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ありえねぇ !! 5話目 前編

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ポテトとシーチキンのサラダ、食パン二枚で豪快に具を挟んだ巨大サンドイッチが二つ、デミグラスソースとチーズの煮込みハンバーグ、野菜と卵のコンソメスープ、そしてデザートのキャラメルバナナアイスクリーム。

この家で、昼のファミレスのランチセットと同じぐらいのボリュームのメシなんて。
一人暮らしを始めてから、一度もお目にかかった事がない、豪華なラインナップにもそもそと口をつける。

溶けそうだったデザートを先に平らげ、スープを飲み、サンドイッチを齧る。
味は当然、ファミレスより格段に上。
感動だ。

特にサンドイッチがマジ旨い。
「なんだコレ、海老にアボガドにトマトとレタスと玉葱か?」
変な組み合わせなのに、海老のぷりぷりした食感も面白くてクセになりそうだ。

朝っぱらから、絶対こんなに食べられる訳ねぇないとか思っていた癖に、結果十五分と経たずに完食し終わったのにはビックリだ。

食器をシンクに片付けようと台所に行けば、帝人が顔を茹蛸にしながら、冷蔵庫の扉と格闘中だった。
バーテンベストをクリーニングに出した時、針金細工のハンガーにかかって返ってくるが、それを使って扉に差込み、梃子の原理でこじ開けようと頑張っている。

(ああ、そういえばこいつ、病院の引き戸の扉も開けられねぇぐらい、非力だった)
やんわりと針金ハンガーを取り上げ、冷蔵庫を開けてやる。

「竜ヶ峰、重いもんぐらい俺が開けてやるから、それぐらい頼れ。水くせぇぞ」
疲れ果てた首は、こくこく頷く。
だが、そのままぷしゅううっと空気が抜けるみたいに床に墜落した。

「いわんこっちゃねぇ」
速攻、身を屈め、ひょいっと首幽霊をつまみあげる。

《すいません。私、ちょっと眩暈がして》
「ああ、もう今日は寝てろ。朝から頑張りすぎだ、てめぇは」
《でも、夕ご飯の下ごしらえが……、会社に行く前に用意したいし……》
「起きてからでいい。俺は今日もお前のお陰で、仕事は夕方まで終わるだろうし。だから安心して、お前はイイ子で留守番してろ」

ぽしぽしと黒手袋を嵌めた手で、頭を優しく撫でてやると、蒼白で死んだ魚のような目をしていた帝人の首も、ほんのりとほっぺを真っ赤に染め出した。
《……はい……》
「よし、イイ子だ」

内心は、社内が嫌な雰囲気してるだろう事を、子供に見せずに済んだのに、ほっとしたのだが。
静雄なりにポーカーフェイスを頑張って貫き、そのまま帝人の首がうとうとと眠りだすまで、食後の一服を楽しみつつ、彼の首を膝に乗せ、TVをチェックしながら撫で続けた。



★☆★☆★

同日同時刻の十時。
来良学園は現在、全校を挙げて清掃作業に没頭していた。


明日は三年生を送り出す卒業式だ。
校門は美術部が一ヶ月かけて頑張って作り上げた、造花をふんだんに使ったゲート看板が派手派でしく飾られ、また受付の準備、式場となる体育館は板の間に絨毯を敷き詰め、保護者や来賓用の席の準備等、生徒や教師が一丸となって頑張っていた。

なんせ来良の三学期も後僅か。
スケジュールによると、半日しか授業時間はない。
各クラスに割り当てられた仕事を、準備に遅れが出たからと言って、教師が生徒達を午後も拘束できる訳がない。

なのに、一年の各クラスからは数名、B組みに至っては、ホームルーム終了時から、三分の一の男子生徒が姿をくらませている。
首謀者は、きっと、このクラスに所属する、学年一のナンパ少年だろう。
それが判っていても、教師達は一切何もしなかった。
嫌、できなかったのだ。


