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どしゃ降りの涙♪

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そこでくぴくぴ寝息を立てて眠るアンジェは確かに可愛かった。二頭身半の身体は、白くてふわふわの兎の着ぐるみを身に付けている。息をすう度に、帽子についた長い耳がくゆくゆと揺れ、その動きにも笑みを誘う。攫って梱包してお持ち帰りしたくなるほどの愛らしさだ。誰の目にも触れさせたくなくなる。

「可愛いぃぃぃぃ!!」

ロザリアも嬌声を上げ、ベッドににじり寄ると、飽く事なく親友の顔を眺め続けている。クラヴィスですら、久々にあった愛娘に……抱きしめたいが、抱きしめたらきっと起こしてしまうだろうから……でも触りたい!!と、もんもんとハリネズミのジレンマに悩んでいる。

「でもね、男の嫉妬は見苦しいものよ。あの子が抱えている枕を見てみなさい。そうすれば、アンジェが誰を想っているのか、一発でよく判るから♪」

取り繕うオリヴィエに促されて、セイラン枕を覗きこんだ。
彼女がしっかりと抱きしめているのは何の変哲もない真っ白の枕である。
所が、光線の加減で皺だと想い込んでいたのが、太いマーカーの線だと気がついた。更に目を凝らして良く見ると、目つきの悪い三白眼と、ストレートの前髪が書き加えられているのが判る。

不器用なアンジェに絵心はない。かなりデフォルメされた似顔絵は、セイランを示していた。瞬く間にセイランの両目は吊り上がる。

「あんた、あれは一体何のつもりだ? 僕の顔はいつからあんなに醜くくなったんだい?」
「げ!!」
薮蛇だったと気づいたオリヴィエは、真っ青になった。

「まあまあ怒らないでよ!! ね、描いたのはあんただけじゃないんだから。ほら♪」
オリヴィエは大慌てで枕の裏側を捲って見せた。太い縦ロールの髪が何本も描かれていた。しっかり捲って確認するまでもない。ロザリアだ。

「いゃあああああ!! これは何ですのオリヴィエ!! この私が、リバーシブルで、しかも裏!! 冗談ではないわ!!」
「うわっ!! ちょっと!!」
誇り高い姫君もオリヴィエの首を締めるのに参戦した。

「私は何処にいる?」
ごごごご〜と、ブラックホールを背負っている男が、ずずずっとオリヴィエににじり寄った。
「娘が抱く枕の何処に、私がいるのだ? 答えよ。描いたのはお前であろう?」

寂しさ故に、ちょっぴりひねてしまった父親だった。だが、流石屍天使。バックに背負った怨念と亡霊のバックミュージックが呪詛となって聞こえてくるようだった。

「ちょっとちょっと!! 私は善意でやったんだからね!! 寂しがるアンジェの為に描いてあげただけなのに!! これで恨まれるなんてあたしが可哀想じゃないの!!」
オリヴィエは手を精一杯伸ばして自分の親友に助けを求めた。

「オスカー!! あんた黙ってみてないでよ!!」
だが……。
「……何やってんの?……」
「ふ……聞かなくても判るだろう?」

どさくさに紛れて鎧を脱ぎ、ベットのシーツを捲り、身を滑り込ませようとしていたオスカーは、ふっと前髪をかきあげながら、親友に微笑みを返した。

「寂しがると聞いたならこのオスカー……あふれんばかりの愛を、哀れなお嬢ちゃんに誠心誠意を込めて分けてあげるのさ。俺の熱さに溺れ、孤独の殻を破り、女を一人前の妖艶な花にする……これぞ男の醍醐味……はううう!!」

オスカーはまずセイランに蹴り倒され、ロザリアのハイヒールと全体重をかけたクラヴィスに踏まれた。

「この獣!! 恋人を目の前にして、言い度胸じゃないか!!」
「お兄様!! 私の親友に手を出したら…許しませんわ!!」
「私の愛娘を弄べば、ジャハナに叩き込み、地獄の番人どもに命じ、舌を抜くぞ!!」

