二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ありえねぇ !! 5話目 前編

INDEX|4ページ/9ページ|

次のページ前のページ
 

ひくっと、美香の嗚咽がぴたりと止まった。

「お前成績良いけどマジ馬鹿だよな。俺のパシリがうじゃうじゃいる廊下でさ、ベラベラとうぜぇ事抜かしてくれやがって。その様子じゃ杏里んとこでも盗聴やってただろ?
さあここで問題です。『友達』の家にこっそり忍び込んでぇ、盗聴器をつける奴って知った後でもさ、この子は杏里の大事な大事な大事な友達だからよって、友情ごっこを続けるぐらい、俺がアホに見えるか?」

へらへらと口元は笑みを浮かべるが、目は睨んだままだ。
そのままつかつかと彼女の前に歩み寄ると、細い足を大きく振り上げ、がつっと、美香の頭の真横の壁を、狙って蹴りつける。

「俺をなめんじゃねー。例え馬鹿みたいにお人よしの帝人や杏里を言いくるめて許しを得たって、俺は一生絶対お前を許さねぇ。それって友情を木っ端微塵に裏切る行為だよなぁ? なぁ?」

彼は黙り込んでしまった美香の口に手をあてがい、頬の肉を掴んで横に引っ張る。

「いだだだだだだ!!」
「さっきまでぎゃあぎゃあ喚いてた癖にぃ、ダンマリ? はっ、マジうぜえ」

「紀田ぁぁぁぁ!! 美香には……、何もするなぁぁ……!!」
「てめぇはもっとうぜえ!!」

よろよろと立ち上がり、必死で殴りかかった誠司に対し、紀田は腹への足蹴一つで彼をまた床に沈めた。

「誠司さん!! もう止めて、お願い!! 誠司さんがぁ……、誠司さん!!」
「ぎゃあぎゃあ喚くな。次騒ぎやがったら、てめぇそいつらに輪姦(まわ)されるか? 写真撮ってネットに流すぞ」

泣き喚きながら悲鳴を上げ続けた張間美香は、瞬時に口を噤んだ。
そんな女に鋭い一瞥をくれた後、紀田は再び、げしげしに誠司を蹴り飛ばしだす。

「それにぃ、お前の姉ちゃんにはぁ、もう一つ容疑かかってんだよ。俺の帝人を、人使ってダンプに蹴りいれて轢かせたのって、矢霧波江だってぇな。それも、お人よしの帝人がさ、始末されそうになってた張間美香の命を助けて庇って、……その一件の逆恨みだって言うじゃねーか。お前ら姉弟とそこの恋人、三人揃って勝手にドロドロの三角関係を静かにやってりゃいいものを、俺の帝人を巻き込みやがって……、何が【誠司さんは見舞いに行っただけ】ぇ? 籠盛一つで片つくと本気で思ってんの? お前ら最低だよな。なぁ? 」

どかっと腹にもろキックが決まる。
「ゴホッ、ゲボッ………、ゴホゴホ……」
むせた誠司が口に手を当てると、とうとう血混じりの赤黒い胃液がべったりとついていた。
内臓が破裂したら、処置を急がないと人は死ぬ。
これ以上はヤバイ、後数回喰らえば、マジで致死レベルだ。


そんな彼の襟首を、パシリに目配せ一つで引っつかみさせ、顔を上げさせた後、紀田が己の右手中指に嵌っていた銀の指輪を、くるりと回した。
針が仕込まれていたのだ。しかも三センチも伸びやがる。
それを、首筋にぴたりと押し当てられ、誠司の肌がざわりと粟立った。

ごくりと唾を飲み込む。

自分だって、医薬品会社の御曹司だったのだ。
姉も研究室を一つ任されていて、ひっきりなしに研究員を目にして成長してきた。
だから、豆知識程度だけど、自然と医療の事には詳しくなる。

