二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

君が笑うなら、それで

INDEX|6ページ/9ページ|

次のページ前のページ
 


物事と言うのは複雑なようで実は案外単純明快だったりする。
この世の出来ごとのほとんどが確立で計算しうること、だけどたまに思いがけないことが待ってたりするから、だからこそ人間ってのは面白い。

「臨也さん…。」
この世で最も性なる行為を終えた後、帝人くんは布団から起きられないままぼんやりとした顔で俺を呼んだ。
「なぁにー?」
「…毎日のように来ますけど、お仕事は大丈夫なんですか?」
「何が?」
「さぼったりしてませんか?」
今思えば帝人くんがこんなことを聞くのはおかしな話だ。
帝人くんは俺の仕事を良くは思っていない、理解はしてくれてるけど。
「ん、順調順調。俺ってば優秀だからね。」
「・・・そう、ですか。」
帝人くんは薄く笑った。

最近、帝人くんはそんな表情をすることが多い。
何処か諦めたような、納得したような、変な顔。
昔のような穢れを知らない笑みでは無い、だけど俺としては君が笑ってくれるのは大歓迎だからどんな笑みでも嬉しい。

「そうだよ。」
俺も帝人くんに微笑み返した。


『臨也さんは、わかってないんです。』
あの時帝人くんが言ったあの言葉を俺はやっぱりわからない。
だけど少なくとも俺が撃たれたあの瞬間、帝人くんがどんな気持ちだったか、ということは嫌というほど思い知らされることになる。

「・・・・・え?」
生まれて初めて俺の思考がストップした。
自分が次取るべき行動がわからなくなり、それどころか今まで自分がどうやって二本足で立っていたのか、呼吸をしていたのかさえ、忘れた。
グラッと揺れた体は重力のままに地面へ向かい、反射でどうにか手を突く。

「臨也?」驚いたように新羅が目を見開く。

身体が言うことをきかない。
今まで俺はどうやって生きてたんだっけ?呼吸が苦しくなり、必死に酸素を取り込もうとしたら過呼吸になった。
何これ、何これ、何これ。
ヒッヒッと苦しげに呼吸する俺を新羅は見降ろして、苦笑した。
「大丈夫?」と、
大丈夫なわけがない。

真っ青な顔でフラフラと壁伝いに歩く俺に看護師さんが慌てて近寄ってきたけど、俺は「軽い貧血です」と苛立たしげに答えた。

病室は3階だった。
エレベーターを使う気になれず、階段を一段一段上るたびにそれは死刑台への一歩一歩に思える。
むしろ、そのほうが楽だった。

殺されるのが俺ならそのほうがずっと良い。

『リュウガミネ ミカド』と書かれた病室の前で俺は立ちつくす。
やっぱり夢じゃないと思い知らされて、俺は吐き気を催した。
病室の、この、ドアを開ければどんな悪夢が待っているのだろう。悪夢という名の現実が。



『臨也!、帝人くんがっ。』
その一言から始まった新羅の言葉を俺の脳は始めは拒否した。
「そんなわけないよ」「まさか帝人くんが」と。
でもだんだんそれが真実であり現実であり、リアルタイムに今起っている出来事だと理解したら、体は動かなくなった。
そうして、帝人くんを救ったのは俺じゃ無い、セルティだ。
ハハ、笑える。なんて情けない。

病室のドアはまるで鉄壁の防御のように俺の入室を拒む。
俺は立ちつくしたまま動けない。

「臨也さん?」
中から、帝人くんの声が聞こえた。
すごいな、エスパーかい?君は。
俺は返事をしようとして口を開けたけど、何も言えなかった。

怖い、帝人くんに会うのがすごく怖い。
・・・そうか、君もこんな気持ちだったんだね。

『別れたい』とは思えないけど、それでもしばらく帝人くんには会えないと思った。
だって泣いてしまいそうだ、許されればそれも辛いのに、許しを求めてしまいそうだ。
帝人くんの体に万が一傷が残るようなことがあれば、俺はもうそこには触れられない。

「臨也さん…?足音がそうだと思ったんだけど…違ったかな?」
反応のない俺に帝人くんは気のせいだと思ったようだ。
そうだね、気のせいだと思ってて、少し気持ちを落ち着けなきゃ。今君に会ったら俺はどうなるのだろう。

病室から立ち去ろうと足を動かすと、「臨也さんっ!!」と中から叫ばれた。
「やっぱり来てるんですよね?臨也さん、待って下さい、いかないでっ!、あっ!」
言い終えると同時にどさっと何かが落ちる音がした。
明らかにベッドから落ちたと思われるその音に俺は反射的にドアを開けた。
そこに待っていたのは恐ろしい悪夢、ではなく頭を押さえた帝人くんだった。
「いっつー…あ、やっぱり臨也さんだ。」
帝人くんはやっぱり、という表情で笑う。

病室の中には帝人くんの声ばかりが響く、
「明日は晴れますかねー?」とか、
「この前のテストは最悪でした。」とか、
「最近、近所に野良犬が居るんですけど、それが電信柱に張られてる『迷い犬』にそっくりなんです。」とか、
本当にどうでもいいことばかり。
しかも俺の返答を待つわけでもなく、ただ一人で話してる。俺に聞かせる様に。
包帯はあちこちに巻かれてるけど、本人はいたって元気そうだ。
おかしなくらい。

「み、みかどくん。」
らしくなく、どもる自分の声。震えてる、聞いたことも無い変な声だ。
「…なんですか?」
帝人くんは俺を見て微笑んだ。
「怪我、は?」
「…こんなのどうってことないですよ。」
帝人くんは笑みを深くして、ふふっと笑う。
「心配してくれたんですか?」
「あたっあたりまえでしょ?」

俺が思わず声を荒げると、帝人くんは苦笑した。



「じゃぁ、どうして助けてくれなかったんですか?」



俺はその時、その言葉が間違いなく俺の胸をズグリ、と、抉る音を聞いた。

「嘘ですよ。」
帝人くんはまた微笑む。
…いつからだろう、帝人くんが笑っているのに笑っていないと気が付いたのは。

「別に、臨也さんのせいじゃないですし。」
それは嘘だ。今回帝人くんを襲ったのは間違いなく俺に恨みを持つ奴らだ。
ただ個人的な恨みだったから帝人くんの怪我はこの程度で済んだ。
もしも組織的に動いている人間だったら、きっと帝人くんは殺されてた。
そう思うと、俺はまた身体が平衡感覚を失い、足元から崩れ落ちそうになる。


「僕が、悪いんです。全て。」

俺は初めてこの世には帝人くんに似合わない笑みもあると知った。

作品名:君が笑うなら、それで 作家名:阿古屋珠