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君が笑うなら、それで

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「紀田くんに聞いたけど、帝人くん、とりあえず高校には行ける様になったみたいだよ。」
「ふぅん。」
新羅の言葉に生返事をしながら俺はチェスの駒を指ではじく。
俺は病院から退院して自宅療養って形になった。
「…興味なさそうだね。」
「だって、高校に行ける様になったって俺とは会えないんでしょう?」

そう、俺はまだ帝人くんに会えない。

数日我慢すれば、きっとまたいつもの笑顔で「すいません、臨也さん。」なんて笑ってくれるんだと信じてた俺の期待は裏切られた。
帝人くんは、まだ俺に拒否反応を示してる。…なんだかこんな風に言うと、俺が嫌われたみたいで嫌だ。

「いつになったら会える?」
「・・・もう少し落ち着いてからじゃないと。」
その、『もう少し』がどれくらいなのか俺にはわからない。
けれど、新羅にもわからないんだろう、俺は素直に頷いた。

俺はぼんやりと帝人くんのことを考えた。
今は他にすることが無い、療養中ってのもあるけど、それよりも、何もする気がしないんだ。
帝人くんはいつも微笑んでる。少なくとも俺の記憶の中では。
そりゃムスッとしたり、目を吊り上げてたり、呆れたようにため息を吐く姿も俺は知ってる。
でも、大抵は笑ってる。
帝人くんが泣く姿なんて、…一度しか見たことがない。


『・・・嘘、ですよね?』
『え?酷いなぁ、俺本気だよ?』
『臨也さんの言葉ってあんまり信じられないんですけど。』
『あー、今の。俺の繊細なハートを抉っちゃったから。』
『・・・。』
『ねぇ、返事は?』
『…本当に?』
『だから嘘じゃな、・・・・・帝人くん?』

帝人くんは俺の声に慌てて横をむく。
俺は「おやぁ〜」と、言ってその顔を覗きこむ。
帝人くんはぐいっと俺の顔を押し退けながら言った。

『僕も、臨也さんが好きです。』
そう言ったその目は潤んでた。帝人くんは認めなかったけど。


本当に、予想外のとこで泣く子だ。

今回だって怒られるか、呆れられるか、どっちかだと思ってたから。
まさか、あんなボロボロになるまで泣いてくれるとは思わなかった。
「…俺、案外帝人くんに愛されてたのかなぁ。」
「・・・この状況で惚気られる臨也は強いね。」
俺の独り言を聞いた新羅は苦笑した。

日々は淡々と進む。
帝人くんに会えないこと以外は何も変わらない。
今日、帝人くんは何をしてるんだろう。
俺は暇さえあればそんなことばかり考えた。

あぁ、日常ってこんなにつまらない物だったっけ?

俺は毎晩帝人くんちの近くまで散歩に行く。
散歩と言うにはかなり遠い場所ではあるのだけれど。

そりゃ、「もしかしたら」「偶然」「運よく」帝人くんに会えたら良いな、と、そんな風に考えてた。
新羅はまだ会ったらいけないと、そう言ってるけど、案外あっさり俺に笑ってくれるかもしれないじゃないか。

今日も帝人くんの部屋は電気が付いたままだ。
新羅が言うには暗くすると思い出すらしい、そういや俺が撃たれたのは夜の路地裏だったから、かなり暗かったっけ。
窓に、帝人くんの影が映る。
今、帝人くんが窓を開けさえすれば、俺が居ることに気が付くかもしれない。

窓に帝人くんの影が見えなくなって、俺は落胆した。

なんか、俺、ストーカーっぽい。
こんなとこでぼんやりと立ってたら怖いお巡りさんに職務質問されちゃうかも。
自虐的な笑みを浮かべて、諦めて自分のうちへ戻った。


あんなに会いたいと思いながら、毎晩帝人くんちの近くをうろついてたのにさ。

会えるわけないと思ってたところで、会ってしまうのだから、運命って不思議。
俺が昼間から街をぶらついて、やることも無くて、もうつまらなくてつまらなくて仕方が無くなったから家へ戻ると、マンションの前に佇む人が居た。
無駄に高層造りのマンションを見上げたまま、その場から一歩も動かずに視線を上に向けていたのは、帝人くんだった。
もう、日が落ちる。暗くなるのに、彼は大丈夫なのだろうか?
思いがけず会ったから、俺も思わず立ち止まったまま帝人くんを見つめた。

俺の視線に気付いたのか、帝人くんが俺の方を見た。
少し痩せた、というよりはヤツレタような帝人くんの姿。
それでも、1か月ぶりくらいになるその姿に俺の胸は高鳴る。
「いざ、や、さん。」
帝人くんも驚いたみたいだ。俺に会う気は無かったのだろう。
俺が毎晩帝人くんちに行くのと同じように、帝人くんも俺のマンションの外までは来てくれた。

ねぇ、ホラ。
新羅、案外大丈夫なんだって。

「…久しぶり。」
自分の中で一番優しいと思われる声で、一番穏やかだろうと思われる笑みで、帝人くんにそう言う。
帝人くんは、「はい、お久しぶりです。」と言って俯いてしまった。
俺は近づきすぎないように気をつけながら、ゆっくりと距離を詰める。
もう一度、帝人くんに拒否られたら、俺は立ち直れそうにない。
「元気…そうに見えないんだけど、ちゃんと食べてる?」
「…臨也さんこそ、怪我は、もぅ・・・っ、だい、じょうぶです、か?」
途中で帝人くんの声が震え始める。
あちゃ、マズッた。健康面は今の俺たちにはタブーだ。

「もうぜーんぜん平気。それよか帝人くんに会えない方が辛かったよ。」
「…また、そういうこと言う。」
クスリと、帝人くんが笑った。俺は内心胸を撫で下ろす。
まだ前みたいにはいかない、ぎこちないやり取りだけど、俺は嬉しくてたまらなかった。
触れたいな、帝人くんに。

「臨也さん、今日会えるとは思ってませんでした。」
「あ、うん。俺もだよ。」
「…会ってしまったので、お伝えしようと思います。」
「え?」

「僕たち、別れましょうか。」


帝人くんに会えない間、地獄だと思ってた。
だけど、それは所詮まだ入り口でしかなかったんだ。
俺は、たった今、背中を押されて真っ逆さまに地獄へ落ちて行く。

俺の背中を押したのは、紛れも無く、帝人くんだった。

作品名:君が笑うなら、それで 作家名:阿古屋珠