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どしゃ降りの涙♪

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黒と銀のライダー・スーツに身を包み、ゼフェルは嬉しげに二人に向かってゴーグルを投げて寄越した。彼の肩には手の平サイズでフロー宮の開発主任……妖精エルンストが必死でしがみついている。
セイランとクラヴィスはげほげほ咽込み、粉塵で痛んだ目を拭った。

「……ゼフェル…………君って子は……!!」
セイランは、床に落ちたゴーグルを拾い、顔を上げた。
だが、彼が銃を構えるまでもなかった。

「貴様!!」
「あんたねぇぇぇ!! あたしの美貌をよくも埃まみれにしてくれたわね!!」
「ゲゲ!! オリヴィエにおっさん!!」
「誰がおっさんだ!!」

瓦礫の下敷きになったオリヴィエとオスカーは、等身大に戻り、即座にゼフェルをどつきたおしに行った。
しっかりと愛娘だけを守ったリュミエールは……身を呈してチビちゃい妖精達を庇ったヴィクトールに駆けより「しっかりしてください〜!!」と介抱に励み、ロザリアはめえめえ泣く四人の子供を必死であやしている。


「…………凄い組み合わせだな…………」
鼻で笑いながら、クラヴィスがそう囁く。
「………使いこなすのが、指揮官の醍醐味だ……ま、せいぜい私の愛娘のために頑張るのだな……」
そう……全てはアンジェのため!!
セイランは気を取り直してマシンガンを腰から引きぬいた。



「お前らとっととバイクに乗れ!!」
「みぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」
「きゃあああああ!!」
威嚇で銃をぶっ放し、逃げ惑う八人の妖精をバイクに積め込む。



こうしてセイラン達は、妖精族の女王リュミエール・ティタニアの内心の全く判らない笑顔に見送られ、アルカヤに向かって出発した。

★☆★☆★






白い大理石の回廊を静々と歩き、水色の髪の麗人はアザリア宮の聖殿の扉を潜った。
最奥の広間では今、クラヴィスを除く四大天使の三人がテーブルを囲んで和やかに茶会を楽しんでいる。
なにも知らぬ兵や女官達から見れば、さぞかし平和でたわいも無い話に花が咲いていると誤解しただろう。
リュミエールはそんな三人に向かって静かに声をかけた。

「皆様、遅くなりました」
「まあ、リュミエール……良く来てくださったわね」

すぐさまディアが椅子から立ち上がり、彼女を優しく席に導いてくれる。リュミエールを案内してきた門番達は、うやうやしく一礼すると静かに退出した。
歓談の邪魔をしないようにぱたりと重厚な扉が閉ざされると、すかさずルヴァが厳重に結界を施した。外部に話の盛れぬようになった途端、室内の空気はピンと張り詰めたものに変わった。

下座に座ったリュミエールの前に、彼女の好物のカモミールのハーブティーが置かれる。
ここではまるで馬鹿の一つ覚えのように、同じ物しか出されたことがない。
本心から言えば、彼女はここの場で出される飲み物など、口もつけたく無かった。こんな寒々しい……一番の好物を与えておけばそれで良いと、二番目や三番目を聞こうとせず、自分に全く関心のない者達のあつまりなど、誰だって苦痛に感じることだろう。
しかも、彼女にとって、この場は査問と同じなのだ。

大天使達に少しでも不信な目を向けられぬ様、従順に、感情的にならず、冷静に立ちまわらねばならぬ場所だ。
彼女にとって、大事な者達を守る為に……。


「……行ったか……」
首座の天使は誰が? とは言わない。
切れ長の碧玉の目が冷たくリュミエールを見る中、彼女は顔の強張りを気取られぬ様に、目を伏せ、口元に微笑すら浮かべ、こっくりと頷いた。


