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Lion Heart

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Episode:3

フランスには珍しく、優雅という言葉を欠く様な歩行速度で廊下を歩いていた。
「フ・・・フランスさん。」
 長い廊下をイラつきに任せて猛スピードで歩き、ようやく自分の部屋の前に辿り着いたフランスに消え入りそうな声が耳に入った。
「今、取り込み中なんだ。」
 別にたいした用事がある訳ではなかったが、先刻のアメリカとのやり取りで気が立っていたフランスは、相手を見ずに放っておいてくれと言う様にそっけなく返した。
「す、すみません・・・。」
 そんなフランスの態度に声の人物は、さらに消え入りそうな声で謝罪した。
「・・・。」
 その声に冷静さを少しだけ取り戻したフランスは、自室の扉に向かって静かに息を吐き出すと声の主に謝罪した。
「悪い。少し気が立ってたみたいだ。」
 苦笑しながらそう言うとフランスは、さっきまでの硬質な態度を打ち消した。
「あ…、いえ。」
 アメリカと似た顔立ちの割には、性格は正反対の彼は、おどおどとフランスを見上げた。
 フランスは、内気で大人しい彼の部分をアメリカが少しでも引き受けていたらこんな状態にはならなかったであろうと思った。
「どうした?カナダ、お前も明日の準備があるだろ。」
 もともとカナダは、幼い頃はフランスと一緒に生活していた。
しかし、アメリカがイギリスと生活を共に始め、領土を拡大したことで結果、アメリカとカナダはイギリスの下で生活するようになっていった。
「あ…、はい。廊下からアメリカとフランスさんの声が聞こえたので・・・。」
 カナダは、心配そうフランスの様子を覗った。
 フランスは、苦笑しながらカナダに心配するなと軽くカナダの頭をクシャっと撫でておやすみと付け加え自分の部屋に入ろうとした時だった。
「フランスさん…。ま、待って下さい。」
 カナダは、閉まりかけたドアに向かって咄嗟に叫んだ。
 フランスは、その声に閉めかけたドアを開いた。
「どうした?カナダ。お前にしては、珍しいな。そんな風に引き留めるなんて。」
「すみません・・・。」
 カナダの様子を見て、フランスは少し考えた後、仕方ないなと云う様にカナダを部屋へ招いた。
「今日は、少し疲れてるから短時間でいいなら入れ。」
 フランスの部屋は、華やかな家具で彩られておりテーブルの上には赤い薔薇が飾られ、蝋燭の灯りが優しく部屋を映し出していた。
「で、話は何だ?」
 カナダをソファにエスコートし、フランスは用件を聞いた。
「あの・・・、フランスさん。」
 やや言い難そうにカナダは、話し始めた。
「どうした?」
 フランスは、その様子に先を促す。
「すみません。さっきの話、実は全部聞こえてしまって・・・。」
「ん?ああ、仕方ないさ。あんな所で大人気なく言い争ってたんだ、誰が聞いてても仕方ない。」
 フランスは、少し困ったように笑いながらカナダをフォローした。
「それで、あの・・・。フランスさんは、本当はイギリスさんの事・・・。」
 カナダは、そこまで言うと言葉を詰まらせた。
「そんなワケあるか。アメリカが独立を止めちまったら、あいつに援助した分の資金の回収が出来なくなるから釘を指しただけだ。」
(こいつ、静かだけど感は良いんだよな・・・。)
 フランスは、静かにカナダの声に耳を傾けていたがそんな事、気にするなと言うように頭にポンと手を乗せ明るく返した。
「なら、どうして・・・。」
 そんなフランスにカナダは、フランスの本心を聞こうと言い募った。
「カナダ、それ以上は踏み込むな。」
 しかし、フランスは、警告だと言う様にやや強い口調でカナダの言葉を遮った。
「これは、オレ達(国同士)の問題だ。イギリスの一部であるお前が、それ以上踏み込むのはルール違反になる。」
「でも・・・。」
 と、言いかけたがフランスは、宥めるように言い聞かせた。
「アメリカもそうだが、お前も一緒に育っただけあって考えが似てるな。」
「そうですか…?」
 やれやれと、苦笑しながらフランスは続ける。
「ま、オレが仮にイギリスを思っていてもお前が勝手をすれば、全てアイツが責任をとる羽目になる。だから、当人達の問題に誰かが介入するのは野暮なのさ。」
フランスの言葉にカナダは、項垂れ小さく謝罪した。
「すみません・・・。」
「いや、お前は聞き分けが良くて助かるよ。だが、この話はこれでお終いだ。」
 フランスは、そう言って話を切り上げた。
「今日は、帰ります・・・。」
これ以上の追及は難しいと判断し、カナダはそう言って席を立った。
「ああ。」
 フランスは、カナダを気遣う様にドアの近くまで見送に付き添った。
「あの…、フランスさん。」
 ドアの前まできた時だった。
 カナダは突然立ち止まると、フランスの頬に片手を添えて俯きがちに話した。
「僕はイギリスさんも心配ですが、貴方も心配なんです。」
 辛く、悲しそうな表情で涙をにじませるカナダを見てフランスは、頬に添えられた手を握り返した。
「カナダ・・・。ありがとな、心配してくれて。」
 フランスは微笑むと、小さい子供にする様にカナダの頭を引き寄せてぽんぽんとカナダの背中を叩いた。
「フランスさん…。」
「ほら、明日もあるんだ。あんまり、泣いてるとウサギみたいに目が赤くなるぞ。」
 苦笑しながらフランスは、そっとカナダから離れドアを開いた。
「じゃあな、あんまり可愛い顔してると帰せなくなるからな。おやすみ。」
 そう言うと、フランスは軽くウインクした。
「はい、おやすみなさい。」
 カナダは、泣き笑いの様な笑顔で軽く頭を下げるとフランスの部屋を後にした。
          *
 カナダが部屋を出た後、フランスは自分がアメリカに言った言葉を思い返していた。
「『もう手遅れ』、か・・・。誰に言ってんだろうな。」
 フランスは、部屋の明かりも点けず月明りの差し込む窓際に腰掛け呟いた。
 カナダが何を言いたかったのか分かっていた。
 イギリスを気遣ってアメリカを遠ざけたのではないかと聞きたかったのだろう。
 イギリスとは、物心ついた頃から喧嘩ばかりだった。
 アメリカの独立を援助したのも、イギリスが今度こそオレに泣き付いて来るんじゃないかという歪んだ考えがあったからだ。
「結局、泣きつくどころかあっさりアメリカの独立を認めちまったけどな・・・。」
 ハハ・・・と、自嘲的に笑いながら壁に凭れかかり、フランスは静かに目を閉じた。

作品名:Lion Heart 作家名:815