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君が笑うなら、それで

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帝人くんに会いに行くと、俺は心苦しくてたまらなくなったけど、懺悔するように会いに行った。

ほぼ、毎日。
帝人くんは笑って、俺を受け入れてくれた。
けれどその奇妙な笑みと言葉の節々から歓迎されて無いことはありありとしていた。

そして、ついに

「もう、来ないで下さい。」
「・・・え?」
帝人くんはやっぱり奇妙な笑みのまま表情も変えずにそう言い放った。
「もう、来てほしくないんです。」
「…どう、して?」
「どうして?」
ハハッと帝人くんは声をあげた。

「臨也さんが嫌いだからです。」



そんなわけないでしょ?
と、そんな風に言える自信は残さず抉り取られていた。

だって俺はいつだって帝人くんの邪魔にしかなってない。
銃痕こそ残さずに守れたけど、その心はこれ以上ないほど傷つけた。
しかもその傷を癒そうとしてる所に、俺自身が帝人くんを傷つけた。
その、弱り切った帝人くんを傷つけたのも、また、俺のせいだ。

俺自身が帝人くんを傷つけるのと、俺のせいで帝人くんが傷つけられるのとでは、似ているようで全く違う。

否とも応とも言えず、ゆらりと立ちあがって病室を出て行く俺に向かって、

「さようなら。」帝人くんはそう言って、また、笑った。


それから少しの間だけ、帝人くんには会いにいかなかった。
勿論、帝人くんと別れる気なんて俺には無い。
ただ、距離を置くことの大事さも、今回のことで学んだから。

3日。
俺の忍耐力ではそれが限界だ。
帝人くんに会えない日は俺は生きてる感覚さえ麻痺した。

嫌われてるなら、それで良い。
いっそ嫌われて憎まれて、拒絶されて…俺を殺してくれたらいい。
そうじゃないと、帝人くんになんと言われようと俺は離れることなんて出来ない。

ただぼんやりと3日経つのを時計と睨めっこしながら待ち続けた俺は、3日目の朝、もう待ちきれなくて面会時間と同時くらいに病院へ駆け込んだ。

のに、

「うわ〜、ありがとう。」
「入院生活も長いとつまらないだろうと思ってさ。」

帝人くんの病室には先客が居た。

「ゲームに漫画に…え、エロ本!?」
「そうとも心の友よ!しかもナースコス特集だぜっ。この正臣様に感謝しろよ。」
「・・・こ、これはちょっと・・・看護婦さんたちに見つかったら気まずいことこの上ないよ。」
「何言ってんだよ、『あら?やだ、あの子ったら私たちを見ていつもこんなの妄想してるのかしら?』って好印象を…」
「受けれるか!!」

ドアを開けなくてもわかる。
楽しそうな笑い声にはきっと、俺がもうしばらく見ていない笑顔があるんだろう。

俺には見せちゃくれないのに、

君は、

そうやって、

今、帝人くんに会えば俺は酷いことをしてしまうとわかりきっていた。
怒りと嫉妬でガンガンとトンカチで頭を殴られてるような感覚に陥る。
うっと吐気がして俺はトイレへ向かう。

今度は帝人くんがドア外の俺の足音に気が付くことなど無かった。


一回吐いただけじゃ収まらなくて、二回も三回も嘔吐する。
すえた臭いが鼻について、それがまた吐気を誘う。

嫌われても平気だなんて、強がりだ。

今、俺はこんなにも苦しい。
帝人くんなら何をしても最終的に許してくれるという、甘い奢りが無くなった今、俺を守る手立てなんてない。
帝人くんに嫌われるくらいなら、いっそ死にたい。
でも、帝人くんと別れることになるのはもっと辛い。

帝人くんに嫌われたまま生きてくことと、いっそこの世から消えることとどっちのが楽だろうか、そんなことを考えた。



帰ろう。
沈みきってた考えを浮上させて、俺は息を吐く。
トイレに座り込んでたのをどうにか立ち上がって、俺は歩き出した。
また、明日来よう。
この数歩先には帝人くんの部屋があるとわかってるのに、そこへ入れないもどかしさに俺は唇を噛んだ。

ああ、会いたい。
君に会いたい。

病院ロビーに降りてから人ごみの多さにくらっときて近くの柱に手を突いて少し休んでいると、
「っ、臨也さん?」
と、声がした。
見ると、紀田くんだった。
「何?」
「え、いや、何っつーか…。帝人なら3階の病室ですよ。」

そんなこと知ってるよ。
俺はいらっとした。
まるで、自分の方が帝人くんと仲良いとでも言うように。

「だから?」
「…行ってやらないんですか?」
紀田くんの目が責める様に細められる。
行ってやらないだって?行っても良いなら大喜びで行くさ。
俺の気持ちも知らないくせに。

「君に関係ないでしょ?」
そう言って俺はその場を立ち去ろうとした。
その俺の耳に信じがたい言葉が飛び込んでくる。


「帝人、臨也さんに会いたいって言ってました。」


「…は?」
俺の間抜けな返事は騒々しいロビーのざわめきで掻き消される。
「だから、会いに行ってやって下さい。」
嘘だ。
そんなこと言うはずが無い。
「何、それ。同情?俺を憐れんでるの?帝人くんがそんなこと言うわけっ」
「泣いたんです。」
また、言葉を失う。

「あいつ、臨也さんに会いたいって、泣いたんです。」

俺は次の瞬間、エレベーターへ走った。
来るのが時間がかかりそうだったので、階段を駆け上る。
一段飛ばしだったのがいつのまにか二段飛ばしになってた。

紀田くんの言葉が本当かどうかなんて知らない。

そんなこと、どうでもいい。

どうか、俺の前でもう一回笑ってくれたら、



それで、良い。

作品名:君が笑うなら、それで 作家名:阿古屋珠