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ありえねぇ !! 5話目 前編

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昨日、衝撃的なホモ事件に精神的に大ダメージを食らった彼は、延々とぐすぐすすすり泣く帝人の首を、面倒良くあやし続けて寝かせたのは良かったが、己自身が悶々として眠れず、結局日が昇るまで眠れなかったのだ。

今日の仕事は昼からだったと、安心と疲れ混じりのぐしゃぐしゃな気分そのままで、布団を頭から被ってからまだ三時間。
寝起きは当然、最悪である。

「……うぜぇぇぇぇ!!……」

携帯は先日購入したばかりだ。
壊さないようギリギリと歯軋りしながら、彼にしては優しく掴んだつもりなのに、それでもミシリと機械は悲鳴を上げやがる。
(壊れるんじゃねーぞ、根性見せやがれ)

くだらない用事なら、誓って相手を殴ろうと思いつつ、寝転んだままディスプレイを見てみる。
トムからだった。

「あー、……はよっす。何かありました?」

『ん、おはよ静雄。実はな、昨日あれから俺、ミカドちゃんが作ってくれたリストの客五十人にさ、片っ端から電話掛け捲ったんだわ。留守番電話とかにバンバン『人事部にチクるぞ』とか『嫁さんの実家の親から貰うわ』とかさ。そしたら月曜日の朝一番に、うちの会社に入金してくれたのが三十三人もいてなぁ』

「……すげぇ確率じゃないっすか……」

回収作業が迅速に進んだにも関らず、トムの声は気だるげだ。
静雄の動物的な勘も、『何かありやがったな』と、嫌な警報を鳴らし始める。

『このミラクルに、社長以下、俺らの同僚や事務の姉ちゃんもびっくりで』
「そりゃ、そうっすね」

『どんな手段を使ったのか、吐けと……、社長達が会社で手ぐすね引いてお待ちかねだ。ミカドちゃんの件、ちょっと隠しておけねぇ。あの子は優秀すぎたべ』

大恩あるトムだが、イラッときた。

「……俺、一昨日、あいつになるべく汚ぇ世界を見せたくねぇって、回収の初っ端に、はっきりトムさんに言いましたよね?……」
『おう。だから今、お前から許可取ろうと思ってな。悪いようには絶対しないから、この件は俺に任せてくんねーか?』

電話をかけてきたのはきっと、面と向って話したら、静雄がキレて話にならないと判っていたからだろう。


『静雄を慕ってる高校生に、小遣いやってちょっと協力してもらったって事で、話を旨く纏めるつもりだべ。お前が保護下に置いているガキだってきっちり言っとけばさ、社長達も今後ミカドちゃんを利用したいとか、連れて来いなんざ絶対思わねぇだろう。っつー訳で、会社で切れるなよ。頼むわ』
「竜ヶ峰の名前は出さないんっすね?」
『ああ、そのつもりだべ。お前達が来るまでには、嫌な雰囲気を払拭したいんだが、ちょっと時間的に無理そうなんで、すまんな。そういう事で』
「……判りました……」


前もって言ってくれれば、静雄だって多少は我慢できる……筈。
今日は帝人の首を、会社に連れて行くのは止めた方がいいかもしれない。
出社予定は13時からなので、まだまだ時間はある。
早速セルティに、首幽霊を預かって貰えるかと、ぽちぽちとメールを送っておく。

今ので完全に目が覚めてしまった彼は、かしかしと頭をかきつつ、むくりと身を起こした。
布団を跳ね除けて立ち上がると、何故か鼻腔をコンソメのいい匂いが擽った。

「……あー、そういや、竜ヶ峰がいねぇな……」

昨夜、帝人の首を抱え込んで寝た筈なのに、朝食を作ってくれているらしい。
パジャマを脱ぎ、バーテンシャツとスラックスを履き、黒い手袋を嵌める。
この家には包丁とまな板と電子レンジしかないのに、どうやって料理しているのだろう?
首を傾げつつ、タバコを咥え、大股でキッチンへ向う。
ひょいと覗き込んでみると案の定、帝人の首幽霊が、真っ黒いタコ姿になって、ズモズモと影でできた触手を駆使し、料理中だった。


