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無人島に持っていきたいもの

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 たらふく食った後のような満足顔でそう言われ、腹立ち紛れに蹴り上げた足はあっさりとゾロに掴まれてしまった。あらぬ所が痛むせいで、微妙に腰に力が入らなかったのだ。
 ゾロの言い分に、まさかコイツおれの事便所扱いするつもりじゃあるまいなと危惧したりもしたのだけれど、結果的にはそれは全くの杞憂に終わった。その後もゾロは特に態度を変えるでもなく、互いの距離に特別な変化も生まれなかった。
 ただ、空島の時と同じように、激しい戦闘を終えた後にだけゾロは様子を変えた。あの夜、ラウンジで見た彼の目と同じ光がその目に宿り、サンジの腕を強く引いた。そして確認でもするようにサンジの目を覗き込み、にやりと笑うのだ。それが合図だった。
 多分、自分もあの夜と同じような顔をしているのだろう。ゾロが手を伸ばしてくるのは、決まってサンジもあの時と同じような熱を抱え込んでいる時だった。
 だからこそ、乱暴な手に逆らう気が起きず、流れのままに身を任せてしまったのだ。
 まあ、いいか。
 朦朧とする頭は正常な判断を失い、身の内に籠もるやり場のない熱をどうにかして解消してくれるなら好きにすればいいと、身体中から力を抜いた。
 そんな事が、ほんの数回。
 そこに特別な意味や感情などはなかった。ただの性欲処理に過ぎなかったのだ。年頃の男女が乗り合わせているにしてはあまりにも健全すぎるこの船で、他に方法がなかったからそうしただけの話だった。自分は勿論の事、ゾロの方も同じだったろう。
 だが、あまり深く考えもせずに欲求のままに流されてしまった事を、その後サンジは深く悔いる事となった。
 あの地獄のような島での話だ。
 思い出すだけで震えが来そうなくらいおぞましい姿をしたオカマ達が、口々に言っていた言葉がどうしても忘れられない。

 『あなたもそう?』
 『そうなんでしょ?』

 あんな連中に、たとえ一時でも自分は『同類』だと思われたのだ。それがサンジにとっては耐え難かった。
 その後努力に努力を重ね、男らしい自分を見せつける事で彼らの誤解を解く事は出来た。だが、最初に受けたダメージは未だ深くサンジの胸をさっくりと貫いている。
 どうして『そう』だと思われたのか。
 男の中の男を自称するサンジにとって、それは屈辱以外の何物でもなかった。だが、彼らからの指摘がこれほどまでに深くサンジを傷付けたのは、自分の中に疚しい部分があるからでもある。
 ゾロとしていた行為。
 その行為の名残が、どこかから滲み出ているのではないかと気が気ではなかった。そういう連中同士にだけわかる何かが無自覚のうちに自分からも漏れ出てしまっていたのではないか。そう考えるとたまらなかった。
 もう二度と、あんな事はしない。
 その固い決意の下に、サンジはシャボンディ諸島へと戻ってきた。
 たとえどんな衝動に突き動かされても、絶対にゾロの誘いに乗ったりはしない。元々自分達はただの仲の悪い仲間同士でしかなかったのだ。そんな自分達が、たった数度とはいえあんな行為に耽ってしまった事自体どうかしている。
 今なら、今のこのタイミングなら、きっと無かった事に出来る筈だ。この二年で鍛え上げられた精神力をもってすれば、あんな欲求などいとも容易くねじ伏せてしまえる事だろう。伸ばされるあの手をさらりとかわし、ただ一言言ってやればいい。もうああいうのはナシだ、と。
 いや。
 それ以前に、あの男もそんな事をする気はもう起こさないかもしれない。
 この二年で、自分は見た目も中身も以前よりずっと男らしくなっているはずだ。まだ少し幼い部分の残っていた二年前のサンジならばともかく、今の自分をそういう対象として見る事はあの男も難しいんじゃないだろうか。
 ゾロが特別男に興味があるわけではない事は知っている。見るからに金で買いましたといった感じのレディを連れて、連れ込み宿にしけ込む現場を目にした事があるからだ。
 そんな男が、耐え難い欲求に苛まれた挙げ句の事であっても、今の自分に手を出したりするだろうか。いや、それ以前に、今のゾロはあんな欲求など易々と押さえ込めてしまえるのかもしれない。自分が二年で成長を遂げたように、ゾロもまた成長を遂げているはずなのだ。身も心も、それこそ左目を失ってしまう程の修行を終えて。
「………………」
 あの左目の傷は、一体どんな状況で付けられたものなのだろう。
 聞いてみたい気もするのだけれど、未だに聞けないままだった。触れて良いのかどうか、判断が出来なかったからだ。
 ゾロ自身はさして気にしていないようにも見えたけれど、あの男にあんな傷を作るなどそう簡単な事ではないはずだ。一体誰に、どんなシチュエーションで付けられた傷なのか。そして、戦う上でその傷はハンデにならないのかと聞いてみたかった。
 あの傷の事を思うと、なんとなく気分が暗く沈んでしまう。
 世界最強を目指す男があんな傷を負って、変わらず夢を追い続ける事が出来るのだろうか。強くはなったのだろうと思う。けれど、弱くなった部分もあるのではないかとそればかりが気になった。
 サンジの顔を見て愉快そうに笑うゾロに、強く文句を言う気が起きないのはそれが一因でもあった。何かを言おうとすると、あの傷がどうしても目に入ってしまう。そうするともう駄目だった。言葉の切っ先が鈍り、何を言えばいいのか良くわからなくなってしまうのだ。
 聞きたい。でも、聞きたくない。毎日がその葛藤の繰り返しだった。
 ゾロが以前までの彼に戻り、サンジから興味を失えば聞く事も出来るのだろうか。宴の最中にでも、何でもない話のようにして。
 今はまだわからない。ただ、早く今の自分に対するおかしな興味をなくして欲しいとそれだけを強く願った。日に何度も目の前であの傷を見せられるのはたまらなかった。見ているだけで、心臓がきゅっと締め付けられるような感じがするのだ。
 気が付けば、ここの数日ずっとゾロの事にばかり気を取られているような気がする。折角あの地獄を乗り越えて来たのだから、もっと存分により麗しくなったレディ二人にうつつを抜かしたい所だというのに。
 ぶんと首を振りつつ、手元の作業に意識を戻した。二年が経ち、以前より更に旺盛になった船長の食欲を満たすために、今から大量の下拵えをしなくてはいけないのだ。ぼんやりしている暇などない。
 ウソップ達の手によって釣り上げた青魚を凄まじいスピードで捌きながら、サンジは苛立ちに小さく舌打ちを漏らした。早く飽きろ、通常営業に戻りやがれ。罵るように胸の内でそう呟きながら。