紀田正臣は、一年A組の園原杏里と竜ヶ峰帝人という、生真面目なクラス委員の少年少女に囲まれている時だけ、普通の16歳に見えた。
けれど、現状そのどちらも欠けた現在、かもし出す雰囲気は、正に導火線に火がついた爆弾。
五年前の『平和島静雄』か『折原臨也』を髣髴させる、一級トラブルメーカーの扱いである。

園原杏里が学校を辞めた直後、彼がカラーギャング『黄巾賊』のトップだという噂が、まことしやかに職員室に蔓延した。
最初は一笑にふした教師達だったが、日に日に態度が豹変していった彼の姿に、唖然茫然自失する羽目となるのは直ぐだった。

校内でも、いつも黄色の布を身につけた手下を十数人程従え、自在に闊歩する。
笑い顔は、ナンパで飄々とした雰囲気からガラリと代わり、爬虫類を思わせる、狡猾な蛇みたいな印象となった。
掃除をサボる生徒を注意するノリで、安易に彼に難癖をつけた教師は、人前なのに平気で顔面に蹴りを食らって沈められた。
しかも、己が保健室で気絶して寝ている最中、紀田の目線一つでパシリ達がそのまま、目障りな教師の車を廃車になるまでボコり、火達磨にし、消し炭に変えてしまった。

《いくら腹が立ったからって、先生に八つ当たりは駄目だよ、正臣!!》
そう言って、急変した紀田を諫めてくれる、竜ヶ峰帝人が傍にいて、ストッパーになってくれた時は、まだ良かった。
だが、その彼も金曜日に交通事故にあい、意識不明の重体だ。

今日登校してきた彼の形相を見た担任は、『もうこのままお帰り下さい』と、土下座し、泣いて願いたいぐらいだっただろう。
だからこの忙しい最中、紀田が学校で何をしようとも、教師や一般の生徒達は、絶対に関るものかと、無視を決め込んだのだ。


そのお陰で、とんだとばっちりを受ける羽目になったのは、学園一番の馬鹿ップルと噂高い、矢霧誠司と、張間美香の二人だった。



「ぐほぁああ、げふ!!」

第二体育倉庫の裏で、紀田は手下にバリケードを作らせ、ズボンのポケットに両手を突っ込んだまま、延々と矢霧誠司の腹をサッカーボールのように蹴りつけていた。

正直、誠司は今日、紀田に呼び出される予感はあった。
昨日、竜ヶ峰帝人の病室で、二人のとんでもない姿を目撃してしまったのだから。

だが、他人の性癖をどうこう吹聴する趣味もないし、興味もない。
それに竜ヶ峰は一応クラスメイトだ。
だから美香ともども呼び出しを受けた時も、【あの事は絶対言わないから安心しろ】と、一言で話は纏まると思っていた。

なのに、これは何だ?

誠司だって喧嘩は弱い方ではない。
体格だって筋肉だって、紀田より遥かに厚みはあるし、過去、平和島静雄に難癖をつけた事だってある。
なのに、同級生とのタイマンなのに、何で一方的にボロ雑巾にされているのかが判らない。

「もう止めて!! 誠司さんに酷い事しないで!! お願い!!」

泣き喚いている張間美香は、少し離れた場所で壁に体を押し当てられ、両側から男子生徒に腕を取られて拘束されている。

幸い、紀田に女をいたぶる趣味は無いようだ。
だから矢霧誠司を足蹴にし続けているのだろう。
だが、果たして、自分の顔を整形してでも、彼に恋焦がれた少女にとって、どっちが精神的ダメージが多いのだろうか。

「止めて止めて止めてよぉぉぉぉぉ。どうして? 誠司さんとあたしは、竜ヶ峰君の御見舞いに行っただけじゃないのぉぉぉぉ!! なんでこんなリンチ受けなきゃなんないのよぉぉぉぉ!!」

そんな彼女に、紀田はようやく琥珀色の目を侮蔑に歪めて、睨みつけた。

「お前さ、平和島静雄に言ったんだってなぁ。俺達の家に盗聴器しかけてたって?」