…………あの見てくれは、まだ心臓に悪い………


まな板でサンドイッチを作りつつ、一回も使った事がない、ガスコンロの焼き魚用グリルで、何かを焼いている。
覗き込んで見ると、新羅の所で使ったデミグラスソースと蕩けるチーズをたっぷりかけた、チーズハンバーグが、炎に炙られぐつぐつと音を立てていた。

「……煮込みハンバーグか。へぇ、鍋もフライパンも無いのに、すげぇ。よくコレだけのモン作れるよな、お前」
《おはようございます静雄さん。静雄さんの手持ちのお皿の中に、調度グラタン用の耐熱皿があったから、活用してみました♪》

帝人の首は、元気な声と裏腹に、青ざめた顔のまま、ぽよんとその場で力なく一回跳ねただけだ。

「竜ヶ峰、顔色悪いぞ。もう少し寝てた方がいいんじゃねーか?」
《あははは、忙しくしてる方が、頭使わなくて済むからいいんです。今はホント、働かせて下さぁい……。でないと思い出して……、また泣いちゃいそうで……》

彼は雑念を振り払おうとしてか、ぷるぷると勢い良く首を左右に振ると、カラ元気で完全武装し、アルミホイルを器用に何層にも重ねだす。
それを鍋型に丸深く作ったと思えば、その中に、マシュマロとバターを落とし、火にかけた。

ガスコンロでじわじわと火にあぶり、ちょっと茶色い焦げ目をつけてから、その液をスプーンに絡め、用意した氷の上にぽんと置いて冷やしていく。

「何作ってんだ?」
《生キャラメルもどきです。はい味見、美味しいですよ♪》

口の中に銀の匙を突っ込まれる。
熱いかもと身構えたが、氷で程よく冷やされていており、甘みも滑らかで舌に柔らかく、ふんわりと蕩ける。
モゴモゴと口を動かして味を確認する。

「おいおいおいおいおいおいおい!! 本当に生キャラメルじゃねーか!!  前に食べた事務の姉ちゃん達の北海道土産と、ほぼ遜色ねぇってどういうことだ?」

首幽霊はそのまま、伸ばした影でぷるぷると震えながら冷蔵庫の扉をこじ開けると、中から製氷機を出し、きしゅきしゅと音を立てて捻る。
取り出した中身を見れば、それらは一律、ミルク色のアイスキューブになっていた。

「それは?」
《バニラアイスクリームもどきです。牛乳とコンディスミルクと生クリームをきっちり三分の一ずつ混ぜて固めただけですが、市販の味とほぼ変わりません。あ、バニラエッセンスが無いから、香りはありませんが》


ぼーと視線は虚ろなのに、影のタコ足はしゃきしゃきと動きやがる。
ガラスの小鉢に適当にアイスキューブと、バナナ一本を八等分に輪切りしたものを盛り付けた後、生キャラメルモドキをくるくるらせん状に絡めて、静雄にほいっと差し出す。


と同時に、電子レンジがチンと音を立てて止まった。
中には、チキンラーメン専用にしていた丼に、コンソメで煮込んだ野菜と卵のスープがあった。
鍋がないから、これで作ったらしい。
すげえ。

《静雄さんの朝ごはん、このぐらいで足りますか?》
「ああ、もう十分だぜ」
今まで朝食はシリアルと牛乳、それか抜きだったのだ。

《では、夜ご飯の下ごしらえにとりかかりますので、ゆっくり食べててくださいね♪》
帝人の首は、虚ろな目のまま、またシンクへとふよふよと浮いていってしまった。


彼が作ってくれたものを、テレビの前のテーブルにずらりと並べてみる。