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どしゃ降りの涙♪

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自分達は古来から天使の使いぱしりとして都合良く使役され続けてきた。それこそ伝書鳩と変わらぬ扱いだったと言える。
だが、そんな微力な妖精を、天使達は平気で魔軍の跋扈する戦場へと平気で連れていくのだ。俊敏な者なら敵に襲われても逃げることで命は助かるが、鈍い者は殺戮に遭う。

妖精も、オスカーやオリヴィエのように騎士程のクラスになれば、アークエンジェルよりも遥かに武力を持ち、天使軍の要として重宝される。扱いは各段に跳ねあがるが、天使に比べて妖精は圧倒的に実力者の数が少ない。
そんな天界において、隷属し、無茶な使われ方をしたため、儚くなった妖精は一体何千人いるだろう?
けれど、使役する側の天使には、この痛みはわからない。

『尊い犠牲であった。だがこれも神の御ん為なのだ』

天使側には崇高な理念がある。彼らは神の規律に従い、世界を安定に導く努めに誇りを持ち、その為血を流す犠牲も厭いはしない。
だが、自由気ままに生きてきた妖精族にとって、強引に天使の理念に協力させられることは、名誉でもなんでもなく……ただの隷属なのだ。

そんな彼らの痛みを理解してくれたのが、今は亡きアンジェリークだった。


『一番好きな飲み物は判ったから、二番目三番目はなぁに? えへへ〜♪ 好きなものはいっぱいあった方が楽しいよね♪ 私、リュミのハープ大好き♪ でも私はクラヴィスが一番好きだから、彼のシタールが一番好き。リュミは二番目〜♪』

妖精族の女王である自分を、他の天使がするように見下さず、対等に付き合ってくれた唯一の天使だった。夫であるカティス・オベロンが魔軍に捕らえられた時も、血気はやったオスカー・シータスが単騎で助けに飛んで行き、あっさり捕まってしまった時も、彼女が四大天使に泣き落としじみた脅しをかけたから、天軍最強のジュリアスの軍が妖精族を助ける為に動き、二人は無事救われたのだ。オスカーは、その時のジュリアスの雄姿が忘れられず、ジュリアスに傾倒し、彼の軍に入団してしまったというおまけもあったが、他にも事あるごとに、彼女はリュミエールの為に色々と便宜を図ってくれた。

『お友達でしょ。気にしないで』
『ええ、アンジェ』

軍隊の寄宿舎で生活していたオスカー以外、彼女とは家族ぐるみで付合っていた。だが、そんな春の日溜りのような彼女はもういない。
もう妖精を憐れまずに、見下さずに、対等に付き合おうとする天使はいない。妖精の為に、動こうとする天使もいない。

だが、娘のロザリアと彼女の娘アンジェが、かつての自分達同様に親友付き合いをしている。それが今の彼女にとって、非常に喜ばしい希望だった。


「アンジェリークが心配ですわ」
(!!)

自分の思考に耽っていたリュミエールは、一瞬で現実に引き戻された。
テーブルを挟んだ斜めに座っていたディアが、ティーカップを受け皿に戻しながらほうっとため息をついた。

「聖力を使い果たした身なのに、アルカヤに派遣するなんて……あの子はお姉様の忘れ形見なのですよ……もし、傷つくようなことがあれば……私、貴方達を一生許しませんわ」

ルヴァはディアに片想い中である。そんな彼女に冷たく睨まれ、ルヴァは紙のように顔を白くして、あわあわと手をばたつかせた。

「あ〜あの〜……あのですねぇ……あなたが心配する気持ちもわからないでもないですが……」
「大事無い。彼女にはオリヴィエをつけたであろう。あれはオスカーには劣るが、妖精の騎士の中では二番目に優れた者だ」

あたふたと焦って口をぱくぱくさせているルヴァを制し、ジュリアスは優しげに諭した。
「今日追加で私の副官……オスカーも行かせた。ヴィクトールもつけた。アンジェは下界の守護であるから妖精しかつけてはやれぬが、我らができる限りのことはしてあるつもりだ。そなたは何も案ずることはない。何もな」

(まるで自分の手柄のように)
リュミエールの心に、どす黒い思念が浸透していく。

オスカーをつけたのは、アンジェのためではない。やんわりと当たり障りの無い報告しかしないリュミエールに業を煮やし、とうとうクラヴィスの本意を計る為、自分の懐刀を送ったのだ。

ディアはほっと胸を撫で下ろし、無邪気に微笑んだ。
「では、私はアンジェが無事に戻れるように、主に祈りを捧げますわ」

(そう……ディア様は何も心配なさることは無いのです。せいぜい天界の安全な場所で、貴方の愛する者の無事を祈っていてください)

リュミエールは皮肉な笑みを気取られぬように、ティーカップを口に宛てた。
冷めたカモミールを一口すすると、リンゴの甘い香りとは裏腹に、ハーブ独特の苦味が口に広がる。

静謐な天界は、その見かけの清らかさとは裏腹に闇を大量に含んでいる。それは住人である神の僕…天使達にも言えることだ。大体、魔軍に属する者の大半はもともと天使だったのだ。純粋である故に、いつ何が引き金になって、闇に堕ちるかわからない。天界は、そんな危うい危険を孕んだ者達の住む世界。

リュミエールは苦い液体をゆっくりと嚥下した。
喉を滑り胃の腑に落ちた時、リュミエールは飲み込んだお茶の分だけ自分の身体も、真っ黒にそまっていくような気がした。



☆☆☆


アンジェは今、アルカヤのとある山小屋に居を構えていた。
セイランは、アンジェ達の下界の借り住まいに足を踏み入れた途端、ぎょっとして立ちすくんだ。

(な……何なんだ? この異様な物体は……!!)

布団の中には、金色の毛玉が丸まっている。
愛しいアンジェが自分の身体程ある枕を抱え込み、うずくまってすやすやと気持ちよさそうに眠っている。

「うう〜ん、何てラブリー♪ ね、そう思うでしょ皆……おわ!!」

セイランはアンジェに近づこうとしたオリヴィエの背に、思いっきり蹴りを食らわせた。ベットに近づこうとしたオリヴィエは、つんのめって顔から床に落ちた。

「セイラン〜〜〜!! あんたね、何するの〜〜!!」
顔を傷つけられ、オリヴィエは爪を尖らせて逆上した。だがセイランは、そんな彼の胸ぐらを引っつかむと、薄く冷笑を浮かべながら、緩慢に引き抜いた短銃の先を、彼の額につきつけた。

「……な……何?……」
「ねぇ、あれはあんたの仕業かい?」

『あんた』とは、セイランが本気で切れる前の、敵だと決めつけた相手に対する呼び方である。彼は過去、オリヴィエがロザリアの恋人と判るまでの間、彼を何かと目の仇にし、何度も因縁をつけ血祭りに上げた。
オリヴィエの騎士能力が各段跳ねあがったのは、ひとえにセイランのおかげである。しかしその恐怖心はしっかりくっきり刻み付けられており、『あたしの命がいくつあっても足りないわよぉぉぉぉ!!』と、できればもう二度と彼と喧嘩したくないと、公言してやまなかった。

案の定、オリヴィエはこくりと喉を鳴らし、セイランを見上げてきた。


「あんた……あれ、気に入らない?」
「当たり前だろ? 誰があんなふうにアンジェを飾っていいっていったんだ? 彼女を美しくするのはこの僕だ」
「たかだか寝巻きじゃない!!」
「それでもだ!!」

セイランは皮肉に口元を歪め、憎々しげにベットに目を走らせた。
作品名:どしゃ降りの涙♪ 作家名:みかる