三人がかりで容赦なく、げしげしげし!!と、赤毛の騎士に蹴りが入れられる。
オリヴィエは叫んだ。
「こらあんた達!! あんまり煩いと、アンジェが起きちゃうじゃない!!」

途端セイランを含めた三人は、オスカーからぱっと身を剥がし、ラブリーなアンジェの元に戻ると、心配げに彼女の寝顔を覗きこんだ。
彼女はよほど疲れていたのか、この喧騒にもびくともせず、すぴすぴと寝息を立て、やはりちびちゃい手で、セイランの顔が描かれた枕をしっかりと掴みぐっすり眠っている。
セイランがつんっとほっぺを突つくと、にこっと笑う。その愛らしい顔にもう視線釘付けだ。


「……どうだ……体張ってお前を助けたぞ……」
「馬鹿、死ぬわよ。別のやり方考えなさい」

オスカーは床にうつぶせて倒されていた。鮮やかな青色のマントは、無残にもいっぱい足型をつけていた。しゃがみ込んだオリヴィエは、彼の踏まれた傷を確かめ治すべく、フレアレッドの髪に自分の手を埋めた。


「はははははははは!! ランディジャンプぅ〜!!」
「!!」

くるくるとコマのように回転する妖精が、頭上から降ってくる。ランディは、無事アンジェのふわふわした兎の着ぐるみにぽてっと着地すると、誇らしげに立ちあがった。

「セイランしゃま。無事作戦は終了ちました」
彼が凛々しく左手を高く上げると、ふくろうが、ひらりと彼の傍らに舞い降りた。
「勇者候補アイリーン様の所から、ふくろうのウェスタをかっぱらってきました」
ウェスタの背にのっていたレイチェルも誇らしげだった。

セイランは満足げに頷いた。
「二人とも良くやった。所でレイチェル、魅了はどのぐらい持つ?」
「はい。一日は利きます」

「ちょっとセイラン!! これどういう事?」
今度はオリヴィエがセイランの肩を引っつかむ。

「だって、その子はフクロウのみを友達に、魔術の訓練に勤しむ孤独な子なんだろ?」
「そうよ。そんなアイリーンから友達盗ってくるなんて!!」
「だからさ。迷子になったフクロウを、僕らが見つけてあげたという按配で、恩に着せるんだ。まっとうにお願いしたって、取り付く暇も無かった子なんだろ?」
「う…うん…そうだけれど……私はなんか嫌だな。こんなだまし討ちみたいなやり方…」
「僕はその子よりもアンジェの方が大事なんでね。ああ、君達……他の者達が帰るまで、少し休んでいてくれ」

セイランは、ランディの体をひょいと掴んでふくろうの背に乗せると、アンジェのイチゴキャンディを二人に一粒ずつ与えた。彼らがにこにこそれを頬張り出す間に、ふくろうごと持ち上げ、それをクラヴィスの肩に乗せた。

「……おい……私は宿木ではない……」
「ちょっと確かめたいんで預かっててください。あなたが一番背が高いんだから」
セイランはクラヴィスに荷物を預けてスペースを作ると、ベットに腰を下ろし可愛いアンジェの唇にそっと一つキスを落とした。

別に人前でラブラブする趣味はない。彼女の唇の残り香と味で薬の種類を探ったのだ。
「……ふうん……ポーションね。薬的にちょっと弱い気もするが……」
ぺろっと自分の唇を舌でなぞり、彼女のベットに置かれた薬瓶を確かめた。

エミリア宮からロザリアに持たせた薬には、もっと効き目の強い薬もあったが、小さくなった体では、負担になってしまうものもあるだろう。
流石ロザリアの判断は正確だ。セイランは彼女に対しては絶大な信頼を置いている。
飲みかけのポーションに目を落とす。球型の瓶には緑の液体が半分以上も残っていた。
作品名:どしゃ降りの涙♪ 作家名:みかる