限り、彼女が彼の道しるべとなりましょう。セイラン・レミエルが堕天使になる可能性は低いと見受けられます」
「いいや、レヴィアスは狡猾で執念深い。きやつは己の欲望を必ずや果たそうとする」

「あ〜…ジュリアス、私もオスカーに賛成です。あの娘はまさしく、我々の希望ですよ。クラヴィスは担ぎ出せませんでしたが、妖精族との交流も深く、なによりも天界一の放浪者、あのセイランに手綱をかけることができたのですから」

ルヴァはお茶を啜りながら、糸目を首座の天使に向けた。

「もういいではありませんか、ジュリアス。疑心暗鬼にならず、希望を持っても」
「ルヴァ、何をそなたは」
作品名:どしゃ降りの涙♪ 作家名:みかる