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君が笑うなら、それで

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「帝人くんっ!!」
病院には似つかわしくない大声を上げて、部屋に飛び込む。

帝人くんは俺の姿を見た瞬間、苦笑して、「来ないで下さい、って言ったでしょう。」と、言った。
でも、確かにその目は赤い。

「うん、ごめん。」
「…謝るくらいなら、もう此処には…。」
「ごめん、これからも来るよ。」
「・・・。」
「ずっと、ずっと。帝人くんが退院するまで。」

帝人くんは僅かに唇を震わせたが、奇妙に笑った。
でもそれは俺が今まで見た笑みよりももっと、…今にも泣きたいのを我慢するような、そんな変な顔。

「臨也さんのせいで、僕はこんな目にあったんですよ、…だから、僕は、僕、は、臨也さんにもう会いたくない。」
「うん。」
「顔も見たくない。二度と、僕の前に現れないで下さい。」
「ごめん、それは無理。」
「…まるで嫌がらせですね。」
「そうだね、ごめん。」
笑ってそう言う俺に嫌気がさしたのか、帝人くんはため息をついた。
そして、意を決したようにキッパリと言い放つ。

「僕は、臨也さんが嫌いです。」

その言葉に傷ついているのは不思議なことに俺よりも帝人くんのほうだ。
言った直後に早速後悔して、でも言いなおせずに目が泳いでる。
3日前に言われたときも今思い出せば『嫌いだ』と言う帝人くんのほうが苦しんでた。
それに気が付ける余裕は俺にも無かったけど。

「どうしたら償える?」
「え?」
俺の言葉に帝人くんは目を見開く。
「ううん、償えるなんて思わないよ。だけど、俺がどうしたら帝人くんの気が済む?」
「・・・。」
「俺のこと好きなだけ殴って良いよ。」
「・・・。」
「なんなら、そこの窓から飛び降りてみせようか?この命で帝人くんが笑ってくれるなら安いもんだ。」
「臨也さん?」
帝人くんの不安げな声。
俺がこんなことを言うなんて思ってもみなかったんだろう。
奇遇だね、俺もこんなことを言う日が来るなんて思わなかった。

「俺が嫌いなら、俺と顔を会わせたくないなら、帝人くんは俺にこう言えば良い。『この世から消えて下さい。』ってね。」
俺はにっこりと笑う、帝人くんは表情を強張らせて俺を見たまま何も言わない。

「どうかな?そんな楽には死なせたくない?」
「…そ、そんなことっ…。」
そうだねぇ、言えるわけないよね。
帝人くんは優しいから。

俺はその場で崩れ落ちる様に膝をついた。
ゴッと鈍い音がして膝に痛みを感じる。

「い、臨也さん!?」
俺の突然の奇行に、帝人くんの悲鳴が病室に響く。
俺はにんまりと笑ったまま、ベッドに座る帝人くんを見上げた。
そしてから、両手を床に付け、そのまま頭を床に付くまでゆっくりと下げてった。

そう、俗に言う『土下座』だ。

たくさんの人間が俺の前でこういう風に頭を下げるのを見てきたけど、俺がこうするのは初めてだ。

不思議、帝人くんに対してならそんなに気分も悪くない。

「っ、止めて下さいっ。」
帝人くんが慌ててベッドから降りてくるのが気配でわかる。
俺は頭を下げたまま、動かない。
「臨也さん、そんなことっ・・・貴方らしくもない。頭を、上げて下さい!」
俺らしくない。
でも、それってどういうことだろう。
帝人くんが俺の傍で笑ってくれたら、恥もプライドもなにもかも捨てられる。
『俺』だって捨てて見せる。

「ごめんね。」
「臨也さん、頭を上げてっ。」
「ごめんね、帝人くん。」
「臨也さん!」
「ごめん。」
「違う、僕はこんな、こんなつもりじゃっ…。」
帝人くんが俺の肩を引き上げてどうにか顔を上げさせようとするけど、俺はただただ額を床に付け続ける。
だんだん、帝人くんの声が涙交じりになってるのがわかった。
ああ、いますぐにでもその震える体を抱きしめて涙を舐め取ってあげたい。

「俺ね、帝人くんが居なきゃ生きてけないんだ。」
「そんな、そんなわけないっ・・・。」
「生きてけないよ。」
「っ。」
「だから、俺を捨てるなら、いっそ殺して。」

「嫌ですっ。」

下げたままの頭ごとぎゅっと抱きしめられた。
久々の温もりはやっぱり暖かくて、俺は泣きそうになる。

「僕、のせいで、臨也さんが怪我するのはもう嫌なんです。」
「帝人くん…。」
俺が漸く頭を上げると、帝人くんはグジャグシャの顔で泣いてた。

「僕さえ居なきゃ、臨也さんならどんな危ない仕事もやってのけるっ。僕が居れば足手纏いに、なる、から。」

「だから、僕はっ・・・。」

「『嫌い』なんて言わせてごめん。」
俺がそう謝ると帝人くんはさらに泣いた。





帝人くんに笑って欲しくて、俺はその涙に口付けた。

作品名:君が笑うなら、それで 作家名:阿古屋珠