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たかむらかずとし
たかむらかずとし
novelistID. 16271
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Küss mich nicht!(Don't kiss me

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 ごがん、と音はしたもののぴくりともしない静雄の頭に更に拳を落としながら、セルティがてきぱきと静雄を引きはがす。ぺいっと投げられた静雄はよろよろと部屋の中に戻って行く。
 出会い頭にほとんど抱き潰すような勢いでハグされた帝人は、セルティに『大丈夫か』と頭を撫でられて、ようやく現実に戻ってきた。呆然とした顔が盛大に引きつっている。
「セ、セルティさん、今のは…」
『ああ、悪かったな帝人。柱に繋いどいたんだが止めきれなかった』
 よく見ると廊下には丈夫そうな金属繊維のワイヤーがだらんぐでんと伸びている。所々引きちぎれて。
(普通ちぎれないよねコレ…)
「…柱は大丈夫でしたか…」
『まあロープが千切れてくれたからな。大事ないよ』
 セルティがあっさり言う。廊下のワイヤーを巻き取りながら歩くセルティの後ろについて、恐る恐る岸谷家のリビングに顔を出すと、フローリングに正座した静雄とコーヒーをすする新羅が同時にこちらを見た。
「ヒッ」
「…帝人おまえ、ヒッて…ヒッて…」
「あっはっは静雄きみ恋人と目が合って『ヒッ』って言われるって!」
『まあ座ってくれ帝人』
 三者三様の反応に、帝人はとりあえずソファに腰を下ろした。思わず出てしまったがやっぱり「ヒッ」はまずかったらしい。正座した静雄はぐったりとうなだれている。地獄の釜で煎られたようなその顔が恐ろしかっただけだったのだが。
 落ち着きなくもぞもぞしていると、新羅がコーヒーを手渡してくれた。ミルクがたっぷり入っている。
「まあとりあえずこれでも飲んで落ち着いて。今日はちょっと聞きたいことがあって呼んだだけだから」
「…聞きたいこと、ですか?」
 カップの中身を一口啜った帝人はきょとんと首を傾げ、恨めしそうな静雄の視線に気付いて、途端にかっと赤面した。
「…言ったんですか! 静雄さん言ったんですか!」
 だってよお、と静雄が更にうなだれる。帝人はあああ、と片手で顔を覆った。
 セルティがPDAを差し出す。
『そう責めてくれるな、帝人。これでこいつも大分、というか死ぬほどショックを受けて、切羽詰まってうちに来たんだ』
「そうそう、死にそうな顔して『オイコラ新羅ちょっと聞け』って言われたときはとうとう僕の人生も終わりが見えたのかと思ったよ」
「それはあの、すみません…」
 帝人は身を縮めて俯いた。耳まで赤い。
 セルティがひらひらと手を振った。
『気にするな。それより帝人、どうしてそんなこと言ったんだ?』
「…そんなことって、その、」
 帝人が口ごもると、静雄が恨めしそうに言った。
「ちゅー禁止」
「って口に出さないで下さいよ恥ずかしい!」
 帝人はキッと静雄を睨んで叫んだ。
「でもほんとどうして? だって君らうまくいってたよね?」
 新羅が不思議そうに口を挟んだ。その横でセルティもうんうんと頷いている。
「…とにかくキスはやなんです」
 帝人はそっぽを向いて言った。唇はぐっと強情そうに引き結ばれている。
「理由は?」
「…黙秘します」
『帝人』
 セルティが困ったように首を傾げるが、帝人はぷいっと顔を背けたままだ。
「帝人、頼む、俺がなんかしたなら謝るから…!」
「黙秘です」
『そういうな帝人、ただでさえ静雄は空気読めないんだ、言ってくれなきゃ分からない』
「分かってくんなくっていいんです!」
「帝人ぉぉぉ…」
「情けない声出さないで下さい」
「じゃあせめて理由…!」
「言・い・ま・せ・ん!!」
 どんなに宥めてもすかしても帝人のかたくなな態度は変わらない。
 セルティが疲れ果て、静雄が精根尽き果てた頃、傍観していた新羅が面白そうに言った。
「とうとう静雄に愛想が尽きた?」
「ちがっ…!」
 反射的に否定する帝人に、静雄がぱあっと顔を輝かせる。
「帝人…!」
 新羅がすかさず突っ込む。
「でもキスは?」
「禁止です!」
「…帝人…!」
 分かりやすく凹んだ。それを指差してけらけら笑う新羅をぱこんと殴って、セルティが帝人の手をとってPDAを掲げた。
『帝人、静雄に不満があるなら言ってやってくれ。それじゃなきゃきっぱり振ってやってくれないか。こいつの残りの人生で帝人以外に恋人が出来るとは思えないし、このまま生殺しにされるよりは、いっそ一思いに死刑宣告してくれた方が』
「死刑宣告ってなんですか?! や、だから、別に別れるとか別れないとかそう言う話じゃ」
「別れたいのか?!」
『マジでか!』
「違うって言ってるでしょう! ですから嫌いになったとかじゃなくってですね、とにかくキスが、」
「なんだ違うのかー」
「俺のこと嫌いになったのか帝人ッ…!!」
「ですから違います! キスさえ」
『だってキスが厭って相当だぞ! 私なら別れる寸前だ』
「えええええセセセルティ君昨日キスさせてくんなかったけどもももももしかしてっ!!」
「そうなのか帝人おおお」
『いや新羅それはお前が断面にキスしたいとかマニアックなこと言うから!』
「帝人頼む捨てないでくれ!!」
「だってセルティ鎖骨って言ったら殴ったじゃないか! 妥協してその艶やかな首に」
「もう駄目か?! 駄目なのか帝人!!」
『新羅人前でなにwpくぁwせdr』
「セルティお願い嫌いになんないでっ!」
「帝人おおおお」





「…〜〜ッ僕はデコちゅーがヤだっただけです!!!」  
 





「「『………え?』」」