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現実を嗤う

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02.街は眠りについたまま


子供の頃から、綺麗な顔をした少年だと思っていた。一度口に出して「君は綺麗な顔をしている。」と言ったら、当時十二才だった彼は本気で怒った。それまでは目立たなかった、父親譲りのプライドの高さを思わぬところで垣間見た瞬間だった。俺はトランクスが赤ん坊だった頃から知っているから、ある種父親のような感情も持っていたのだと思う。
一人、また一人と身内が亡くなっていくという酷い状況の中で、俺がまっすぐに育つ事が出来たのもきっと彼のおかげだ。これからどうなるか解らない世界の中でも無邪気に笑う幼いトランクスを、ひたすら守りたいと思った。守るために強くなろうと決めたし、だからこそ彼を鍛えなくてはならないと思い、彼が幼い頃から修行をつけてきた。だけど俺は、それがたとえ彼を守るために必要なことであっても、修行の中でまだ美しいままのトランクスの体に傷がつくことがとても嫌だった。そんな気持ちを抱く時点でもはや父親とはかけ離れていたのだろう。今となってはそう思う。だけど当時はそんな事を考えている余裕すら無かった。だから彼が時折、何かを言いたげに俺を見る目に応える事も出来なかった。本当は何を言いたいか分かっていたくせに、そこに触れたら全てがなし崩しになってしまうようで怖かった。

俺が死んで、彼は一人になった。俺がいなくなった世界でトランクスは孤独に戦いを続け、その体の傷は増え続けた。彼の命を守るために選んだ選択が間違いだったのかもしれないと悔やんだ日もあった。だけどトランクスは立派に成長し、ブルマさんとも協力して未来を守った。良かった、と安心したところで俺は生き返る事になった。ブルマさんの提案で過去にいるお父さん達の協力の下、この世界にもドラゴンボールを復活させ、俺を呼び戻す事に決めたのだという。生き返った俺には何故かあの世での記憶が無かった。今まで起こったこの世界での出来事は、まるで映画を見たかのように覚えているのに。幸いな事に、肉体や精神は長い年月を生きた者のように、年相応だった。よく分からないけれど、誰かが気を利かせてくれたのだろうと漠然と思う。

生き返ってすぐ目の前に、彼は立っていた。目の前で呆然としているその人物は確かにトランクスだった。初めに思ったのは、背が伸びたな、ということ。次に湧出たのは、愛おしいという感情だった。

「トランクス。」

名前を口に出すのも久し振りだった。久しぶり、大きくなったね。と続ける。俺の言葉を聞くと、くしゃり、と一瞬目の前の青年の顔が歪んだ。泣くのだろうか、と思ったら気を失ってしまった。
俺はブルマさんの命によりすぐにその体を抱えて、復興作業中のカプセルコーポレーションの医務室へと運ぶ。すっかり大人になったトランクスの体の運びながら、やはり俺は愛おしさを感じるのだった。


(世界は変わろうとも俺の世界はまだ、)

作品名:現実を嗤う 作家名:サキ