首の真横を走る血管は頚動脈。
そこに刃物で切り付けられれば、まず血飛沫が飛び散り、出血多量で助からない。
だが、針でも危険だ。
長さも結構あるし、刺しどころが悪ければ、十分同じ目に合うのが予想できる。

「……止めろ紀田……、それ、マジで危ないから……、下手すりゃ死ぬ……」
「ああ、お前がな」

うっすらと微笑む彼の目は、正に爬虫類だった。
蛇に睨まれたカエルのように、全身に嫌な汗が吹き出てくる。

「っつー訳でさ、ちょっとお前の姉ちゃん呼んできてくれねぇか? 」
「俺は……、姉さんの居場所なんて……」
「美香ちゃぁん♪ ここにさぁ、こう刃物いれると、人って何分で死ぬと思う? 実験しちゃおうかなぁ、オ・レ♪」


「……はい!! 今直ぐに!!」

羽交い絞めの腕を振り解いた後、彼女は自主的にぴぴぴぴっと携帯をいじくりだす。

「あー、呼び出しのメール文面はこうね。『お義姉さま、私、誠司さんの子供ができちゃいました。どうしましょう? 誠司さんに内緒で相談に乗ってください~♪』 場所は…そうだな。南池袋公園でいいか。遊具がある街燈の下。時間はうーん、夜19時でどう?」

メールが発信され、一分と立たないうちに、折り返しで、仕事が終わり次第に行くと返ってきた。

「あははははははははははは♪」
紀田は狂ったように、哄笑しだす。

「すげぇなお前の姉ちゃん。マジ溺愛されてんじゃん。気色悪い♪」
「姉さんを愚弄するな。家族なら、心配して当然だろう!!」
「生憎、俺達はその『家族の当然』を知らないんだわ。それに、もともとお前の気持ちなんてどうでもいいし」

目に指を這わせたと思ったら、カラーコンタクトを外したようだった。
今まで琥珀色の目だったのに、顔を上げた今の彼は、新宿を活動拠点にしている情報屋、折原臨也と同じぐらい、血の色に変わっている。


充血と違う。
瞳孔部分から真っ赤に変わっている。
嫌、何だこいつは? この禍々しい気配は?
人間とは思えない。

そもそも、こいつは本当に紀田なのか?
一体誰なんだ?


「んじゃあ、お前は今までの事を忘れておけ」

さくっと首筋に針の先が押し当てられる。

ちくっとした痛みから、数秒後。
襲って来たのは凄まじい吐き気と、身を捩るような苦痛、そして…。

愛シテ
ル愛シテル愛シ
テル愛シテル愛シテル愛
シテル愛シテル愛シテル愛シテル
愛シテル愛シテル愛シテル愛シテル愛シテ
ル愛シテル愛シテル愛シテル愛シテル愛シテル
愛シテル愛シテル愛シテル愛シテル愛シテル愛シテ
ル愛シテル愛シテル愛シテル愛シテル愛シテル愛シテル
愛シテル愛シテル愛シテル愛シテル愛シテル愛シテル愛シテ
ル愛シテル愛シテル愛シテル愛シテル愛シテル愛シテル愛シテル
愛シテル愛シテル愛シテル愛シテル愛シテル愛シテル愛シテル愛シテ
ル愛シテル愛シテル…………





ナンダコレハ
ナンナンダヨ一体!!

まるで、肉という肉、血管という血管全てを、蟲がずわずわと這いずり回るこの不快感。
体内で蠢く【愛】の呪い。
体内を切り開く事もできず、気持ち悪い感触に気が狂いそうだ。


「ぐ…あああああああああああああああ!!」
体を掻き毟ってのた打ち回る。
もし刃物をこの手に持っていたのなら、迷わず全身につきたてていただろう。

「誠司さん!!」

涙を流しながら駆け寄ってきた美香に、紀田の皮を被った赤い目の悪魔が、彼女の首にもリングをぴたりと押し当てた。


「お前も、俺に【支配】されとけ。じゃあな~♪」

能天気な紀田の声の後、美香の絶叫が響き渡った。