【東方】東方遊神記9
「ハイ❤・・・え?」
御影に触れていた手が離れた瞬間我に返ったにとりは、今御影が言ったことを思い返してみて、全身の血の気が一気に引いていくのを感じた。
「がんばってね、にとり。あなたは幻想郷の歴史を変えるのよ。手伝いはできないけど、あたし応援してるから!美里も何か言ってあげて頂戴」
これまで一度も口を挟まず傍で見守っていた美里は、話を振られて静かに口を開いた。「天魔様の期待にこたえられるよう、また己の夢を叶えられるよう肝胆を砕いて課題に取り組むように」
肝胆を砕くというのは、要するに物凄く一生懸命であることの意味である。
「ちょっ、待ってください!いくらなんでもそれは無理です!」
にとりの反応は当然だ。言ってみれば、歴史に名を残せと命令されたようなものなのだから。
「あら~?何にもしないうちから無理だなんて、天才技術師『河城 にとり』の言葉とは思えないわねぇ~」
「ちゃかさないでください!いくら天魔様の御命令でも、私にだってできることとできないことがあります!」
またにとりが興奮状態になってきた。
「あら?ねぇ美理、あたしいつ命令なんてしたかしら?」
御影は興奮しだしたにとりはそのままに、なんの悪びれも無く美理に訊く。
「いいえ、天魔様は何もお命じになっていません」
美理も淡々と返している・・・様に見えて、実は口元が少し笑っている。どうやらにとりの反応を面白がっているようだ。
「そっ、そんな!?」
「もう一度言うわよ。今言ったのはあくまで私が出す課題。期限は無期限。あたしは手伝わないけど、誰かに手伝ってもらうのも可。にとりが本当に無理だと思うなら、別にやらなくてもいい。そのかわり、研究レベルは現状維持ということになるわね」
「むしろこれは天魔様の最大限の譲歩だ。あとはおまえ次第ということだ」
御山のトップとその側近にこうまで言われては、にとりのほうにも意地というものが出てくる。それにこれは、見方を変えれば御影がにとりにならできると信じてくれていることに他ならない。御山の頂点に君臨する御方がだ。にとりは自分の中のチャレンジスピリットがどんどん燃え上っていくのを感じた。覚悟が決まった。
「・・・わかりました。その課題、見事達成してみせます」
そう言うにとりの言葉はとても力強かった。
「うん、頑張ってね。老人たちや、里の皆を説得するのはかなり厳しいと思うけど、あなたにならできるわ。・・・さてと・・・」
御影は壇上に戻ると、一息つきながら言った。
「長くなっちゃったし、今日の所はこれくらいにしましょう。部屋の外にいる方々もお待ちかねのようだし、あなたも早速今後の計画を立てたいでしょ?帰りがてら、その方達に中に入っていただくよう声を掛けてくれないかしら」
美理もいつの間にか元居た位置に控えていた。
「それは構いませんが、どなたが来ておられるのですか?」
「ふふふ、行けばわかるわ。ともかく今日はお疲れ様。頑張ってね、期待してるわよ」
「はい!」
にとりは最後元気よく返事をすると、御影に一礼して謁見の間を退出した。
作品名:【東方】東方遊神記9 作家名:マルナ・シアス