これも一つのシズデレラ
「・・・・・・今日城で舞踏会あるっての知ってるか?」
「・・・・・・いや、知らねえ」
恐るべき精神力で静雄の格好にツッコミを入れず、いきなり本題に入ります。
「王子の結婚相手を探すって言う名目で開かれたんだがな、実を言うと王子のダチが面白半分で提案しただけで本人はあまり乗り気ではないんだ」
「それがどうしたんだ」
「その舞踏会に来てんだよ、臨也が奴の妹たちと一緒に」
「はああ!!?」
「どうせ臨也のことだ、碌なこと考えてだろ。だがあいつを止められるのはお前しか思いつかん。だから」
「わかった殺す、あいつをすぐにぶっ殺して・・・・・・」
「・・・なんだ?」
「・・・・・・・・・着ていく服がねえ・・・」
触れずにすんだ服の話題がここで再び浮上しました。またもや何とも言えない空気がふたりの間に流れます。
「・・・・・・一つもないのか?」
「・・・ああ」
気まずい、非常に気まずい。この空気の中どうしたものかと悩む二人でしたが、突破口はいきなり開きます。
「安心して兄さん」
「幽! お前いつから・・・」
「門田さんが俺の家に来るっていうからついでに馬車に乗せてきてもらったんだ。話は全部聞いてたよ」
「そ、そうか・・・」
「服のことなら安心して。着ていく服なら、ここにある」
そう言って幽は乗ってきた馬車から一つの大きな箱を取り出しました。
「よし、これで問題はないな。招待状ならお前当てにすでに手配してあるから早く着替えて行け」
「ああ! これであのノミ蟲野郎の息の根を止めにいける!!!」
静雄は幽に感謝しました。俺にはもったいないほどの弟だ、本当に頼りになると感動すらしていたほどです。しかしその感動は箱を開けた瞬間、悲しくも霧散したのですが。
「こんなこともあるかと思って前から注文してたんだ」
箱の中身は、これまたドレスだったのです。女性用の。正装用ではありますが、ピンクで、フリフリの・・・。
「舞踏会といえばドレスでしょ」
一部の人間しか感情が読み取れない表情で言い切る幽に、静雄も門田も返す言葉がありませんでした。
◇◆◇◆◇
「見ろ帝人、右も左も美しく着飾ってお前に見初められるのを待ちわびる女性ばかりだぞ! まさにロリから熟女まで勢揃いのハーレム、男のロマンだ!!!」
「うん、正臣一回去勢してみない?」
「新羅先生に相談してみますか?」
「待て待て待て待て、落ち着くんだ二人とも。いいか帝人、去勢なんてものはな、男が一度しか経験できない特別な儀式だ。しかもそれで俺の男としての人生は終わる。ジ・エンドだ。そんなの俺は望まないからな!!! 杏里もそこで真に受けないで」
「だってそのくらいやらなきゃ正臣の軟派癖治らないかなって思って」
本日の主役である帝人王子は貴族の娘の杏里と、この舞踏会が開催されるきっかけを作った大臣の息子である正臣との幼馴染三人で、華やかな広間の様子を少し離れた場所で見ていました。
「俺はお前のためを思ってだなあ。年頃なんだし嫁候補の一人や二人ぐらい作っといてもいいだろ?」
「余計なお世話だよ。というか正臣がただ女の人集めて軟派したかっただけでしょ? あとこの服! それこそいい年して白タイツってどういうことさ!?」
帝人王子の服を用意したのは正臣と杏里でした。丈が非常に短いズボンとニーハイブーツから覗く太ももを覆う白タイツがとても魅惑的で・・・、ごほんごほん。正臣、杏里、大変グッジョブです。
「よく似合ってますよ」
「そうそう、童顔のお前には似合ってる似合ってる」
にっこりと笑って断言する杏里に彼女がそう言うならと満更でもない気もした帝人王子でしたが、正臣が余計なひと言を言ったせいで起源は急降下し、心の底で(本当に一回新羅さんに相談してみよう)とこっそり決心するのでした。
「とにかく僕はまだ結婚相手なんて決めるつもりはないからね」
「おいおいどこ行くんだよ?」
「味噌だれ焼き鶏あるみたいだから取ってくる」
(相変わらず王子のくせに味覚が渋いな)
心の中て呟きながら正臣は「色気より食い気かよー」と帝人王子をからかって杏里と一緒に見送りました。
◇◆◇◆◇
(まったく、いくら僕のためだからってこんな非日常は望んでないよ・・・)
歩きながら遠巻きにダンスや談笑を楽しむ女性たちを見て帝人王子は思いました。
正臣が本当は何の変化もない城での生活に退屈していた自分のために、この舞踏会を開いたということは分かっています(まあ軟派目当てだというのも本当でしょうが)。ですが望んでいたのはこんな煌びやかな世界ではないのです。もっと見ているだけで興奮するような、わくわくするような・・・。
帝人王子はそこまで考えてやめました。自分が求めているものが曖昧なものでしかなく、しかもそんな非日常が城にいる自分の前に現れるわけないと諦めたのです。
しかし角を曲がったその瞬間・・・。
◇◆◇◆◇
作品名:これも一つのシズデレラ 作家名:千華