「ここまでは作戦通り、上手く行きましたね」
「うむ。後はあの者が、どう動くかによるな」

彼女は孤立無援の屍天使……クラヴィスを守る為に、敢えてこの三人の依頼を受け、クラヴィスのスパイを引き受けていた。
魔軍との大戦後、クラヴィスは四大天使の勤めを放棄し、ただ日々を無為に過ごしている。その何もしないということが、勤勉で神の意志に盲目に従うジュリアスの目には、堕落としかうつらなかった。よって、彼クラヴィスは、いつか天界から離反し、堕天するかも……と反逆候補者のリストに上がっていたのだ。

屍天使クラヴィスは、ジュリアスと拮抗する程の聖力の高い天使である。堕天し魔軍に合流すればとてつもない脅威となる。
娘をダシに使っても、神の為に動くのなら見所はある。
逆にそれでも何もしないのであれば、神にたいして謀反を起こす意があると受け取り、ジュリアス達は犯罪をでっち上げてでも、彼を拘束するつもりだったのだ。

(この方達は……本当に相変わらずですね……)
リュミエールは、気詰まりで胸が悪くなるようだった。


リュミエールが初めて彼らから、スパイの誘いを受けた時もそうだ。
ディアから『落ち込んでいるクラヴィスを勇気づけたいから、知恵を貸して』と頼まれ、いそいそ彼女の茶会に顔を出した筈なのに、そこは査問会同然だった。
リュミエールは険しい顔をしたジュリアスの前に立たされ、ルヴァとディアが彼女の背後に立ち逃げ道を塞ぐ。
その後は一方的な押し付けの連続だ。

『あの方が魔軍になど組するわけが無い。アンジェリークを殺した魔軍になどに!!』
『魔軍に入らずとも、堕天使にはなれよう。奴はアンジェリークを守らなかった神を恨んでおる。それを証拠に屍天使の職務を放棄し、天界の規律を乱し、いらぬ混乱を招いておるではないか!!』
『詭弁です!! いいがかりも大概にしてください!!』
『言いがかりなど、そなたに判断する権限はない!!』

人は、物事を悪く取ろうと思えば、どんなことでもこじつけてしまえる。
そして、今の天界の支配者はジュリアスなのだ。彼が疑わしいと言えば、それがもう疑惑の芽となってしまう。

(あの方は、ただ、アンジェリークの元に行きたいだけなのに……彼女のいないこの世が哀しくて、寂しくて、何もできなくなってしまっているだけなのに……!!)

だからリュミエールはジュリアスのスパイを引き受けた。
クラヴィスの日々の情報を正確に彼らに伝えることにより、彼が受けている誤解を解くように立ちまわっていたのだ。

夫カティスがやきもちを焼くほど、彼に心を配るのは……全て親友だった今は亡きクラヴィスの妻、アンジェの為だ。
この天界で、唯一の友だった忘れられぬ人のため……。


「しかし、セイラン・レミエルがクラヴィスのご息女と交際を深めているなんてねぇ……私は本当に驚いてしまいましたよ」
「ふん。あやつも油断がならんからな。今は上司を見習って凡庸なふりをしておるが、あやつがエミリア宮に迷宮を作った為に、一体何人の優秀な天使を壊してしまったと思う?」
「……まあ、彼の宮殿に鍛えられて、能力の上がった天使もおりますし……」
「そんな稀有な者の話はいい。たかだか十人ちょっとの能力を上げる見かえりに、廃人や狂人を大量に生み出されてはかなわぬわ。大体、あやつ憎しで魔軍に入った者など、三百名を軽く越えている!!」
「あ〜…そんなに敵をつくって無傷なんですねぇ……うんうん。流石、貴方の兄君のご子息です。その能力はすばらしいものが……」
「汚らわしい!! 奴のことは言うな!!」


リュミエールはカップを口に運びながら注意深く耳を傾けた。
天界にあって、妖精の地位は低い。
作品名:どしゃ降りの涙♪ 作家名:みかる