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Lion Heart

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Episode:2

 フランスの開会宣言から静まりかえった室内で、イギリスは参列者へ向かい立ちあがった。
「パリ講和条約に基づき三位一体の名において、我が大英帝国はアメリカ領土の独立を承認し「アメリカ合衆国」の建国を認める。」
 金色の長い睫毛を伏せがちにイギリスは、羊皮紙で出来た書状を読み上げた。
 条文を読み終え、イギリスは着席すると羊皮紙にサインをし、調印を押すと再び立ち上がりアメリカの前に立った。
「建国に際し、我が大英帝国は過去のわだかまり及び行き違いの一切を忘れ、それによって不幸にも中断されたよき交流と友好を回復し、両国間に有益な関係を打ち立てることを望む。」
 そう言うと、イギリスは条文の書かれた羊皮紙をアメリカに差し出した。
 イギリスは、眉一つ動かさずにアメリカを見つめた。
 その表情の読めない様子にアメリカの胸は、またチリチリと音を立ててくすぶっていた。
「我が、アメリカ合衆国は三位一体の名において条約国との共栄を望む。」
 アメリカは、イギリスより受け取った条文にサインをすると参列者に向かい宣言した。
 その言葉を合図に室内に湧きあがる様な拍手が響いた。
「これをもって独立国家承認式を閉式する。」
 フランスが閉式を宣言するとイギリスは、アメリカに声をかけることなく足早に部屋を出た。
「イギリス!」
 アメリカは、去っていくイギリスの背中に向かい声をかけたがイギリスは振り返ることはなかった。
 式典となった会場は、祝福と歓喜に満たされイギリスを追いかけようとしたがアメリカは、参列者からの挨拶や祝福で囲まれてしまい身動きが取れなくなっていた。
「あ、ありがとう。ああ・・・。」
 洪水のように祝福の言葉が降る中でもアメリカは、イギリスが去って行った扉が気になっていた。
しかし、建国した立場では今までの様に自分の衝動で動く事は叶わず、追いかけたい気持ちを抑えてその場の対応をやり過ごすことしか出来なかった。
(この時間が終わったら、イギリスの所に行って今日の事を言ってやるんだぞ・・・。)
 アメリカは、自身に募るチリチリとした感情を打ち消す為にもそう呟いた。
           *
 ようやく解放されたアメリカは、イギリスが居るであろうあのゲストルームへ向かって長い廊下を足早に進んでいた。
「おい、アメリカ。何処に行くつもりだ?」
 先を急ぐアメリカの背中に、フランスが話しかけた。
アメリカは、立ち止まり振り返るとフランスの硬い表情に一瞬、言葉を詰まらせた。 
独立の為にイギリスを裏切り、フランスの手を取った自分がイギリスを追いかけている事をフランスに言えるわけがない・・・。
「何処って・・・。なんでそんな事、聞くんだい?」
やや引き攣った笑顔でアメリカは、答えをはぐらかしたがフランスはさらに表情が険しくなった。
「どうせ、イギリスの所に行こうとしてたんだろ。」
 はぁ・・・と、小さく溜息をつきながらフランスは、図星を指した。
「う・・・、わ、分かってるのに聞くなんて性格悪いんだぞ。」
 アメリカは、少しふて腐れた様に小さく呟いた。
「お前に言われる筋合いは、無いね。」
 フランスは、不機嫌そうに言い返す。
「アメリカ、イギリスの所に会いに行ってどうするつもりだったんだ?お前はもう、あいつの家族じゃないんだ。都合のいい時だけあいつに関わるのは、止めろ。」
 フランスは静かに、しかし明らかに怒りを孕んだ声音でアメリカを窘めた。
「・・・。」
 アメリカはフランスに言い返す言葉も見つけられず、ただ固く拳を握りしめた。
「分かったなら、早くお前も自分のゲストルームへ戻れ。明日は、細かい書類の受け渡しと祝典だ。」
 フランスは、そう告げると自室へ続く廊下へと歩きだした。
「『家族ごっこ』は、終わったんだ。」
 すれ違いざま、フランスは忘れるなと云う様に付け足した。
「・・・じゃないんだぞ。」
 アメリカは、やっとの思いで声を振り絞った。
「は?なんだ、アメリカ。」
 フランスは、立ち止まるとアメリカの声に片眉を軽く釣り上げて反応する。
「『家族ごっこ』じゃないんだぞ!」
 アメリカは、声を荒げながらフランスに掴みかかった。
「じゃあ、なんだって言うんだ?お前は、もうイギリスの家族でも何でもない。あいつの手を振り払ったお前が今更出来る事なんて何一つ無いんだよ!」
 フランスは、掴んでいる腕に手をかけ力を込めた。
「離せ。」
 静かにフランスは、そう言うと力づくでアメリカの手を引き剥がす。
「独立するって言う事は、そういう事だ。お前が『独立するのを辞めます。』って言いだしてもお前が手を取った仲間を裏切る事になる。」
「あ・・・。」
「そんな事になったら、結局責任を取るのはイギリスだ。どっちにしても、もう手遅れなんだよ。」
 フランスは、これが現実だと言う様にアメリカに告げると自分の部屋へと歩いて行った。
(手遅れ・・・。)
 フランスの言葉にアメリカは、冷水を浴びせられたような衝撃を受けその場に立ち尽くした。
          *
 フランスの言葉に呆然と立ち尽くすアメリカに、控えめな声が話しかけた。
「アメリカ。」
 アメリカは、その声にギクリとし現実に引き戻された。
「あ、ああ、カナダ・・・。どうしたんだい?」
 アメリカは、カナダに気付くと少しほっとした様に何か用かと駆け寄った。
「うん・・・。少し、庭に出ない?」
 カナダは、そう言うとアメリカに中庭へ続く廊下へと誘った。
「ああ。」
 アメリカとカナダは、連れ立って中庭へ出た。
「やはり、外は暑いな。」
「うん。夏だからね。」
 アメリカは、午後の日差しの強さに目を細めた。
 綺麗に整えられた芝生と薔薇で作られた生垣で区切られた道を進む。
その先には、大理石で作られた休憩用の小さなテーブルとベンチが置かれていた。
そこにアメリカとカナダは、対面で腰掛けた。
「で、話ってなんだい?」
 アメリカは、一息入れてカナダに訊ねた。
「あ、うん・・・。アメリカは、どう思っているのかと思って・・・。」
「どうって、何がだい?」
 カナダの遠回しな質問に、アメリカはその意味を確認した。
「イギリスさんの事・・・。」
 カナダは、俯きがちに言う。
「・・・どうもしないさ。」
 一瞬の沈黙の後、アメリカはカナダにタメ息交じりに答えた。
「じゃあ、なんでそんなに辛そうな顔をするんだい?」
「・・・。」
「君は、君の意思で離れたのに。」
 カナダにしては、珍しく攻撃的な問いにアメリカは、静かに受け止めた。
「それならカナダ・・・。君は、オレにその答えを聞く事でどうするんだい?」
「どうって・・・。僕は、イギリスさんの傍に居るよ。」
「・・・。」
「それが、どんな形であっても。あの時から、そう決めていたから。」
 イギリスから離れる事を決断した時、アメリカはカナダに一度だけ聞いたことを思い出していた。
(「僕は、僕の出来ることでイギリスさんを守るよ。」)
 その意味は、あの時のアメリカには理解が出来なかった。
(「オレは、オレの正義でイギリスと向かい合いたいと思ってる。だから、行くよ。」)
 アメリカは、確かにその時カナダに伝えた。
作品名:Lion Heart 作家名:815